不動産研究 66-1

第66巻第1号(令和6年1月)特集:多様化するPPP/PFIと地方創生

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第66巻第1号

新しい年を迎えて

特集:多様化するPPP/PFIと地方創生

都市公園における官民連携の取組み
-都市公園における多様なPPP/PFI手法-
Public-Private Partnerships in Urban Parks
Various PPP/PFI methods in Urban Parks

国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 公園利用推進官 石川 啓貴

都市公園法が制定された昭和31年以降の都市公園におけるPPP/PFIに係る法制度を振り返るとともに、平成29年の都市公園法改正により創設された公募設置管理制度(Park-PFI)を紹介。

【キーワード】設置管理許可制度、PFI、指定管理者制度、Park-PFI

宮城県上工下水一体官民連携運営事業(みやぎ型管理運営方式)について

宮城県 企業局 水道経営課 課長 大沼 伸

本稿は、令和4年4月1日より事業を開始した宮城県上工下水一体官民連携運営事業について、導入の経緯、事業の概要を示すとともにモニタリング等の事業実施状況をまとめたものである。また、過去の委託等との違い、本事業の導入による費用削減効果についても、言及する。

【キーワード】 PPP/PFI、みやぎ型管理運営方式、運営権者、モニタリング、経営審査委員会

PPPによる持続可能な公共施設運営(スモールコンセッション)
-負債から経営資産に転換する公共施設マネジメントとは?-

津山市 総務部 財産活用課 課長 川口 義洋

人口減少、少子高齢化、地域の衰退、財政難など地方自治体の課題は山積状態である。その課題の1つとして挙げられるのが公共施設問題である。高度成長期からバブル期を経て、2000年代以降も我が国においては、大量の公共施設が整備されてきたが、社会ニーズの変化や、多様性が求められる現代では、公共施設が自治体経営を圧迫する要因となっている。我がまちにおいても同様で、多くの公共施設が老朽化、利用率の低迷などを受け、既存ストックの維持管理費を如何に縮減していくかという課題に直面している。この状態からどう脱却し、公共施設が本来持つべき、まちの経営資産として転換を図るために求められる公共施設マネジメントとは何か。本市で実施しているスモールコンセッションを題材に、これからの時代に即した公共施設のあり方について探っていく。

【キーワード】PPP/PFI、FM(ファシリティマネジメント)、公共施設運営、スモールコンセッション

公的不動産を核とした新たなまちづくり手法、LABV

株式会社三井住友トラスト基礎研究所 PPP・インフラ投資調査部 副主任研究員 井口 邦洋

国や地方公共団体が保有する不動産を民間の資金やノウハウを活かして有効活用し、まちづくりに役立てようとする取組みが本格化する中、LABV(Local Asset Backed Vehicle)と呼ばれる事業手法に注目が集まっている。LABVとは、主に英国で導入されてきた公的不動産の有効活用に適した手法で、地方公共団体等が土地などの公的不動産を現物出資し、民間事業者が資金出資を行って「官民共同事業体」を設立した後、同事業体が主体となり複数の開発プロジェクトを実施するものである。ここ数年、我が国でも複数の検討・導入事例が見られることから、本稿ではその仕組みや特徴を解説するとともに、今後の展望について考察を行う。

【キーワード】官民連携、PPP/PFI、公的不動産、PRE、LABV

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2023年9月末現在)をふまえて-

佐藤 修

当研究所は2023年9月末現在の「市街地価格指数」を2023年11月27日に公表した。
 「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
①「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2023年3月末比、以下同じ)0.8%となり、2022年3月末調査で上昇に転じて以降、今期も上昇が続いた。
②地方別の地価動向は、総じて回復傾向が続き、全用途平均では四国地方以外は全て上昇した。
③三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比2.0%上昇、「大阪圏」は同0.9%上昇、「名古屋圏」は同0.8%上昇となり、回復傾向が概ね安定的に続いた。
④「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比2.3%上昇、商業地で同2.3%上昇、住宅地で同2.1%上昇、工業地で同2.5%上昇となった。各用途区分で上昇傾向がやや強まった。
※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、地価下落

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2023年9月末現在)をふまえて-

曹 雲珍

当研究所は2023年9月末時点の「全国賃料統計」を11月27日に公表した。オフィス賃料は、調査地点の7割強が前年から横ばいであるが、東京圏は3年連続下落しており、全国平均も3年連続下落となった。ただし、下落幅が前年より縮小した。地方別では、東北地方、関東地方、四国地方は下落したが、それ以外の地方は横ばいもしくは上昇となった。なお、北海道地方の上昇幅が最も大きかった。共同住宅賃料は、調査地点の6割強が前年から横ばいであるが、東京圏と大阪圏等での連続上昇を受け、全国平均も3年連続上昇となった。地方別では、北陸地方と中部・東海地方を除いて横ばいもしくは上昇となった。1年後の2024年9月末時点についてオフィス賃料は多くの都市が横ばいの中、東京圏と大阪圏の回復により、全国平均は0.2%上昇、共同住宅賃料は全国平均で0.6%の上昇と予想している。

【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

最近の不動産投資市場の動向
-第49回不動産投資家調査結果(2023年10月1日現在)をふまえて-

岩指 良和

当研究所は、「第49回不動産投資家調査」の結果を2023年11月27日に公表した。
 調査結果(2023年10月)の概要は以下のとおりである。
(1)期待利回りの動向は、アセット毎・地域毎に異なる結果となった。オフィスは、「東京・丸の内、大手町」の期待利回りが前回に引き続き横ばいとなったが、その他の東京のオフィスエリアや地方都市で期待利回りが0.1㌽低下する地区と横ばいの地区が混在する結果となった。
 住宅は、「東京・城南」のファミリータイプが前回比で0.1㌽低下し、本調査開始以来最も低い水準を前回に引き続き更新した。また、住宅の期待利回りの低下は多くの地方都市でもみられた。商業店舗は、「都心型高級専門店」は多くの調査地区で期待利回りが低下したが、「郊外型ショッピングセンター」は多くの調査地区で前回比横ばいとなった。物流施設(マルチテナント型、湾岸部)は、「東京(江東区)」で前回比0.1㌽低下し、本調査開始以来最も低い水準を前回に引き続き更新し、それ以外の調査地区でも「名古屋(名古屋港)」を除き前回比0.1㌽低下した。ホテルは、観光需要の回復から全ての調査地区で低下し、「京都」「那覇」で前回比0.2㌽低下した。
(2)今後については、「新規投資を積極的に行う。」という回答が95%で前回よりも1㌽低下した。金融緩和政策の見直しを警戒しつつも、不動産投資家の非常に積極的な投資姿勢が維持された。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2023年1月現在)」の結果をふまえて-

富繁 勝己

日本不動産研究所は、2023年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2023年10月5日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。
① 2023年1月現在の調査対象のオフィスビルストックは、全都市計で13,351万㎡(10,556棟)となった。このうち2022年の新築は146万㎡(58棟)、2022年の取壊しは96万㎡(87棟)であった。今後3年間(2023~2025年)のオフィスビルの竣工予定は634万㎡(149棟)で、そのうち東京区部が74%を占める。
② 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市計で2,966万㎡(2,806棟)とストック全体の22%を占める。都市別でみると、札幌(35%)、京都(35%)、福岡(34%)、地方都市(29%)、大阪(28%)、神戸(28%)、広島(28%)と続く。
③ 規模別ストック量をみると、10万㎡以上のビルが東京区部で27%と突出して高い。逆に5千㎡未満は地方都市が21%と最も高い。築後年数別では、築10年未満のビルが三大都市では10%を超えており、主要都市・地方都市より築浅のビルの割合が大きい。また、建替候補となる築40年以上のビルの割合は、建替が進んでいる東京区部では20%と他の都市に比べて少ない。

【キーワード】全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

論考

2024年の不動産市場
-マクロ経済動向から占う不動産市場の見通し-
Japan’s Real Estate Market Conditions in 2024
An Outlook from Macroeconomic Perspective

吉野 薫

2022年末以降、日本銀行はイールドカーブ・コントロール政策に3回に亘って修正を加えてきた。これが金融緩和の縮小を意図したものではないことは市場で正しく認識されており、これまでのところ不動産市場に大きな混乱は生じていない。引き続き技術的な動機による金融政策の変更(とりわけマイナス金利政策の解除)が行われる可能性は残るものの、当面日銀が本格的な金融引き締めに着手する可能性は低い。それでも長らく続いた金利低下局面が過ぎ去ったことはもはや明確であり、2024年の不動産市場は金利の一層の上昇に対する警戒感を強める展開を見せるだろう。なお諸外国の事例を参考にすると、ファイナンスのコスト上昇とアベイラビリティの低下が同時に生じることで商業用不動産市場の悪化を招来している。日本においてはファイナンスのアベイラビリティが低下しやすい経済構造にはなく、たとえ金融環境に変化が生じたとしてもこのところの米欧で見られるような強い調整を余儀なくされるには至らないであろう。実体経済面では円安のメリットを十分に享受出来ておらず、企業の業容拡大意欲の強さに確信を持てない状況にある。所得の増加に対する人々の期待感があまり広がっていないことも相俟って、不動産の実需を巡る状況の改善は鈍いといえる。総じてみれば2024年も引き続き不動産賃貸市況の回復の実感に乏しい1年となるだろう。

【キーワード】イールドカーブ・コントロール政策、ファイナンスのコストとアベイラビリティ、インフレ期待、企業の業容拡大意欲
【Key Word】Yield Curve Control Policy, Cost and Availability of Finance, Inflation Expectation, Corporate’s Appetite for Capital Investment

列島改造期の土地取引-都市縮退の時代に向けた含意、半世紀を経て(その3)-
Lessons towards urban shrinking from the land property boom in 1972-73 in Japan(3)

近藤 共子

20世紀後半2回目の地価高騰は、1960年代末頃より地方圏に大きく広がり、土地投機は佐藤内閣の時代から問題化していた。新全総をはじめ、都市・地域開発について各党が活発に論じたこの頃、しかしながら、全国に広がりゆく土地騰貴についてデータは乏しく、しかも、土地に向かう資金の流れの急拡大により、開発と金融を巡る状況は急変していった。1972年、金融緩和が顕著となる中、政府の土地対策は、当初、土地利用計画等の検討を中心に進められてきたが、金融の異常緩和と積極財政の継続を背景とした地価暴騰に直面し、1972年末から73年初、地価対策重視に転換する。一方、土地買占めや地価に関する調査結果の多くが出揃うのは73年春頃からであった。
 The 2nd property boom in the latter half of the 20th century had already been affecting regions beyond metropolitan areas in the late 1960s, prior to the publication of the “Japan Archipelago Remodeling Plan” in June 1972. Ministries tackling the fundamental problem of land use planning as the core of their policy agenda, switched their priority around the end of 1972, towards suppressing and controlling property price, in face of the extreme monetary easing, while information on the property markets and the price inflation largely became available only after the late 1972.

【キーワード】列島改造期、土地投機、日本列島改造論、国土利用
【Key Word】land property boom, urbanisation, the remodeling of the Japanese archipelago, land use

不動研だより

「第31回パン・パシフィック・コングレス(PPC)」参加報告

吉野 薫

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