大橋地区まちづくりの概要

Vol6.『O-Path 目黒大橋』まち・みち一体型まちづくり

Vol6. 『O-Path 目黒大橋』―まち・みち一体型まちづくり―

大成建設株式会社 理事 山口 幹幸 氏

5.13 UPDATE

大橋地区まちづくりの概要

 大橋地区まちづくりは、首都高ジャンクションと東京都の市街地再開発事業による2棟のビルを中心に、半径300mエリアでの目黒区の地区整備事業等からなる。

1)首都高のジャンクション建設

 中央環状線は、首都圏に計画する3つの環状道路のうち都心に最も近い総延長約47kmの道路である。放射方向の道路と接続して都心部の通過交通を分散し、渋滞緩和と目的地のルート選択を可能とする。中央環状新宿線は山手通り地下を走り、首都高3号渋谷線、4号新宿線、5号池袋線を結ぶ。[図2]

 平成19年12月に4号及び5号、平成22年3月に3号の区間が完成。平成26年度には中央環状品川線が開通予定であり高速湾岸線に接続して全線が完成する。中央環状新宿線及び品川線と3号線が接続する所が、大橋ジャンクションである。新 宿線は、玉川通りとの交差部で品川方面に向かい右に急旋回し、玉川通り地下から高架の3号線まで高低差約70mを2重の螺旋を描いて接続する。[図3]

 ジャンクションの敷地面積は約25,000㎡で大橋地区の約4分の3を占める。螺旋状のループは周長約400m、ループの内側にはトンネル内の吸排気用の換気所を設けている。ドーナツ型をしたジャンクションは、ループの大きさからも、イタリアローマにあるコロッセオを彷彿とさせる。

 平成2年8月に都市計画が決定し、平成6年3月に事業承認された。その後、平成11年4月に路線変更、平成16年1月再開発事業導入に伴う道路区域の変更を行った。路線変更では、当初計画は本線山手通りから高低差の大きい地形を利用し、駒場・氷川台の地下を南に進み、大橋付近で地表に現れジャンクションに至る、「駒場ルート」とされる計画であった。平成11年、シールド工法の技術進歩から急旋回工事も可能となり、「山手ルート」という現在の路線に変更した。[図4]

2)地域まちづくりの萌芽

 道路計画が決定され地元は大きな衝撃を受けた。さらなる環境悪化と、当地に住み続けられないとの不安からだ。これに、区は平成4年10月、「大橋一丁目周辺地区整備構想(案)」を作成し、周辺住民等に説明会を行った。[図5]

 構想が住民に希望を与えるものとなり、その後のまちづくりの動きにつながる。平成7年7月、有志による「大橋一丁目街づくり研究会」が立ち上り、ジャンクションと共存できるまちづくりが検討され始める。住民の動きに呼応して目黒区は、平成12年2月、地元、東京都、首都高、都市基盤整備公団(UR)による「大橋一丁目まちづくり懇談会」を設置し、まちづくりの方向や事業手法などの検討に入った。

 この成果をふまえ、平成14年1月、『住み続けられるまちづくり』『周辺との連続性が確保されたまちづくり』『環境に配慮したまちづくり』の3つを柱とする「大橋一丁目まちづくり方針」を決定した。この方針は、地元や事業者が共有するまちづくり指針として、その後も堅持されてきた。

 地権者のまちづくりの熟度も高まり、平成12年1月に研究会の名称を「大橋一丁目再開発準備会」と変え、平成14年4月には「大橋一丁目地区再開発協議会」と改めた。協議会は、事務局を目黒区が支援するかたちで進め、東京都や首都高事業の現況報告や様々な問題の話合いの場として毎月定例日に開催された。平成25年3月の事業完了までの10数年間、通算132回にわたって開かれてきた。

 協議会は再開発の導入を期して発足されている。ジャンクション建設当初から、再開発との一体的整備が考えられていた訳ではない。だが、地権者や区は、再開発事業の実施が不可欠として東京都に強く要望した。首都高も、自ら再開発施行者となることを真剣に検討したが、ノウハウが乏しいことに加え、民営化の動きや道路開通目標が迫っている事情から実施には至らなかった。一方、東京都はバブル崩壊後のこの時期は新規事業を中止し、既存再開発の多額負債を解消する再構築の真只中にあった。各方面の強い要請に加え、3環状整備が都市再生の根幹に係ることから、首都高との協定のもと、平成15年1月に施行者の意向表明したのである

3)東京都による市街地再開発事業

 再開発は平成16年1月に都市計画を決定し、平成17年3月に事業着手した。その区域はジャンクションを含む約3.8haで、建築敷地は約8,920㎡と全体の約4分の1にすぎない。

 玉川通りに面し2棟の再開発ビルを計画した。山手通り支線側に通称1-1棟(アクロエアタワー)。高さ約155m、地上42階地下2階、延べ面積が約83,590㎡の建物で、店舗、事務所、住宅、区の公共施設を配置。もう1棟は、目黒川沿いの1-2棟(プリズムタワー)。高さ約100m、地上27階地下2階、延べ面積が約18,380㎡、店舗、事務所、住宅を配置している。住宅の総数は約900戸。再開発を通じて、目黒川沿いと東側の既存道路の拡幅、3か所の広場整備が行われた。事業スピードアップのため、生活再建の助言等に「事業協力者」を、民間資金等を活用した「特定建築者制度」を導入した。[図6]

4) 目黒区の大橋一丁目周辺地区整備

 再開発の導入で居住継続が叶えられても、住民の『居住の場』、また目黒区北部地域の『生活拠点の場』に相応しいものでなければならない。目黒区は、地元区として、住民の生活再建や地域まちづくりに責任ある立場である。財政力の乏しいなか、自ら主体となる大きな公共投資はできない。だが、地権者などの思いを受け止め、東京都や首都高の協力を得て、有効な施策を推進する必要もある。 こうして、各主体との調整をふまえ実現可能な整備の方向性をまとめたものが、平成17年12月の「大橋一丁目周辺地区整備方針」に掲げる18のアクションプランであり、スケジュール等を具体化した実施計画が、平成19年3月の「大橋一丁目周辺地区整備計画」である。[図7]

 

目次

  1. はじめに
  2. 大橋地区の概況
  3. 大橋地区まちづくりの概要
  4. 固有性まちづくりの設え
  5. おわりに