不動産研究 58-1

第58巻第1号(平成28年1月)
特集:空き家問題と空き家対策

一覧へ戻る

新しい年(丙申年)を迎えて

特集:空き家問題と空き家対策

空き家の現状と空家対策特別措置法の概要

国土交通省 住宅局 住宅総合整備課

 空き家の中には、適切な管理が行われておらず、周囲の居住環境に深刻な影響を及ぼしているものがある。空き家の数が、今後一層増加すると、それがもたらす問題が深刻化することが懸念されている。そこで、空き家に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、公共の福祉の増進と地域の振興に寄与することを目的として、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が、平成26年11月27日に公布された。本稿では、特別措置法について説明するとともに、適用事例等について概説する。

 

自治体における空き家対策の現状と課題
Countermeasures against Vacant House in Local Government

株式会社富士通総研 経済研究所 上席主任研究員 米山 秀隆

 空き家対策としては、まずは、空き家所有者が負うべき責任などに関する啓発や、空き家化を未然に防ぐ対策が必要になる。危険な空き家の除却を促すためには、除却費の補助は有効であるが、モラルハザード発生を避ける工夫が必要である。一方、まだ使える空き家の利活用を促すための施策としては、空き家バンクを設置する自治体が増えているが、機能させるのは容易ではなく、成功事例に学ぶ必要がある。今後は、空き家関連ビジネスとの連携も有効と考えられる。

【キーワード】空き家、除却、利活用、自治体
【Key Word】Vacant House, Demolition of Vacant Houses,Using Vacant Houses, Local Government

 

都市自治体の空き家対策事例
Case study of municipal measure for long-term empty houses

公益財団法人日本都市センター 研究員 小畑 和也

 それまで自治体が独自の取組みを進めていた空き家対策は、2015年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が完全施行され、全国の自治体が取り組む状況になった。本稿では、公益財団法人日本都市センターが2014年度に実施した「都市自治体における空き家対策に関する調査研究」の成果をもとに、同調査研究で現地調査を実施した都市自治体の具体的取組みを紹介する。そのうえで、「空き家の非流動化原因」と「都市自治体の総合的な政策と空き家対策の関連」の2つの視点から都市自治体の取組みを検証し、地域の実状に合わせた空き家対策について考察を行った。

【キーワード】空き家、都市自治体、条例、行政代執行、利活用
【Key Word】empty house, municipality, ordinance, administrative subrogation, utilization

 

調査

田畑価格及び賃借料の動向と農地価格の方向性
-平成27年(2015年)調査結果をふまえて-

松岡 利哉

 10月22日に「田畑価格及び賃借料調(平成27年(2015年)3月末現在)」を公表した。2015年における日本の農業を取り巻く情勢は、重要な岐路にさしかかっている。農家の高齢化の進行はいよいよ限界に近づく中、足下では2年連続の米価の大幅な下落に見舞われた。10月上旬に難航していたTPP交渉も大筋合意にこぎ着け、漸く国内農業の競争力強化への舵取りが定まり、政府は、滞っていた農業改革と競争力強化を再び加速しようとしている。農業の大変革期が訪れる中、今回調査においては、まず、米価の大幅下落による収益力悪化に持ちこたえられず、田の賃借料の大幅な切り下げが始まり、今後、田を中心とした農地価格の大幅な調整が始まると予測する。
 本稿では、農地価格の方向性に視点をあわせて、先に公表した「田畑価格及び賃借料調」の内容に加えて、その後分析した内容を紹介する。

キーワード:田畑価格、賃借料、米価の下落、農地価格の調整

 

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(平成27年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は平成27年9月末現在の「市街地価格指数」を11月24日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

① 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(平成27年3月末比、以下同じ)0.3%の下落となり、地価下落傾向は継続したものの、下落幅は縮小した(前回0.4%下落)。
② 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、「関東地方」を除く全ての地方において下落が続いているが、下落幅は縮小した。中でも「北陸地方」、「中国地方」、「四国地方」、「九州・沖縄地方」では下落幅の縮小傾向がより顕著に見られた。
③ 「関東地方」は、全用途平均で前期比0.1%となり、7年半ぶりに地価はプラスに転じた。
④ 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、「東京圏」は前期比0.5%上昇(前回0.4%上昇)、「大阪圏」は同0.3%上昇(前回0.2%上昇)、「名古屋圏」は同0.2%(前回0.1%上昇)となった。
⑤ 「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比2.1%上昇(前回1.9%上昇)、住宅地が同1.0%上昇(前回1.0%上昇)、工業地が同0.8%上昇(前回0.7%上昇)、全用途平均で同1.5%上昇(前回1.4%上昇)、最高価格地が平均で前期比4.8%上昇(前回4.0%上昇)となった。
⑥ 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、投資市場における取得競争の活性化、外国人観光客の増加等による繁華性の高まりをうけ、銀座、新宿では、前期比7.5%超の上昇となった。
⑦ 今後については、「全国」では概ね今回と同程度の地価動向が継続する見通しである。三大都市圏の最高価格地では、地価上昇が継続する見通しであるが、上昇幅は縮小していく見込みである。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
 最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

キーワード:市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

 

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について  
-「全国賃料統計」の調査結果(2015年9月末現在)をふまえて-

手島 健治

 当研究所は2015年9月末時点の「全国賃料統計」を11月24日に公表した。オフィス賃料は、全地点の約3割が上昇し、東京都区部や政令指定都市等で上昇幅が拡大、それ以外では横ばいまたは下落幅が縮小し、全国平均は2.7%上昇と上昇幅が拡大した。特に北陸新幹線の開業により金沢市が1996年の調査開始以来初めて上昇に転換し、北陸地方は下落からほぼ横ばいに転換した。共同住宅賃料は、全地点の約8割が横ばいで、全国平均はわずかな下落から横ばいに転換した。1年後の2016年9月末時点についてオフィス賃料は、名古屋市で大量供給による賃料の下落が予想されるが、それ以外の都市は概ね今期と同様であることから、全国平均は2.3%上昇に上昇幅がやや縮小し、共同住宅賃料は今期と同様に横ばいが継続する見通し。

キーワード:全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

 

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2015~2020年、2025年)・2015秋について

手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2015~2020年、2025年)・2015秋」を11月5日に公表した。①東京ビジネス地区の賃料は、2013年から上昇が継続し、2015年は賃料が7.9%上昇し、空室率は4.4%まで低下。2016年は新規供給が41万坪に増加するが、低い空室率のため賃料への影響は小さく、賃料の上昇幅は6%程度を維持。2017年と2018年は、賃料が2~4%の上昇。2019年は新規供給が56万坪に急増し、空室率は上昇、賃料は下落に転換。2021年以降は少しずつ回復し、2025年は空室率が4.4%で、賃料は微増。②大阪ビジネス地区は、2015年の新規供給が少ないが,自社ビルの竣工が多く、空室率は7.8%とほぼ横ばい、賃料は2.5%上昇。2016年は新規供給が少なく、空室率は6.7%まで低下、賃料は4.2%上昇し、2017年以降も2~4%上昇が継続。2020年に空室率は5.7%、2025年には5.1%まで低下し、賃料は1%前後の上昇が継続。③名古屋ビジネス地区は、2015年に名古屋駅周辺で過去最大の約10万坪の大量供給となり、空室率は9.1%まで上昇し、賃料はほぼ横ばい。2016年と2017年は名古屋駅周辺でそれぞれ6万坪と4万坪の大量供給が続き、空室率は2017年に10.3%まで上昇し、賃料も2%弱下落が継続。2018年から空室率が低下し、賃料は2019年から値戻しが始まり、ようやく上昇。2025年は賃料がやや回復して、空室率は9.1%と厳しい状況が続く。

キーワード:賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

最近の不動産投資市場の動向  
-第33回不動産投資家調査結果(2015年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第33回不動産投資家調査」の結果を11月24日に発表した。
 前回調査(2015年4月)は、日銀の量的緩和など良好な資金調達環境を背景に、不動産投資市場が拡大する中で実施され、不動産投資家の期待する利回りに低下傾向が鮮明にあらわれた。今回調査(2015年10月)は、外資勢等による大型取引や私募リートの拡大が続き、不動産投資市場が活況を見せる中、不動産投資家が考える今後の投資姿勢や期待する利回りの動向について注目が集まった。

キーワード:不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

 

不動産市場の国際化(インバウンドを中心に)に関する投資家の意識について  
-第33回不動産投資家調査結果(2015年10月1日現在)特別アンケート-

愼 明宏

 昨今の日本の不動産投資市場の回復を受けて、海外投資家による大型不動産取引も増加傾向にある。  
 外国人投資家による日本不動産投資(インバウンド)に関しては、従来、外国資本というと主に欧米の機関投資家を指すことが多かったが、ここ数年、中国や台湾、香港、シンガポールなど、外国人投資家の国や地域・属性の裾野が広がっている。このように、社会経済のグローバル化の進展とクロスボーダー取引の増加により不動産市場国際化の動きは、多くの市場関係者にとって高い関心事となっている。
 そこで、当研究所は、「第33回不動産投資家調査(2015年10月)」の特別アンケートとして、不動産市場の国際化をテーマに不動産投資家の意識・見通しについてのアンケート調査を行った。本稿ではこの特別アンケートの調査結果について紹介する。

キーワード:不動産投資家、不動産市場の国際化、インバウンド、アウトバウンド

 

The Appraisal Journal Summer 2015

外国鑑定理論実務研究会

 

資料

・2015(平成27年)[第57巻第1号~第57巻第4号] 目次一覧

レポート/刊行物一覧へ戻る