不動産研究 62-1

第62巻第1号(令和2年1月) 特集:2020 東京五輪と東京のこれから

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第62巻第1号

新しい年を迎えて

特集:2020 東京五輪と東京のこれから

「国際金融都市・東京」構想の実現に向けた取組
-東京版金融ビッグバンの実現に向けて-

東京都 戦略政策情報推進本部 戦略事業部 戦略事業担当

 東京都では、東京が世界に冠たる国際金融都市の地位を取り戻すため、『「国際金融都市・東京」構想』を策定し、国や民間等と連携しながら、金融の活性化に向けた取組を推進している。本稿では、「国際金融都市・東京」構想を策定した主旨とその概要を説明した上で、構想の実現に向けた、現在の主要な取組について具体的な内容を紹介する。こうした取組を通じて、東京の「稼ぐ力」を増大させ、2020年以降のサステナブルな東京の更なる成長につなげていく。

【キーワード】 国際金融都市、金融プロモーション組織、東京金融賞、ESG 投資、サステナブルファイナンス

五輪ロスにより日本経済は失速するのか
-五輪終了による景気下押し効果は限定的。レガシーによる新市場創出に好機-

みずほ総合研究所株式会社 調査本部経済調査部 兼 高度デジタル情報解析室 主任エコノミスト 宮嶋 貴之

 2020年東京五輪後に日本経済が失速するとの懸念は根強いが、過去の夏季オリンピック開催国の状況を見る限り、五輪大会終了が主因となって景気が後退、もしくは減速する可能性は低い。アテネ五輪のケースでは、五輪開催準備に向けた建設ラッシュとそのピークアウトが五輪後の景気下押し要因となったが、日本の場合、そもそも労働力不足から建設投資が加速していない。むしろ海外情勢による景気下押しリスクの方により留意すべきだ。このような中で、五輪後に求められるのは成長基盤(レガシー)を築くことだ。五輪は世界最大の見本市と捉えて、訪日客、メディア、インターネットを通じて日本独自の地方の魅力を発信し、例えば地方観光など新たな成長市場の開拓に取り組むべきである。

【キーワード】五輪ロス、建設投資、インバウンド、レガシー、地方観光

グローバルな主要都市との比較における東京の不動産市場
-今後の展望と課題について-

ジョーンズ ラング ラサール株式会社 リサーチ事業部 ディレクター 大東 雄人
ジョーンズ ラング ラサール株式会社 リサーチ事業部 チーフアナリスト 岩永 直子

 本稿ではJLLのグローバルネットワークによる調査結果を基に、前半では現在の東京の不動産市場とその見通しについて、そして後半では世界主要都市との比較について最新の調査結果を用いて考察したい。東京は2020年にオリンピックを迎えることで都心部では再開発が集中しオフィス供給は過去20年で最大の規模が計画されている。また新たな需要としてコワーキング市場が拡大しており働き方にも大きな変化をもたらしている。一方、投資市場では潜在的な市場規模を有しており、取引額にはさらなる拡大の余地が伺える。さらに、世界で激化するイノベーションハブの人材獲得競争において、東京の優位性と課題がいくつか見えており、他の主要都市との比較を用いて展開したい。

【キーワード】 コワーキング、投資市場、不動産透明度、世界のイノベーション都市、都市比較、賃貸市場

東京五輪後の東京の再開発動向
-国家戦略特区と東京の未来図-

一般財団法人日本不動産研究所 本社事業部 副部長 兼 東京五輪関連事業推進室長 阿部 進悦

 2020年のオリンピックを迎え、都心ではこの数年、100年に一度とも言われる再開発ラッシュにより大型ビルの供給が続いている。このような大量のビル供給が行われることになった経済的、政治的、行政的な背景と現政権の経済成長戦略の一つである「国家戦略特区の都市再生プロジェクト」を通して、今後計画されている都市開発とインフラ整備、過去のオリンピック開催国の取り組みからオリンピック後の東京の未来図を紹介する。

【キーワード】 アベノミクス、再開発、国家戦略特区、インフラ整備

縮小しながら高齢化する社会のデザイン
-地方と都市の関係性からの一考察-

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 助教 工藤 尚悟

 日本は若齢増加型社会から高齢縮小型社会へと転換を迎えており、社会の発展や豊かさがどのような意味を持つのかが問われている。本稿は、ポスト2020年以降にも続く縮小高齢社会においてどのような社会のあり方を構想していくのかについて、地方と都市の関係性という切り口からの一考察を示す。一極集中が進む東京圏においては、これまでの規模に依拠した経済や社会の仕組みを維持できるが、人口減少が加速する地方圏では地域固有の質に根ざした自立分散的な社会のあり方を模索していく必要がある。地方が都市のなかに自らの空間を創り出し、都市を介してローカルとローカルがつながって知見交流が起きることで、自律分散型社会が立ち現れてくる。この過程を通じて地方発信の新しい価値観が都市に流れ込むことで、都市の多様性と寛容性が高まっていく。

【キーワード】 縮小高齢社会、ポスト2020、自律分散型社会、一極集中、地方と都市
【Key Word】 Aging and shrinking society, post 2020, decentralized autonomous society, overconcentration, rural-urban linkages

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2019年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

当研究所は2019年9月末現在の「市街地価格指数」を2019年11月25日に公表した。
「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2019年3月末比、以下同じ)0.6%となり、昨年3月の調査で上昇に転じて以降、上昇傾向が続く堅調な動きとなっている。
  • 地方別の地価動向は、全地方とも堅調な動きとなった。「近畿地方」や「九州・沖縄地方」等、国内外からの観光客で賑わう地域では商業地を中心に上昇傾向が継続し、また長らく下落が続いていた「北陸地方」や「四国地方」においても回復がみられた。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比1.2%上昇、「大阪圏」は同0.8%上昇、「名古屋圏」は同0.6%上昇となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比2.8%上昇、商業地で同4.4%上昇、住宅地で同1.2%上昇、工業地で同2.4%上昇となり、全ての用途地域で上昇傾向が継続し、堅調に推移している。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
 最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2019年9月末現在)をふまえて- 

富繁 勝己

当研究所は2019年9月末時点の「全国賃料統計」を2019年11月25日に公表した。オフィス賃料は、調査地点の約半数が上昇で、全国平均は4.0%上昇と上昇幅が拡大した。今回の上昇を2007年のファンドバブル期と比較すると、上昇地点数は上回ったが、5%以上の上昇がファンドバブル期の20地点に対して、今回は13地点と少なく、薄く広い範囲の上昇といえる。共同住宅賃料は、全地点の約8割が横ばいで、全国平均は昨年と同じ0.1%上昇であった。1年後の2020年9月末時点についてオフィス賃料は三大都市圏等で上昇が継続し、全国平均は3.0%上昇と上昇幅がやや縮小、共同住宅賃料は今期と同様に横ばい傾向が継続する見通しである。

【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測
(2019~2025年)・2019秋について

金 東煥・富繁 勝己・佐野 洋輔

「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2019 〜2025年)・2019秋」を2019年10月24日に公表した。賃料予測は、東京・大阪・名古屋のビジネス地区におけるオフィス賃貸の成約事例に基づいて、ヘドニック型の賃料指数を作成し、実質GDP等マクロ経済指標を含むオフィス賃料予測モデルを構築して、2019 〜2025年の賃料及び空室率の動向を予測した。予測結果は、(1)東京のオフィス賃料は、2019 〜2020年の新規大量供給の多くが事前に内定される等の強い需要の影響で、賃料上昇が続く、2021年からは横ばい後、2023年から調整に入り、以降やや下落。(2)大阪のオフィス市場は、新規供給が少なく、需給逼迫が続き、賃料上昇が続く。(3)名古屋のオフィス市場は、新規供給が少なく、需給逼迫が続き、賃料上昇が続くと予測された。

【キーワード】賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

最近の不動産投資市場の動向
-第41回不動産投資家調査結果(2019年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

当研究所は、「第41回不動産投資家調査」の結果を2019年11月25日に発表した。
調査結果(2019年10月)の概要は以下のとおりである。

  • アベノミクス以降、不動産投資市場は活況な状態が続いているが、第41回調査において、不動産投資家の期待利回りは「低下」と「横ばい」とが混在する結果となった。本件調査の代表的な調査項目であるオフィス「東京・丸の内、大手町」地区の期待利回りは3.5%で、4期連続で前回比「横ばい」が継続した。一方、同じオフィスであっても「渋谷」や「池袋」などでは期待利回りが前回比で0.1ポイント低下している。また、オフィス賃貸市場が堅調な地方都市においても「横浜」「福岡」など多くの地区で、期待利回りは0.1 〜0.2ポイント程度の「低下」となった。
  • 今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」が95%で前回よりも1ポイント上昇し、1999年の本調査開始以来の最も高い水準を更新した。一部で不動産投資市場の過熱懸念も指摘されつつあるが、世界的に緩和的な金融環境が続く中、不動産投資家の投資姿勢は積極的な状態が維持されている。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

論考

2020年の不動産市場
-マクロ経済動向から占う不動産市場の見通し-

吉野 薫

2019年を振り返ると、景気の足踏み感が顕著であったものの、不動産市場において特段の変調はみられなかった。内需が底堅さをみせるもとで不動産市況は安定的に推移し、特に地方圏におけるオフィス市場の引き締まりが印象的であった。ここ数年来の「適温相場」が継続したと総括することができる。2020年を見通してみると、市況の過熱化などには十分な留意が必要であるが、これまでのところ不動産市場における変調の兆候は観察されず、引き続き「適温相場」が継続する公算が高い。

【キーワード】適温相場、企業の設備投資、消費税率の引き上げ
【Key Word】Goldilocks, capital investment, consumption tax rate hike

The Appraisal Journal Summer 2019

外国鑑定理論実務研究会

資料

・2019(平成31/令和元)年[第61巻第1号~第61巻第4号]目次一覧

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