不動産研究 59-3

第59巻第3号(平成29年7月) 特集:持続可能な都市・居住機能を誘導する立地適正化計画と不動産

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特集:持続可能な都市・居住機能を誘導する立地適正化計画と不動産

コンパクトシティの本格的推進
 -立地適正化計画制度の活用-

国土交通省 都市局 都市計画課

 市町村のコンパクトシティの形成に向けた取組を推進するため、平成26年8月に改正都市再生特別措置法の施行、及び立地適正化計画制度が創設され、既に約100都市が立地適正化計画を公表している。本稿は、立地適正化計画制度創設の経緯や作成状況について紹介するとともに、計画を策定または検討を進めている各市町村の方々と意見交換を行ってきた中で浮かび上がってきた計画作成に当たっての留意点や支援に関する取組について紹介する。

【キーワード】コンパクトシティ、立地適正化計画
【Key Word】Compact City, Siting Optimization Plan

 

立地適正化計画の実態と都市機能誘導のあり方

首都大学東京 都市環境科学研究科 都市システム科学域 教授 饗庭 伸

 コンパクトシティの実現を目指すため、近年に多くの計画制度が創設された。その中心的な制度と目される立地適正化計画を自治体主導でやや規律的な「コンパクトシティ」の実現を目指す計画制度としてではなく、都市空間への投資を自治体も民間もコンパクトなエリアに集中させるためのダイナミックな計画制度としてとらえ、そのための方法を論じ、具体的な方法を解説した。

【キーワード】人口減少社会、コンパクトシティ
【Key Word】population reduction society, compact city policy

 

土地を切り捨てないコンパクト化のあり方

東京工業大学 環境・社会理工学院 教授 中井 検裕

 本稿は、立地適正化計画の課題として都市のコンパクト化に伴う土地利用の空白化への対応が十分でないことを指摘し、このことに向けた議論の第一歩として国土審議会土地政策分科会の報告書を取り上げ、そこでの議論をもとに、土地を切り捨てないコンパクト化のあり方を論じたものである。まず、都市内の緑地、農地についてその保全が重要であることを指摘した上で、空き地・空き家の創造的活用として隣地の買い増しについて議論している。さらに、コンパクト化によって広く豊かな土地利用を実現するためには、区画を拡大させながら空き地・空き家を集約する事業的手法が必要であるとし、土地区画整理事業の可能性を特に事業費の点から検討している。そして、広く豊かな土地利用の実現における公共団体の役割の拡大を提言している。

【キーワード】立地適正化計画、都市のコンパクト化、都市内農地の保全、隣地買い増し、土地区画整理事業
【Key Word】Location Rationalization Plan, Compacting of City, Conservation of Urban Agricultural Land, Purchase of Adjacent Lot, Land Readjustment Project

 

立地適正化計画の推進にあたっての課題
-策定に従事する現場の声から垣間見える地方都市の悩みと実情-

株式会社URリンケージ まちづくり計画総括役(兼)都市整備本部 計画部長  三田村 喜己男

 立地適正化計画策定について、市町村の担当者は当初から戸惑いを隠せず、必要性を意識はしていても本質的なことを理解しきれていなく、また、策定を支援する都市計画コンサルタント等の方も、残念ながら専門家としての指導力に欠けていたり、公共団体と同じように理解不足の感も否めなかったようである。反面、しっかりとした問題意識の下に取り組んでいる市町村も多くあり、先行的に取り組んでいた富山市では、中心部の地価が上昇するなど、明確な効果が発現されている。本稿では、担当者の生の声から、期待通りの成果がなかなか発現できていない背景と、今後間違いなく訪れる人口減少社会に相応しい都市のカタチや考え方を議論し、実践するための視点を、筆者の主観を交え記述したものである。

【キーワード】建前と本音、戸惑いと悩み、意識不足、経営の視点、小さく成長、不断のアクション

 

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(平成29年3月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は平成29年3月末現在の「市街地価格指数」を5月23日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均で前期比(平成28年9月末比、以下同じ)0.0%となり、下げ止まった(前回0.1%下落)。
  • 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、「東北地方」で前期比0.1%上昇となり、24年半ぶりに上昇に転じたほか、「関東地方」、「近畿地方」、「九州・沖縄地方」で上昇傾向となった。その他の地方においては下落が続いているが、下落幅は縮小傾向にある。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均で見ると、「東京圏」は前期比0.6%上昇(前回0.6%上昇)、「大阪圏」は同0.5%上昇(前回0.4%上昇)、「名古屋圏」は同0.3%上昇(前回0.2%上昇)となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比1.4%上昇(前回1.5%上昇)、住宅地が同0.6%上昇(前回0.7%上昇)、工業地が同1.8%上昇(前回1.3%上昇)、全用途平均で同1.1%上昇(前回1.1%上昇)、最高価格地が平均で前期比3.1%上昇(前回4.6%上昇)となり、上昇傾向が続いているが上昇
    の勢いは弱まりつつある。
  • 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、投資市場における取得競争の活性化、外国人観光客の増加等による繁華性の高まりをうけ、上昇傾向が続いている。
  • 今後については、「全国」では概ね今回と同程度の地価動向が継続する見通しである。三大都市圏の最高価格地では、地価は上昇傾向が継続するが、上昇幅は縮小していく見通しである。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率           
 最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

キーワード:市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

 

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測
(2017~2020年、2025年)・2017春について

金 東煥・手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2017~2020年、2025年)・2017春」を4月27日に公表した。まず成約事例を多数収集し、共益費込み賃料のヘドニック分析を行い、その結果を利用してヘドニック型の賃料指数を作成する。次に実質GDP、法人企業の売上高等を使ってオフィス床の需要量及び供給量、賃料指数を求める式を推定し、オフィス賃料変動モデルを構築する。上記モデルで、日本経済研究センターのマクロ経済の予測結果、新規供給量の予測結果等を前提に、2017~2020年及び2025年の賃料及び空室率の動向を予測する。なお前回に引き続き、日本経済研究センターの中期経済予測で標準シナリオと改革シナリオの2通りの予測を行ったことを受け、オフィス賃料予測も2通りの予測結果を公表する。予測結果は、①東京のオフィス賃料等の主な動向は、2018年まで賃料は上昇を維持するが、2018~2020年の大量供給により空室率が上昇し、賃料はやや下落する。2021年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは2%前後上昇が継続する。②大阪のオフィス賃料等の主な動向は、2020年まで新規供給が少なく、賃料は2~6%上昇が続き、空室率は2020年に3%半ばまで低下する。2021年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは1%前後上昇が継続する。③名古屋のオフィス賃料等の主な動向は、2017年の大量供給による影響は小さく、空室率がわずかに下落し、2020年までの新規供給の少なさによって、空室率が低下し、賃料は上昇する。2021年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは2%前後上昇が継続する。

キーワード : 賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

最近の不動産投資市場の動向
-第36回不動産投資家調査結果(2017年4月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第36回不動産投資家調査」の結果を2017年5月23日に発表した。
調査結果(2017年4月)の概要は以下のとおりである。

  • 不動産投資家の期待利回りは、「低下」と「横ばい」とが混在する結果となった。東京は、オフィス「丸の内、大手町地区」、賃貸住宅「城南地区」、物流施設「江東地区」、ホテル等が前回比で0.1ポイント低下し、いずれも、本調査の開始以降最も低い水準を更新した。しかし、同じ東京であっても、オフィスの「日本橋」「赤坂」「港南」「西新宿」「渋谷」「池袋」や、賃貸住宅の「城東地区」、商業施設の「都心型専門店」「郊外型SC」などでは前回比で横ばいとなり、期待利回りが下げ止まった。東京は期待利回りが過去最も低い水準の領域に入り、一部に投資市場の過熱が指摘されつつある中で、不動産投資家の選別の姿勢が現れ始めた。一方、地方については「郊外型SC」に下げ止まりの傾向があるが、それ以外の用途では多くの地区で低下が続いた。東京と比べると高い水準にある地方では期待利回りの下げ傾向が続いている。
  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」の回答が88%で前回比3ポイント上昇し、「当面、新規投資を控える」の回答が9%で前回比2ポイント低下した。前回調査では不動産投資家の新規投資意欲がわずかに減退し踊り場にさしかかったが、今回調査では再び持ち直し、全体としては不動産投資に対する積極的な姿勢が維持された。

キーワード : 不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

 

論考

バブル期の住宅地地価動向についての考察
-日本の土地バブルを全国の都市住宅地からみて-

中島 正人

 日本のバブル期の住宅地における地価高騰と下落の経過について、「市街地価格指数」住宅地価格データを用いて論じた。上位住宅地では、まず首都圏で東京都区部の地価上昇が先行し、首都圏近郊、近畿の住宅地に地価上昇が広がった。また、バブル期の住宅地における地価上昇の倍率は、首都圏、近畿の大都市及び近郊で高く、上位住宅地において中位住宅地より高い傾向がみられた。バブル期以降でみると、大都市圏の住宅地は地価上昇が激しかった反動で大きく下落したが、1999年3月に至っても、9割以上の都市が1983年3月の水準を上回り、中位住宅地では30を超える都市の地価がピークの状態にあったことを明らかにした。これらの都市ではバブル期の地価上昇にさらされなかったために、長期にわたる地価上昇トレンドが持続していたと考えられる。そして、バブルを含むとみられる大都市圏商業地等の地価の調整と地方都市住宅地における地価上昇トレンドの終結、そして、地域における需要減等の構造変化が複合し、長期にわたる地価の下落につながったと考えられる。

キーワード:バブル、住宅地、地価上昇、地価下落、1980~1990年代、市街地価格指数
Key Word:Japan’s Bubble,Residential Areas,Land Prices,Rise and Decline,1980-1990,Urban Land Price Index

中国の不動産流通業の実態に関する研究
-不動産流通関連データから特徴をつかむ-

曹 雲珍・楊 現領・周藤 利一

 本研究は、「中国の不動産流通市場の構造と発展過程に関する研究」の一部であり、中国本土における不動産流通の関連データを用いて不動産流通市場、法整備及び不動産仲介業界を含めた全体像とその特徴を把握するための基礎研究である。

 中国の不動産流通市場は形成されてから30年ほどしか経っておらず、色々な問題を抱えながらも市場が急激に拡大し、2016年の全国不動産流通率は40%にも達した。しかし、都市間の格差が大きく、北京市と上海市のように比較的成熟している大都市に集中している。市場の発展に比べ法整備は遅れているため、おとり広告や規定外の料金徴収問題などが依然として存在している。これらの問題を根本的に解決するためには統一した法制度を整えることが不可欠である。また、不動産取引の安全性を確保するため、法律上にも仲介業者の開業における資格者の在籍要件について規定し、不動産取引における専門資格者を増やす必要がある。

 

キーワード:不動産流通業、不動産流通市場、不動産仲介制度、不動産仲介業者

 

The Appraisal Journal Winter 2017

外国鑑定理論実務研究会

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