不動産研究 61-4

第61巻第4号(令和元年10月) 特集:地価公示、50年

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第61巻第4号

特集:地価公示、50年

地価公示50周年を迎えて
-50年間の地価動向と地価対策、そしてこれからの地価公示-

国土交通省土地・建設産業局長 青木 由行

 地価公示は、適正な地価の形成を目的に、一般の土地の取引価格の指標、不動産の鑑定評価を行う場合や公共事業用地の取得価格の算定に当たっての規準、課税評価の基準等、土地評価に関する制度インフラとして様々な機能を果たしている。バブル経済の崩壊後初めて全国的な地価の回復局面にある中、土地それぞれの立地条件や利便性・収益性に応じて地価が形成される個別化への対応、地価公示鑑定評価書データの公開など、地価公示の更なる機能の発揮に向けた取組を行っている。

【キーワード】 地価公示、バブル経済、公的土地評価の均衡・適正化、地価の個別化

地価公示制度の意義と課題
-経済学の視点からの評価-

日本大学経済学部 教授 中川 雅之

 地価公示制度とは、実際の取引の有無にかかわらず、鑑定評価という技術を用いて、「正常価格」 に関する情報を市場関係者に提供するというものである。地価が大きく変動するために国民生活への影響がはなはだしかった時代に制度は誕生した。本稿では、地価公示の、①バブルのような市場の機能が適正に働かない状態を抑制する機能、②開発事業、政策の執行にあたっての環境質の評価に必要なデータ基盤の提供、という機能に着目して経済学の視点から再評価を試みる。地価公示制度の評価にあたっては、①のような状態が発生する蓋然性、取引価格の公開という代替的な政策との効率性比較という視点が常に求められよう。

【キーワード】地価公示制度、バブル、ケインズの美人投票、環境質の評価

地価公示50年で振り返る地価と街、そして社会経済の変化

一般財団法人日本不動産研究所 理事・研究部長 山本 博英
 同 研究部 兼 国際部 次長 愼 明宏
 同 研究部 主任研究員 平井 昌子
 同 研究部 主任研究員 吉野 薫

 本年、50年の節目を迎えた地価公示は、我が国の不動産市場において欠かすことのできない重要な不動産情報インフラとして定着している。各時点の社会・経済の地理的な状況は地価の分布、ひいては各年の地価公示にも色濃く現れている。翻って、過去の地価公示の変遷を回顧することは、我が国の社会・経済を振り返る上でも有益であると考えられる。本稿は地価公示の結果を様々な角度から切り出すことによって、新たな視点を投げかけるとともに、現在の社会・経済の変化の方向性について考察した。

【キーワード】 地価公示、産業構造、人口動態、住宅地、商業地、工業地、世帯構成と地価、県民所得と地価、地価公示のオープンデータ化

地価LOOKレポートで見る近年の地価動向の特徴

一般財団法人日本不動産研究所 研究部上席主幹 櫻田 直樹

 「主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)」は、全国主要都市の高度利用地等に位置する調査地区の地価変動率と市場概況を四半期ごとに国土交通省が調査し、公表するものである。地価LOOKレポートは平成19年第4四半期に第1回調査が行われ、昨年度で調査期間が11年を超えた。この間の主な社会経済状況の動向に照らし合わせて当該レポートによる地価動向等を整理すると、金融緩和政策の段階的な実施、不動産証券化の進展、都市再生の進展等の影響下にあったことが確認される。また、四半期調査であることによってリーマンショック発生前に地価下落を記録している等、当該レポートの特徴がうかがわれた。

【キーワード】 地価LOOK、地価動向、変動率、四半期、金融緩和

諸外国における不動産の公的評価制度について
-米国・英国・シンガポール・中国・台湾・韓国における不動産の公的評価制度-

一般財団法人日本不動産研究所海外不動産調査研究会

 本稿では、米国、英国、シンガポール、中国、台湾、韓国について、それぞれの国における土地や建物などの不動産に係る価格の公示や公的評価並びに鑑定評価の制度について整理し、各国の特徴について比較検討を行った。

【キーワード】米国、英国、シンガポール、中国、台湾、韓国、不動産、公的評価、鑑定評価

特集インタビュー

黒川 弘氏(地域マネジメント学会名誉会長)
 中島 康典氏(日本不動産研究所グランドフェロー)

 元土地鑑定委員会常勤委員の黒川弘様、弊所グランドフェロー中島康典への特集インタビューを企画し、50年前の地価公示導入時の背景や当時の課題、そして地価公示のこれからに期待することについて熱く語って頂きました。

調査

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2019年1月現在)」の結果をふまえて-

富繁 勝己

 日本不動産研究所は、2019年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2019年9月12日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。

  • 2019年1月現在のオフィスビルストックは、全都市合計で12,969万㎡(10,605棟)となり、このうち2018年の新築が207万㎡(60棟)と200万㎡を上回った。また、2018年の取壊しは77万㎡(91棟)であった。今後3年間のオフィスビルの竣工予定は499万㎡で、そのうち東京区部が7割以上を占める。
  • 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市計で3,236万㎡(3,070棟)と同ストックの25%を占める。都市別では福岡(39%)、札幌(37%)、京都(36%)、大阪(31%)、地方都市(31%)、広島(30%)と続いている。
  • 規模別でみると、10万㎡以上が東京区部で24%と突出して高く、5千㎡未満は地方都市が22%と三大都市・主要都市より高い。築後年数別では、築10年未満が三大都市では15%を超えており主要都市・地方都市より築浅のビルの割合が大きい。また、建替候補となる築40年以上のビルの割合は東京区部では18%と他の都市に比べて少ない。

【キーワード】全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

判例研究(109)

土壌汚染を理由とする解除特約
―名古屋高判平成29年8月31日判例タイムズ1447号108頁―

明治学院大学 法学部教授・弁護士 阿部 満

The Appraisal Journal Spring 2019

外国鑑定理論実務研究会

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