不動産研究 57-3

第57巻第3号(平成27年7月)
特集:中古住宅を巡る今日的な課題

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第57巻第3号
特集:中古住宅を巡る今日的な課題

中古住宅流通市場の活性化の取り組み課題

明海大学不動産学部 教授 中城 康彦

 国内的な超高齢社会への対応、国際的な持続可能社会の実現のために、中古住宅流通市場の活性化が喫緊の課題である。国土交通省を中心とする近年の精力的な対応により、論点は出尽くした感があり、変化の予兆も感じられる。半面、多くの要素が複雑に絡み合う課題ゆえに、自律的な課題解決の軌道に乗るにはなお時間を要する。現在の対策が行政主導による事業モデルの改革や誘導に集約される一方、根本的な解決のためには広く国民一般の意識改革が必要である。事業者においても必ずしも当事者意識にもとづく能動的な取り組みが見られない。市場に委ねるだけではなく、市場の失敗を解くために必要な自己変革をためらうべきでない。本稿では例示的に不動産評価と不動産取引のフィールドを取り上げ、課題解決のための変革の方向性を示した。

【キーワード】:純資産価値 リバースモーゲージ 効用曲線 残存利用期間 比準価格
【Key Word】Net Asset Value, Reverse Mortgage, Utility Curve, Remaining Residual Period of Use, Market Price

 

空き家対策の方向性  
-空き家発生のメカニズムと制度的課題-

東京大学大学院工学系研究科 教授 浅見 泰司

 空き家対策を考えるには、空き家が発生するメカニズムを理解しなければならない。本稿では、空き家を売却しないメカニズム、空き家を賃貸しないメカニズム、廃屋を放置するメカニズムを整理し、特に制度的な要因で空き家が増える要因として、相続税評価、借家法制、固定資産税の住宅用地特例などがあることを指摘する。この他、コミュニティによる空き家の維持管理、用途転用の弾力化、正確な情報による市場行動、空き家の外部不経済性、登記制度や住民登録制度の厳格化なども必要であることを述べる。

【キーワード】空き家、相続税、固定資産税評価、用途転用、登記
【Key Word】vacant house, inheritance tax, property tax, land use conversion, registry

 

調査

最近の地価動向について  
-「市街地価格指数」の調査結果(平成27年3月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は平成27年3月末現在の「市街地価格指数」を5月26日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(平成26年9月末比、以下同じ)0.4%の下落となり、地価下落傾向は継続したものの、下落幅は縮小した(前回0.5%下落)。
  • 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、ほぼ全ての地方において下落傾向が継続しているものの、下落幅は縮小した。中でも「中国地方」、「四国地方」、「九州・沖縄地方」では下落幅の縮小傾向がより顕著に見られた。
  • 「関東地方」は、全用途平均で前期比0.0%となり、7年ぶりに地価は下げ止まりとなった。
  • 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、「東京圏」は前期比0.4%上昇(前回0.4%上昇)、「大阪圏」は同0.2%上昇(前回0.2%上昇)、「名古屋圏」は同0.1%(前回0.0%上昇)となった。
  • 「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比1.9%上昇(前回1.6%上昇)、住宅地が同1.0%上昇(前回1.0%上昇)、工業地が同0.7%上昇(前回1.1%上昇)、全用途平均で同1.4%上昇(前回1.3%上昇)、最高価格地が平均で前期比4.0%上昇(前回3.8%上昇)となった。
  • 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、投資市場における取得競争の活性化、外国人観光客の増加等による繁華性の高まりをうけ、銀座、丸の内、新宿では、前期比6.0%超の上昇となった。
  • 今後については、「全国」では概ね今回と同程度の地価動向が継続する見通しである。三大都市圏の最高価格地では、地価上昇が継続する見通しであるが、上昇幅は今回調査と同程度に留まる見込みである。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

キーワード:市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

 

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2015~2020年、2025年)・2015春について

手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2015~2020年、2025年)・2015春」を4月23日に公表した。①東京ビジネス地区の賃料は、2013年から上昇が継続し、2015年は賃料が8.5%上昇し、空室率は4.8%まで低下。2016年は新規供給が42万坪と急増するが、低い空室率のため賃料への影響は小さく、賃料の上昇幅は5%程度を維持。2017年以降の賃料は上昇幅が低下して2%前後の上昇が継続、空室率は4.5%前後でほぼ横ばい、2025年は空室率が4.2%で、賃料は微増。②大阪ビジネス地区は、2015年の新規供給が少なく、空室率は7.7%まで低下、賃料も3.2%上昇。2016年以降は空室率が低下し、賃料も3%前後の上昇が続く。2020年に空室率は6.1%、さらに2025年には5.5%まで低下し、賃料は微増傾向が続く。③名古屋ビジネス地区は、2015年に名古屋駅周辺で過去最大の約10万坪の大量供給となり、空室率は9.7%まで上昇し、賃料も下落に転換。2016年と2017年は名古屋駅周辺でそれぞれ6万坪と4万坪の大量供給が続き、空室率は2017年に11.6%まで上昇し、賃料も3~4%下落。2018年から空室率が低下し、賃料は2019年から値戻しが始まり、ようやく上昇。2025年は賃料がやや回復して、空室率は9.3%と厳しい状況が続く。

キーワード:賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

最近の不動産投資市場の動向  
-第32回不動産投資家調査結果(2015年4月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第32回不動産投資家調査」の結果を5月26日に発表した。
前回調査(2014年10月)は、アベノミクスによる株高や日銀の量的緩和など良好な資金調達環境を背景に、不動産投資市場が拡大する中で実施され、不動産投資家の期待する利回りには低下傾向が鮮明にあらわれた。今回調査(2015年4月)は、外資勢等による大型取引や私募リートの拡大など、不動産投資市場が活況を見せる中、各不動産投資家が考える今後の投資姿勢や期待する利回りの動向について注目が集まった。
このような状況下で実施された今回の調査結果(2015年4月)の概要は以下のとおりである。

  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」が90%で、前回(94%)と比較し4ポイントの低下となったが、全体としては積極的な姿勢が維持される結果となった。
  • 投資物件の取得競争が過熱化する中、不動産投資家の期待する利回りも、ほぼ全てのアセットにおいて低下した。Aクラスビル(オフィス)の期待利回りは、東京において、「丸の内、大手町地区」が3.8%(前回差-0.2ポイント)となり、本調査で最も低い数値を記録した第17回(2007年10月)と同じ水準まで低下した。また、賃貸住宅一棟(ワンルームタイプ)は、東京「城南地区」で4.9%となり、本調査で最も低い水準を記録した第18回(2008年4月)より0.1ポイント低い数値となった。
  • マーケットサイクル(市況感)について、東京(丸の内、大手町地区)は、前回調査と同様、現在を「拡大期」とする回答が最も多かった。一方、大阪(御堂筋沿い)は、前回調査では「回復期」とする回答が最も多かったが、今回は「拡大期」とする回答が最も多く、市況改善の認識が定着しつつある。

キーワード:不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

 

第32回不動産投資家調査・特別アンケート2015年の不動産市場動向  
-ファンドバブル期との比較を中心に-

愼 明宏

 2014年の不動産投資市場は、日銀の量的緩和など良好な資金調達環境を背景に活況を呈した。
特に東京都心を中心に、外資勢や私募ファンド、一部の事業会社等による大型取引も顕在化しており、昨年の不動産投資市場は飛躍の年であったもといえよう。しかし、一部では、最近の投資市場における取得競争熾烈化の動きを警戒し、いわゆる「ファンドバブル」の再来を懸念する声も出始めている。
 当研究所が実施している不動産投資家調査(以下、「投資家調査」)でも、第32回(2015年4月)の「丸の内、大手町」地区のオフィス期待利回り(中央値)が、投資家調査で最も低い水準を記録した第17回(2007年10月)に並ぶなど、市場の関心は、取得競争の激化が指摘される現在の不動産投資市場について、ファンドバブル当時との比較や今後の見通し(現在の市況がいつまで続くのか)に軸足が移りつつある。
 そこで、当研究所では、「第32回不動産投資家調査(2015年4月)」の特別アンケートとして、ファンドバブル期のピーク時点を2007年10月と仮定し、当時と現在の市場環境の比較を中心に、2015年の不動産市場動向についての調査を行った。本稿ではこの特別アンケートの調査結果について紹介することとした。

キーワード:キーワード : 不動産投資家、不動産市場動向、ファンドバブル

 

近年の中古マンション市場の動向と今後の展望
-「不動研住宅価格指数」の調査結果(平成27年5月末現在)をふまえて-

曹 雲珍・山越 啓一郎

 「不動研住宅価格指数」は、当初、2011年4月26日より株式会社東京証券取引所から「東証住宅価格指数」の名称で公表されたものであった。同指数は、2014年12月30日の公表をもって更新を終了することになり、その後日本不動産研究所が引き継いで、 2015年1月27日から現在の名称で公表している。 
 5月26日公表した2015年3月時点の「不動研住宅価格指数(試験算出)」によると、首都圏は83.87ポイントであり、2013年に入ってから概ね上昇傾向で推移している。地域別では、東京都は91.17ポイントで、2013年1月より9.5ポイントも上昇し、2007年のミニバブル期の平均価格指数の92.09ポイントに近づいてきた。神奈川県は80.07ポイント(4.0ポイン上昇)、千葉県は66.17ポイント(0.9ポイント上昇)、埼玉県では69.76ポイント(4.6ポイント上昇)となった。

キーワード:不動産住宅価格指数、中古マンション、価格上昇、市場動向

 

論考

中国中古住宅流通市場に関する研究  
-法整備と情報の非対称性の問題を中心として-

曹 雲珍

 本研究では、中国の住宅流通市場に焦点をあて、日本の住宅流通市場と比較しながら、その発展と法の整備を整理し、情報の非対称性がもたらす問題を議論した上で、法を整備すべき点など中国住宅流通市場の改善方法を検討した。
 議論の結果、法整備と情報の非対称性の問題を解決するために中国住宅流通システムにおいて下記3つの流通システムの導入を提案した。(1)住宅流通市場の効率性、透明度などを高めるために不動産情報共有システムを導入する。(2)中古住宅の品質への不安を和らげるため、中古住宅保証制度や品質検査(インスペクション)システムを導入する。(3)買い手側の仲介業者が取引価格を安く、売り手側の仲介業者が取引価格を高くするように努力するためのインセンティブ報酬制度を導入する。

キーワード:中国中古住宅流通市場、法整備、情報の非対称性、インセンティブ報酬制度

 

不動産価格を予測するためのモデル構築の研究  
-東京23区の商業地地価を中心に-

金 東煥

  昨今、日本経済はデフレ脱却の兆しを示しており、不動産市場が活性化へと導かれる可能性が高い。本稿の目的はこのような日本の不動産市場の動向をより正確に予測できるモデルを構築し、投資家や政策当局等へ合理的な不動産市場の今後の見通し等を提供することである。そのため、ここでは東京23区の商業地における市街地価格指数を対象に、短期予測に特化した時系列モデルのARIMAモデル、ARDLモデル、伝達関数モデル、VARモデルを用いて予測モデルを構築し、将来予測を行った。結果、ARIMAモデルは2015年5月に公表された当該指数を高い精度で予測した(予測値:93.2~93.8、実績値:93.9)。また、他の予測モデルの良好な予測パフォーマンスに着目すると、今後の当該指数は2016年まで上昇し、以降、上昇幅が縮小するか、下落に転じる可能性が高いと予測された。なお、2020年東京オリンピック開催までの地価の変動予測に対する社会的な関心が高いため、中長期予測モデルの構築が今後の課題として残る。

キーワード:ARIMAモデル、ARDLモデル、伝達関数モデル、VARモデル、不動産価格予測
Key Word:ARIMA Model, ARDL Model, Transfer Function Model, VAR Model, Real Estate Price Forecasting

 

The Appraisal Journal Fall 2015

外国鑑定理論実務研究会

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