第34回 札幌

百貨店低迷で入れ替わり~駅前地区との歩行空間に活路~

第34回にっぽん「地価一番」物語 ~全国の中心市街地はいま~ 
住宅新報2010年11月30日号(16面)掲載
日本不動産研究所 北海道支社
不動産鑑定士  市川喜通・幸田仁

札幌市の最高地

札幌市の最高地は、長らく大通の南に所在する「三越札幌店」前であった。しかし、平成18年(’06)を境に最高地価が「大通地区」から「札幌駅前地区」に代わることとなった。

これまでの「大通地区」の最高地は、「三越」「丸井今井」「パルコ」などが集積した百貨店を中心とした市街地にある。この周辺には、四丁目プラザ、狸小路アーケード街、さらに南には日本有数の歓楽街である「すすきの」も控え、ファッション、娯楽を中心とする一大商業地である。

 しかし、顧客吸引の中心である百貨店の売上の長期的な低迷が、当該地区への来客者数の減少を招き、これが地価の下落へと影響した。
「大通地区」から「札幌駅前地区」への最高地の逆転は、下図のとおり平成18年(’06)に起こった。その後現在まで、最高地は「札幌駅前地区」となっている。


「札幌駅前地区」の商業施設。
効率よく建物が配置され集積度が高い。


「大通地区」の商業施設。三越とパルコが並ぶ。
かつての最高地。


現在の「駅前通り」この通りの地下部分に
「札幌駅地下歩行空間」が建設される。

きっかけは札幌駅南口再開発によるJRタワースクエアの完成

最高地が「大通地区」から「札幌駅前地区」に移った大きな契機は札幌駅南口の再開発事業の完成であろう。これまで進められてきたJR札幌駅の再開発事業である「JRタワー」「ステラプレイス」「大丸札幌店」等が平成15年(’03)にオープンした。これらの一連の施設である「JRタワースクエア」(札幌駅の地下街である「パセオ」「アピア」を含む)では、ファッション、映画、飲食、オフィス、娯楽、ホテル、メディカルなどあらゆるジャンルの施設が揃い、寒い時期などは一歩も外に出なくともショッピングを楽しめることから人気を博し、札幌市民のほか、JR沿線の都市(遠くは旭川、苫小牧、小樽など)、観光客等もこの施設に買い物に押し寄せている。このほか、周辺ではかつて大通西1丁目にあった「紀伊國屋書店札幌本店」が平成17年(’05)に札幌駅に隣接する北5条西5丁目に移転するなど、「大通地区」からの移転組も見られた。特に「大丸札幌店」では百貨店業界の長期にわたる売上減少の中、平成15年(’03)のオープン以来売上を伸ばしている唯一の百貨店となっている。JRタワースクエアオープンの地価への影響は大きかった。オープン前までは「大通地区」と「札幌駅前地区」では30%程度の土地価格の差が見られたが、オープン後平成17年(’05)にはその差は6%程度まで縮まり、平成18年(’06)に逆転することとなる。

相次ぐ店舗の閉店、すすきの地区の地盤沈下

札幌駅は、1日平均約8~9万人が利用する駅である。市営地下鉄「大通」駅も1日7万人~8万人が利用している。駅自体の利用客数に大きな差はないといえる。しかし、「大通地区」は大通駅以南から面的に広がっているのに対し、「札幌駅前エリアは」JR札幌駅を中心にコンパクトに集積している点が異なる。「大通地区」では、全体的な売上の不振が目立ち、北海道の顔としてしられてきた「丸井今井」が平成21年(’09)1月に民事再生法適用申請がなされ、同じく平成21年(’09)1月にすすきの地区の中心的な百貨店であった「ロビンソン百貨店札幌」の閉店など、百貨店の業績不振が限界に達した。また、平成22年(’10)8月には、三越が運営している「札幌アルタ」(中央区南1西2)が閉店したほか、「すすきの」の映画館として親しまれた「札幌東宝公楽劇場」が平成22年(’10)8月に閉店している。歓楽街の中心として栄えてきた「すすきの」も飲食店の撤退などにより、行き詰まったテナントビルの取り壊し等が相次いだ結果、その後の再建もなく現在は駐車場として利用されている土地が多く見られる。夜の飲食も以前は「すすきの」が中心であったが、現在はオフィス街から近いこともあり札幌駅周辺にシフトしつつある。ただし、「札幌駅前地区」についても、「大丸」「ステラプレイス」「JRタワー」「エスタ」などが集積するいわゆる「JRタワースクエア」の独り勝ち状態であり、駅前にあった「西武札幌店」が平成21年(’09)9月末に閉店し、「JR札幌駅前エリア」といえども集客力の点で、その影響はごく限られた範囲にあると言わざるをえない。

札幌駅前通地下歩行空間の開通

「札幌駅前地区」の急速な商業集積により、大通公園と札幌駅を結ぶ通称「駅前通り」沿いのビルの開発もみられた。北3条西4丁目では、JRタワーオフィスブラザさっぽろと肩を並べるオフィスビルである「日本生命札幌ビル」が平成18年(’06)にオフィス等が竣工し、次いで「駅前通り」沿いに商業施設棟が平成21年(’09)にオープンしている。また、その南では三井不動産が大型複合ビルの建設を計画しており、テナントには「帝国ホテル」を誘致する計画であるという。

「駅前通り」はこのように建て替えによる新規ビルの建設が徐々に進められ、新しいビル街としての顔ができつつある。かつて、商業地の中心は「大通地区」の一極集中型であったものが、「大通地区」と「札幌駅前地区」に結果的に分断されてしまったことにより、買い物客も分散状態にある。このような状況下、中心部のネットワークを再構築するため札幌市は、「札幌駅前地区」から「大通地区」へ地下を通り、徒歩で移動できるようにすること及び2つに分断された商業集積地を一つにまとめることにより商業地の活性化を目指すことを目的として、「札幌駅前地下歩行空間」の建設を進めている。この歩行空間は、平成23年(’11)3月に開通予定であり、この通路が完成すると、「大通地区」と「札幌駅前地区」の回遊性が飛躍的に向上する。なお、最新のアンケートによると、この「地下歩行空間」を利用したいと考えている人は回答者の94%、利用の際は札幌駅から大通駅方面への移動が回答者の47%となっており、近年低迷していた「大通地区」の来客数の増加が期待されるところである。

これからの札幌中心部

このように、かつての札幌の商業といえば「大通地区」が中心であったが、現在は「札幌駅前地区」と「大通地区」の2つが競い合う形となっている。しかし、このままでは長引く景気低迷の影響もあり、共倒れになる可能性も否めないことから、これら2つの地区を一体的に盛り上げることが重要な課題となっている。札幌市では、大通公園と札幌駅前通の交差点を「大通交流拠点地区」として地区計画を策定し、現在は、「北洋大通センタービル」が平成22年(’10)に竣工し、商業店舗、オフィスが入居する大通地区のランドマーク的なビルが建設された。また、その対面にある秋田銀行ビルについても平成25年(’13)3月完成を目標に秋田銀行、秋田共立株式会社、石屋製菓株式会社の3社共同による地上12階建のビルの建設が予定されている。札幌は昭和40年(’65)代後半から地下街が建設され、冬の雪や寒さにも影響されない商業地域を形成してきた。札幌駅前通地下歩行空間の完成は、地下道を通る回遊性が高まり、人の行き来の利便性が向上することでより便利な「札幌市」に向けて前進するであろう。

(次回の第35回:にっぽん「地価一番」物語は『名古屋』)

この地区の事業所はこちら

全国の地価動向マップはこちら