不動産研究 57-4

第57巻第4号(平成27年10月)
特集:改正マンション建替法と鑑定評価

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第57巻第4号
特集:改正マンション建替法と鑑定評価

改正マンション建替法の概要について

国土交通省 住宅局 市街地建築課 マンション政策室 課長補佐 山本 貴志

 平成26年12月に「マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律」が施行された。本法律において、地震に対する安全性が確保されていないマンションの建替え等の円滑化を図るため、マンション及びその敷地の売却を多数決で行うことを可能とする制度、及び、容積率緩和特例等を新たに創設した。

【キーワード】:マンション建替え、マンション敷地売却制度、容積率緩和特例、ガイドライン

 

マンション再生概念の整理と敷地売却制度の評価  
-再建型から清算型へ再生概念比較の視点から敷地売却制度を考える-

鳩ノ森コンサルティング代表 山田 尚之

 現在40数万戸である築40年を超える老朽化マンションストックは10年後には140万戸に迫る。この老朽化マンションストックを効果的に再生するには、「物の再生」に捉われることなく「価値の流動化」を積極的に促す再生制度の構築が必要である。そのため、区分所有者間の多数決議により区分所有関係を解消し、老朽マンションの資産としての流動性を高めて市場価値を上げ、権利を取得した第三者の手によって市場のニーズに合った再生を実現できる「清算型」での再生が必要である。この点で、「マンション敷地売却制度」には見直すべき課題がある。先ずは「建物の再生利用」を可能として市場と連動させ、土地だけではなく建物ストックの再生利用を視野に入れた出口戦略が重要である。

【キーワード】マンション再生、マンション敷地売却制度、区分所有関係の解消、清算型再生、建物の再利用

 

法改正と不動産鑑定士の関わり 
-期待される役割、鑑定評価上の論点・留意点等-

(公社)日本不動産鑑定士協会連合会 マンション敷地売却制度検討小委員会 委員長 服部 毅

  平成26年改正されたマンションの建替え等の円滑化に関する法律でマンション敷地売却制度が新たに創設された。この制度ではマンション敷地を売却して金銭を受け取ることになるため、いくらで売却できるかという評価が重要であり、権利変換により新たなマンションに置き換わる建替え制度以上に不動産鑑定士の関与が期待される。本稿では、マンション敷地売却事業において不動産鑑定士が期待される役割、鑑定評価上の論点・留意点等について解説する。

キーワード:市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

 

調査

全国のオフィスビルストックの状況  
-「全国オフィスビル調査(2015年1月現在)」の結果をふまえて-

手島 健治

 日本不動産研究所は、2015年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2015年9月8日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。

①2015年1月現在のオフィスビルストックは、全都市で11,000万㎡(8,609棟)となり、このうち2014年の新築は136万㎡(71棟)と150万㎡割れで少なかった。一方、2014年の取壊しは84万㎡(96棟)であった。
②新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市で3,020万㎡(2,682棟)と総ストックの27%を占めた。都市別では福岡(41%)、札幌(40%)が4割を超え、京都(38%)、大阪(34%)と続いて多い。
③今回から調査を開始した東京区部の外縁9区(世田谷区、杉並区、北区、荒川区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区)は259万㎡(313棟)であり、東京区部の約4%と少ないが、札幌と同規模であった。

キーワード:全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

 

論考

公的機関における事業用定期借地権の活用状況から  
-事業用定期借地権の傾向につき公的機関の活用事例からその実態を探る-

大木 祐悟・佐藤 啓二・小谷 俊哉

 借地借家法(平成3年法律第90号)の制定により誕生した定期借地権は、住宅や商業施設、産業向けの諸施設から医療福祉施設に至るまで様々な用途で利用されるとともに、その活用の範囲は拡大しつつある。そうした中で、特に住宅以外の用途の定期借地権についてはその実態がわかりにくくデータ等もそろっていないのが実情である。一方で、実務面においても、これらの内容についての情報が求められているところでもある。本稿では、国土交通省が毎年発表している「公的主体による事業用定期借地権の実態調査」の数年分のデータをサンプルとして、事業用借地権について、業種業態ごとに分析をした概要について報告をする。

キーワード:事業用定期借地権、施設ごとの借地期間・地代や一時金等についての分析

 

不動産投資家の表明選好データを用いた共同住宅の経年減価要因に関する研究

小松 広明・曹 雲珍

 本研究では、東京23区に存する共同住宅を対象として、不動産投資家の当該建物の経年減価に対する意識について共分散構造分析を行った。
 その結果、投資適格物件として許容しうる共同住宅の建築経過年数に対しては、経済的減価懸念が直接的に負の影響を与えていることが示された。また、不動産投資家の意識のもとでは、共同住宅のリフォームの実施は、賃貸事業における収益性の観点から、将来の賃料・稼働率の上昇期待とキャップ・レートを関連付けていないことが明らかとなった。しかしながら、当該リフォームの実施は、費用性の観点から、キャップ・レートを低下させる可能性を示唆する結果を得た。

キーワード:経年減価 不動産投資 キャップ・レート コンジョイント分析 共分散構造分析

 

日本のオフィス投資市場における地域間波及効果分析

金 東煥・山越 啓一郎・小松 広明

 近年、日本の不動産証券化市場は活況を呈し、主要投資家達は東京の不動産投資のみではなく、福岡にも注目していると考えられる。そのため、本稿では日本の不動産証券化市場におけるオフィス投資収益率が地域間にどのように波及されるかを分析し、長期均衡関係に基づいて2020年までの東京オフィス投資収益率(パフォーマンス指数)を予測した。地域間の波及効果分析結果から、初めは東京のオフィス投資収益率が大阪、名古屋、福岡の当該収益率へ与える影響が大きいが、時間経過とともに、その影響を受けた地方大都市間の相互的影響が大きくなる等、日本の不動産証券化市場においては、東京と地方大都市間の地域連関性が強くなっていると考えられる。また、東京オフィス投資収益率は、平均賃料とキャップ・レートの(パーセント表示で)1%上昇により、各々0.25%上昇、0.19%下落するとの長期均衡関係に基づいて、今後2016年第2四半期まで上昇(ピーク)して以後下落に転じ、東京オリンピックが開催される2020年第1四半期に2014年第4四半期対比で1.3%上昇すると予測される。

キーワード:オフィス投資市場、波及効果、インパルス反応関数、VECモデル、将来予測
Key Word:Office Investment Market, Transmission Effect, Impulse Response Function, VEC Model, Forecasting

 

東京都心部商業地の鉄道所要時間の短縮化が地価に与える影響

山越 啓一郎・金 東煥・小松 広明

 東京都心部では現在も新線開業など高速鉄道網が整備され続けている。本論はターミナル駅に関する時系列モデルとグラビティモデルから、近年の鉄道網整備によるターミナル駅までのアクセス性の向上が与える都心部商業地の地価への影響について分析した。その結果、湘南新宿ラインの運転開始、東海道新幹線の品川駅開業は一定の地価上昇への寄与があったことが確認できた他、特に渋谷駅へのアクセス性の向上が地価に大きな影響を与えることが判明した。

キーワード:地価関数、ヘドニック分析、鉄道網整備、時間短縮効果、東京都心部

 

判例研究

賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力  
-最高裁第一小法廷平成26年9月25日判決-

北河 隆之

キーワード:賃料増減額確認請求訴訟 既判力 訴訟物 時点説 期間説

 

海外不動産

2014年ベトナム住宅法・不動産事業法改正 -外国人・外資企業の権利の拡張-

小幡 葉子・Nguyen Thu Huyen

 2014年のベトナム国会で成立し、2015年7月1日から施行されているベトナム住宅法および不動産事業法では、住宅・不動産市場の公正化を図る諸施策のほか、外国人・外資企業によるベトナム不動産市場への投資を促進するため、外国人・外資企業の権利を拡大する規定として、住宅法は、外国人・外国企業の住宅所有資格要件や所有できる住宅の形態・戸数などを緩和し、個人については第三者への賃貸も認めるなどの改正が行われ、不動産事業法では、外資企業に対して建物のマスターリース事業及び工業団地・輸出加工区等における建築への投資事業が解禁された。運用に際しては、施行ガイドラインを定める政令が、本稿執筆時点では未制定であるほか、住宅法・不動産事業法・土地法等の関連法令間の不整合も見られ、今後の課題として残されている。

キーワード:ベトナム、住宅法、不動産事業法、外国人、外資企業
Key Word:Vietnam, Law on Housing, Law on Real Estate Business, Foreign individuals, Foreign Invested Enterprises

 

戦中期の台湾の土地価格について  
-旧日本勧業銀行が実施していた台北市における市街地価格調査から-

髙岡 英生

 当研究所は、旧日本勧業銀行より不動産に関する各種調査および鑑定評価などの業務を継承して発足した。「市街地価格指数」も同行から継承した調査の一つであり、地価の長期的変動の傾向をみるための我が国唯一の指標として利用されている。同調査は第二次世界大戦開戦前の昭和11(1936)年9月期から実施されているが、当時、台湾は日本統治下にあり、同行も大正12(1923)年に台北支店を開設している。その後、島内に複数の支店を開設し、市街地価格調査についても、終戦に至るまでの期間、複数の都市で実施した。
 本稿は、当研究所に保管されている当時の台北市における市街地価格調査の資料を繙き、現地調査を実施のうえ、当時と現在の地価比較、及び日本の主要都市と台北市の地価動向比較を行うことにより、地価からみた台北市の状況についてアプローチしようと試みるものである。

キーワード:市街地価格指数、台北市、戦中期、地価の長期的変動、国際比較

 

The Appraisal Journal Spring 2015

外国鑑定理論実務研究会

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