第32回 松本

様々な顔を持つ「商都」~24年前と変わらない玄関口~

第32回にっぽん「地価一番」物語 ~全国の中心市街地はいま~ 
住宅新報2010年11月16日号(16面)掲載
日本不動産研究所 松本支所
不動産鑑定士  宮原一繁

「奇麗な」との声の影で

松本市は人口約243,000人・世帯数約99,000世帯で、地理的には日本のほぼ中央部に位置しています。松本市のイメージは、古くからの商都・山の好きな人にとってはアルプス連峰への玄関口・自然の好きな人にとっては上高地や安曇野への経過都市・音楽の好きな人にとっては鈴木メソッドの発祥の地であり小澤征爾氏によるSKFが毎年開催される都市・歴史の好きな人にとっては松本城のある市・総じて観光都市・・・など、いくつもの顔があるようです。そして、初めて松本を訪れた人は、松本駅前の様子を観て、異口同音に、「松本は綺麗な町ですね」とか、「周辺の地方都市と比べて、思っていたより活気が感じられます」等の感想を述べます。多少のリップサービスもあると思いますが、当地に居る者にとっては「そうですかねえ」と答えながらも、まんざら悪い気はしない。

松本駅前の大型商業施設として、井上デパート・松本東急イン・松電バスターミナルビル・スピカビル等が立地していますが、松本市の中心市街地の街並みは、この24年ほど殆ど変わっていないと云えます。それはJR松本駅を中心とした「松本駅周辺土地区画整理事業」が昭和42年度(’67)から平成4年度(’92)に渡り施行され、昭和61年(’86)3月の換地処分により、駅前周辺が整備されたためです。24年以上前から松本市を知っている人はともかく、それ以降に松本市を訪れた人にとっては、松本駅前には殆ど同じ景色が広がっています。「心の故郷」として感じるには、変化が少ないことは、安定感があり、とても大切な要素と云えます。

 
このような松本市において、JR松本駅前広場に面して立地している朝日生命ビルが、地価公示・地価調査の最高価格地となっています。駅前の商店街からは、道路を隔てて立地していますが、当該駅前広場を中心に、半径200~300m程度の範囲の、深志1丁目・中央1丁目界隈が、いわゆる駅前の中心市街地と云えます。


国宝・松本城

 


JR松本駅前広場、南東方向にある市内最高価格地点の朝日生命ビル(右端から2番目)

街並みや景色は殆ど変わっていませんが、駅前の空洞化が指摘されてから随分経ちます。

全国展開している飲食チェーン店舗の進出・格安ホテルの進出・テナントの入れ替え等が相次ぐ中で、昭和54年(’79)に進出した地元の百貨店が、今年(’10)2月に事業縮小のため一部撤退し、その撤退した建物の所有企業が平成22年(’10)5月末に破産手続きを開始したことが、駅前商業地域の斜陽化を象徴しているようです。

 さらに市街地中心部の通行量は減少の一途をたどっており、特に駅前通りの減少が際だっています。駅前のスピカビル前では、平成4年(’92)と比べ△49%の減少となっています。また松本市全体の事業所数は、平成3年(’91)と比べ平成19年(’07)は△24%の減少となっていますが、中心部においても空き店舗が目立って居ます。また深志1丁目・中央1丁目の中心市街地の居住人口は、平成4年(’92)と比べ△24%と減少傾向がはっきりしていますし、年齢別人口も、市全体の動向と異なり、20~24歳までの若年層が極めて少ない傾向にあります。このような変化から、上記駅前の地価公示価格は下降傾向で推移しており、最も高かった平成4年(’92)の2,090,000と比べ、平成22年(’10)の公示価格が333,000と△84%の下落となっています。

駅前が甦る日を期待

このように、極めて厳しい状況下にあるものの、観光地信州の中のあって、松本市への観光客数は、平成21年度(’09)で1,307千人と県下第11位ですが比較的健闘していると云えます。平成22年度(’10)に駅前広場の整備も行われますが、観光事業の振興等により、商都-松本-の顔として輝いていた駅前の中心市街地が、再び甦る日を期待したいものです。

(次回の第33回:にっぽん「地価一番」物語は『新宿』)

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