不動産研究 51-4

第51巻第4号(平成21年10月) 特集 : 会計基準と不動産

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特集 会計基準と不動産

不動産会計基準の整備と企業政務への影響 -会計基準の概観と実態調査-

福島 隆

近年、日本では不動産関連の会計基準を含むさまざまな会計基準が相次いで公表されている。そこで、本稿ではまず、不動産に関連する会計基準について、その概要、国際財務報告基準(IFRS)との相違点等を説明する。そして、これらの会計基準の施行により企業財務にはどのような影響があったのかを調査し、会計基準を早期適用した企業の事例を紹介する。不動産関連の会計基準が整備されたことによって、不動産の適切な価値が表示され、含み損を将来に繰り延べることは難しくなる。したがって、企業は今まで以上に収益性や効率性を重視した不動産の管理が求められることになる。

キーワード :減損会計、棚卸資産評価損、賃貸等不動産、資産除去債務、会計基準のコンバージェンス

会計基準の変遷と不動産市場への影響

河内 祐一

90年代後半からの会計ビックバンに始まる会計基準の変遷は著しく、企業経営に与える影響も少なくない。特に、昨今では国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る趣旨等から、不動産の時価に影響を及ぼす論点として、「減損会計」、「企業結合会計」、「賃貸等不動産の時価等の開示」等があるが、会計実務には、近年、“不動産の評価”が絡む場面が増えており、会計数値や開示事項を理解する上で、不動産評価の知識も問われるようになった。そこで、本稿では、不動産市場や企業経営上の視点を念頭に、コンバージェンスを含む昨今の会計基準の変遷について論じることとした(会計基準・処理等の詳細な説明は、すでに多くの出版物が存在することから、他の文献に譲ります)。本稿は私見であり、筆者が所属する法人の見解ではありません。

キーワード :会計基準のコンバージェンス・アドプション、不動産のリスク資産化・金融商品化、企業価値の向上と不動産活用の有効性・効率性、不動産放出の加速化

会計基準の変遷と不動産評価 -企業会計における不動産評価に関する考察-

福田 明俊

近年、不動産に関する会計基準が次々に公表され、現在では棚卸資産、有形固定資産、投資不動産という貸借対照表の資産の部における全ての不動産について、何らかのかたちで時価の開示が求められている。本稿では、貸借対照表区分別に、企業会計上求められる不動産評価について論じる。このうち、本年度から適用となる「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」は、会計基準適用にあたり、企業が個別に判断しなければならない事項も多いが、本稿では当該判断事項に重点を置いて実務上の観点から述べている。最後に、今後の不動産評価の動向として、IFRSのアドプションにおける投資不動産の「公正価値モデル」及び「公正価値ヒエラルキー」について触れる。

キーワード :販売用不動産の低価法、固定資産の減損会計、賃貸等不動産の時価開示、アドプション、公正価値

判例研究(85)

土壌汚染原因者の汚染不動産所有者に対する不法行為責任 -公害等調整委員会平成20年5月7日裁定・判例時報2004号23頁-

阿部 満

本件は、土壌汚染された土地を購入した者が、購入以前に本件土地に土壌汚染の原因となった廃棄物を処分した市に対し土壌汚染対策費用について不法行為責任を追求した事件についての公害等調整委員会の責任裁定である。裁定は、廃棄物の除去措置等を条理上の作為義務として認め、国家賠償法1条1項に基づき48億余りの損害賠償を市に命じた。裁定は、作為義務の根拠として、廃棄物の処分の先行行為により、土壌汚染対策費用の支出が予見可能で、市は、土壌汚染対策法の規制権限者として規制権限を行使することで損害が回避可能であったことを挙げるが、市が規制権限を行使しても土地所有者の費用負担を回避する結果にはつながらず、また、土地所有者は市の規制権限不行使の国家賠償責任を追及できる地位にはない。原因者としての市の責任を認める根拠を規制権限不行使に求めるのは無理があり、理論的に整合性がない。現在の土地所有者が汚染対策費用を原因者に請求する法的根拠は、土壌汚染対策法に基づいて措置命令が出た場合には費用請求権が認められているが、適用事例は極めて限定的であり、一般的には不法行為構成、不当利得構成が考えられるが、不法行為構成には問題点が多く、不当利得構成による解決が望ましい。

キーワード :土壌汚染、不動産取引

調査

「平成の農地改革」と田畑価格及び小作料の動向 -平成21年調査結果をふまえて-

八木 正房

農林水産省に設置された「農地政策に関する有識者会議」における検討により、平成19年10月31日付けで「農地政策の見直しの基本方向について」がとりまとめられ、これを踏まえた農地法改正案が第171国会(常会)に提出・審議されていたが、5月8日の衆議院本会議、6月17日参議院本会議の可決を経て、去る6月24日「農地法等の一部を改正する法律」(法律第57号)が公布された。また、公布の日から6月を超えない範囲において政令で施行日が告示されることとなった。改正の内容は従来の農地法改正では触れられなかった目的規定の改正まで踏み込んだもので、「農地の貸借については一般企業の農業参入を一層進めるなど面的集積を推進する仕掛けを設ける」とともに「農地所有は耕作者を基本とする耕作者主義を確認する」ものとなった。
本稿では、農地法改正の経過と転用や権利移動規制の見直し・遊休農地の解消策・違反転用に対する行政代執行制度などについて紹介するとともに、これら制度改正の環境下にあって日本不動産研究所が2009年3月末現在で調査し9月10日発表した「田畑価格及び小作料調」の発表内容について詳細を紹介する。

東京及び大阪ビジネス地区におけるオフィス賃料等の予測結果

手島 健治

オフィス市場動向研究会(三鬼商事(株)と日本不動産研究所の共同研究会)では、今後のオフィス市況の大局的な動きを把握することを目的として、計量的アプローチにより将来のオフィス市況の動向を推計し、公表している。本稿では、この成果である東京ビジネス地区(都心5区)及び大阪ビジネス地区(主要6地区)におけるオフィス賃料等の予測結果をまとめている。主な結果は、①東京ビジネス地区の賃料は、2009~2010年に10%を超える下落が続き、空室率は年率7%を超えて高くなる。2011~2012年は新規供給量が多いことから下落が続き、2012年が賃料の底で、2004年と同じ水準まで下落し、空室率は2011年に7.5%まで上昇する。その後は空室率が4%前後まで低下し、賃料は年率5%程度の上昇が続く。②大阪ビジネス地区の賃料は、近畿経済が低迷し、新規供給が多いことから2009~2010年に4~5%の下落が続き、空室率は9%を超えて高くなる。その後も新規供給が多いので、賃料は5%前後の下落が続き、2014年が賃料の底で、2004年と同じ水準まで下落する。空室率は2012年に10.0%まで上昇するが、その後6%前後まで低下する。

キーワード :賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

全国のオフィスストックの状況と今後の展望-「2009年全国オフィスビル調査」結果をふまえて-

手島 健治、菊池 慶之

日本不動産研究所は、2008年12月末時点の全国のオフィスビルストックを調査し、2009年8月4日に、第4回目(2008年12月末時点)の結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。なお、今回から今後の供給計画についてもまとめを公表した。 ①オフィスビル供給において、2000~2007年の新規供給では東京区部の割合が70%前後と東京一極集中が進んでいたが、2008年は東京区部の割合が47%に低下し、大阪・名古屋・横浜等が増加した。 ②今後の供給は、2009年と2010年が2008年と同様に大阪や横浜等で多く、2011年以降は東京区部に再集中する計画だが、不動産市況の悪化により見直しの可能性もある。 ③オフィス取壊は増加傾向であり、東京区部以外の大阪や主要都市等でも増加している。

キーワード :全国オフィスビル調査、オフィスストック、大阪、名古屋、取壊

海外不動産

上海における住宅マーケット形成の背景と住宅ストックの特徴

菊池 慶之、髙岡 英生、谷 和也、林 述斌

上海における住宅マーケットは、近年急速に拡大しつつあるが、過去の歴史的経緯から需要超過が著しく、またその需要構造も複雑なために、今後の需要予測が困難であった。そこで本稿では、住宅ストックの量的・質的拡大の経緯とその特徴を明らかにすることにより、需要予測を行う上での基礎的資料の整理を行った。考察の結果、上海における住宅マーケットの歴史はまだ浅く、本格的なマーケット形成が始まって10年程度に過ぎないこと、2004年以降では、郊外におけるマンション等の共同住宅の大量供給に特徴があり、住宅マーケットのボリュームエリアが都心から郊外へと移りつつあることが明らかになった。
なお、本研究は上海の住宅マーケットの特徴、住宅取得行動の実態、住宅需要の予測などを分析する研究プロジェクトの一環であり、本稿はこの初回の成果報告にあたるものである。

キーワード :中国、上海住宅マーケット、中流階層、「住宅双六」、共同住宅
Key Word:Shanghai, Housing market, Middle-class, “Residence Sugoroku”, Multifamily housing

海外論壇

The Appraisal Journal Spring 2009

外国鑑定理論実務研究会

お知らせ

審査付論文募集のご案内

資料

・不動産統計
・日本不動産研究所図書室 主な新規受入図書リスト -2009年6月初旬~2009年8月下旬-

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