2019/10/10 長崎市の私道はなぜ封鎖されたのか

こんにちには、日本不動産研究所の幸田 仁(こうだ じん)です。

今回は一見すると???と思われるかもしれない不動産トラブルについて説明したいと思います。それは今年10月上旬、長崎市青山町の住宅地域内の道路(私道)が封鎖されてしまったという問題です。

長崎市の私道を巡るトラブルの概要

この道路は長崎市青山町の住宅地(100世帯以上)に存し、周辺住民が日常的に利用していましたが、実はこの道路は不動産業者が所有する「私道」だったということで、この私道を利用する住民に不動産業者が通行料の支払いを求めたほか、道路の一部をブロックやパイプで封鎖してしまったという内容のものでした。

朝日新聞10月4日付けの報道では「住民によると、私道の所有者が昨年11月、福岡県の不動産管理業者に変更。業者は住民に夏ごろから、月額「1世帯1万円」「車所有なし3千円」「自動二輪のみ所有5千円」などの通行料を住民に請求。9月下旬には「通行料の支払いがされない場合、10月1日から一般車両の進入を禁止する」との連絡があり、「不法に進入された場合には、法的対応を取る」との通知書が届いた」とのことでした。

そもそも「道路」とは?

私達は日常的に道路を利用していますが、この「道路」にはいろいろな種類があるということを知っておくと役に立ちます。特に今回問題となったのは「私道」です。私道に対する道路として「公道」があります。では、公道や私道について簡単に説明してみます。

公道

「公道」について細かく説明すると長くなるので、簡単に説明すると「誰でも通行することができる道路」と考えて良いと思います。私達が日常的に利用する公道は「道路法」という法律によって定められています。道路法とは国や地方公共団体などが、道路の建設や維持管理を適切に行うために作られたとても重要な法律です。

この道路法では道路の種類として4つ定めており、1.高速自動車国道、2.一般国道、3.都道府県道、4.市町村道に区分されます。1の高速自動車国道はいわゆる「高速道路」や「自動車専用道路」と言われるものです。2~4は道路の管理が国なのか、都道府県なのか、市町村なのかの違いによるものです。そして公道とされるものには、このほか農業に利用することを目的とした「農道」や、港湾で建設された道路たる「臨港道路」、森林管理のために建設された「林道」などもほぼ公道と同じように機能しています。

このように公道は道路の管理者が国や地方公共団体、その他の公的な団体等であるものと考えることができます。

私道

これに対して「私道」とは簡単に言えば「私人(個人や民間企業などの法人)が管理している道路」ということになります。今回、長崎市でのトラブルはこの「私道」で起こりました。私道の管理責任や維持管理の関係はいろいろ複雑なこともあり、詳細は割愛しますが、基本的には維持管理は所有者によって行われるものと考えて良いと思います。

建物を建てることができる「道路」とは?

そして、私道と公道の違いとともに知っておくべき重要なことがあります。それは戸建住宅やマンション(共同住宅)を建築するための要件である接道義務(建築基準法第43条)についてです。それではこの建築基準法で定められている”接しなければならない道路”とは、一体どのような道路をいうのでしょうか?。

建築基準法ではこの「道路」を第42条で定義しており(詳しい内容は法律を確認いただければと思います)、簡単に言えば、建築基準法による道路は、道路としての機能性や安全性に主眼がおかれ、公道か私道かということについては厳密に問われていません。

今回の長崎市の問題となった地域周辺の道路を確認してみますと、長崎市が維持管理している公道(下図の朱色の線で記載)のほか、それ以外の道路(私道)も多く存在していることがわかります。このことからも、この地域の多くの住宅は公道以外で接道義務を満たしているということがわかると思います。

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私道の所有者が不動産業者のままになるケースとは?

では、そもそも団地内の道路の所有者が「不動産業者(建設業者)」などの企業であるとはどいうことなのでしょうか?

分譲住宅地の開発は戦後の住宅不足の解消や、首都圏などへの人口集中による住宅不足を解消するために公的団体(かつての住宅公団や住宅供給公社)や民間不動産会社によって都市の郊外に続々とつくられていきました。そしてその分譲住宅地の多くは民間の不動産開発業者などによって開発されました。この民間の不動産開発業者による分譲住宅地の開発方法を以下のイラストで簡単に説明してみます。

まず、①〇▢不動産という民間企業が、大きな土地(多くは原野や雑種地)を購入します(下記イラストの左側)。②この土地は公道に面しているので、その公道につながるように土地を分割し、道路となる部分と宅地として販売する部分に区画割をします(下記イラストの中央)。③その後、宅地部分は個人などに売却されることになりますが、このとき、もともと分譲地全体を〇▢不動産が購入しているため、分譲住宅地の道路となった部分(下記イラスト左側の緑色の部分)は、〇▢不動産の所有のまま「私道」として利用され続けるという状況になってしまうこともあるのです。

もちろん、もっと大規模な住宅団地(〇〇ニュータウンといった数百戸を超えるような住宅地)は、これらの私道は自治体に譲渡され公道になるケースが大半なのですが、古い住宅団地の場合は誰も気付かないまま、私道として残され、さらにはこの私道の所有者(〇▢不動産)は既に廃業してしいるということもあるのです。

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今回のようなトラブルを回避するために

今回の長崎市のトラブルは、私道の所有者(建設会社)と住民との間で発生したトラブルですが、同じような問題は私道の所有者が住民同士の共有である場合にも発生する可能性があります。戦後74年が経過した現在、住宅地が造成・開発されてから半世紀近いという地域も多数見られるようになりました。現在居住している方々は購入者の子供や孫の代になっているところもあることでしょう。今まで何事もなく通行できていた道路なのに、突然「通行料を払ってください」と道路の所有者から言われることは、地域住民にとって不安や混乱を招くことになります。

道路が公道か私道かを確認する

そこで、このような事態を未然に防ぐために、知っておくべきことをいくつかご紹介したいと思います。

まずは、自宅が面している道路や通路(幅4m以上)が公道かどうかを確認することです。公道かどうかを確認するためには、まずは市役所の「道路管理」を管轄している部署に問い合わせてみましょう。市役所の総合案内などで「道路管理を行っている部署を教えてください」といえばすぐに教えてもらいます。道路管理部署にたどり着いたら、自分の住宅がある地図を示して、公道かどうかを調べてもらいましょう。

もし公道(国道や県道、市町村道)ではなかった場合は、その道路の所有者を調べてみましょう。道路の所有者は「不動産登記情報」で調べることができます。管轄している法務局に行くか、登記情報提供サービス(オンライン)で確認することもできます(有料)。

同じ道路を利用している住民同士で問題を共有することも大事です

そして私道であった場合、一番大事なのは道路を利用している住民同士で話し合うことだと思います。万が一、今回のようなトラブルに対しても、住民同士で事前にその経緯や問題点などについて共有しておき、その対応策について検討を進めておくことができれば、私道の所有者としても、それを一概に無視して「通行料を支払ってください」ということは言いにくくなると思います。

地域コミュニティを維持し、共同で利用している道路について話し合うことができる関係を構築しておくことも暮らしを守るためには大切なことだと思います。(幸田 仁)