不動産研究 50-3

第50巻第3号(平成20年7月) 特集:PRE推進の課題

一覧へ戻る

特集

PPP(Public/Private Partnership)から見たPREへの示唆

根本 祐二

PREが注目される背景は、自治体財政制約の厳しさ、市場からの資金調達の必要性、企業サイドでのCREの進展、老朽化・更新需要の進展、耐震改修の必要性、公会計・資産負債改革の動きなどである。だが、財務諸表の策定自体は進んでいるものの企業会計に比べると開示の程度が遅れており実質的にはPREには使えないこと、公会計改革で求められている売却可能資産の計上が恣意的になされる懸念があることの問題がある。この問題を、PPPの観点から分析するには情報の非対称性とコンテスタビリティ理論が有効である。前者は、不動産の活用の不得意な行政が、公的不動産を有効活用するために逆選択やモラルハザードを生じさせないことを示唆する。また、コンテスタビリティ理論は、資産の再生可能性に光を当てる。両者を組み合わせた概念が、家守である。家守は公的不動産の有効活用をPPPの観点から進めるための大きなツールである。

特集

PREの推進と地方公共団体の会計

荒張 健

地方公共団体では、行革推進法の制定等を背景に公会計の整備が行われ、資産・債務改革に一定の効果を与えるものと期待されるが、実務上は、建物等償却資産の資産評価は著しい破損や陳腐化を除き再評価がなされず規則的な減価償却が行われるにとどまるため、資産の未利用状況が会計情報に反映されることは期待されないと考えられる。
一方、国際公会計基準では、資産の利用度の下落等によるサービス提供能力の低下を減損として認識する「非資金生成資産の減損会計」が規定されており、我が国の独立行政法人の減損会計では、この会計手法を進化させ、既に多くの独立行政法人において減損に係る情報開示が行われているとともに、資産の利用状況の把握と利用向上のための対応促進が効果として現れている。
将来、我が国の公会計にも公的機関の減損会計が導入されれば、資産の利用状況の実情が住民に可視化されることを通じて未利用資産の有効活用等の効果が期待される。このような公会計の更なる充実はPREマネジメントの推進と両輪となり、行政経営の更なる改善につながっていくことであろう。

特集

青森県のファシリティマネジメントによるPREアプローチ

成田 宏之

青森県ではファシリティマネジメントを導入・推進しており、その取組について(JFMA)日本ファシリティマネジメント大賞最優秀賞を受賞した。公共セクターとして初めてである。
本稿では、青森県の県有施設の現状、FMの考え方、方向性、具体的方策を示す県有施設利活用方針の全貌、FM導入・推進による主な取組と成果、そして今後の課題と展開を紹介し、最後に自治体のPRE推進のあり方や課題について述べる。

特集

財政健全化法及び新地方公会計制度における公的不動産の評価について

稲葉 勝巳

資産・債務改革の推進において資産の評価、とりわけ、公的不動産の適正な評価が重要であるとの立場から、財政健全化法及び新地方公会計制度における公的不動産の評価に焦点を絞り、評価方法及び評価にあたっての留意点について解説する。

判例研究

区分所有建物の建替え決議があった場合の売渡し請求における「時価」の算定事例(東京高裁平成16年7月14日判決・判例時報1875号52頁)

島田博文

調査

東京及び大阪ビジネス地区におけるオフィス賃料等の予測結果

手島 健治

オフィス市場動向研究会(三鬼商事㈱と日本不動産研究所の共同研究会)では、今後のオフィス市況の大局的な動きを把握することを目的として、計量的アプローチにより将来のオフィス市況の動向を推計し、公表している。本稿では、この成果である東京ビジネス地区(都心5区)及び大阪ビジネス地区(主要6地区)におけるオフィス賃料等の予測結果をまとめている。主な結果は、(1)東京ビジネス地区の賃料は、2008~2009年に上昇率は低下し、年率5%程度から横ばいに近づき、2010~2012年は年率1~2%の下落が続く。そのため空室率は4%近くまで上昇する。2013年以降は空室率が3%前後で安定的に推移し、賃料も年率2%程度で上昇。(2)大阪ビジネス地区は、2008年の新規供給量が前年の2倍になるが、建替等が活発化することから、新規供給量ほどにストックは増加しないが、空室率は5~6%程度まで上昇し、賃料は年率2~4%上昇で推移する。2010年以降は空室率が7%まで上昇し、賃料は若干の下落が続き、2013年以降は空室率が6~7%に低下し、賃料は横ばいないし若干の上昇傾向で推移する。

調査

第18回不動産投資家調査結果(2008年4月1日現在)

廣田 裕二

日本不動産研究所は、18回目を数える「不動産投資家調査」の結果を5月20日に発表した。
海外J-REIT解禁への動き、円高ドル安、サブ・プライムローン問題、建築資材の高騰等が話題になっている時期のアンケート実施に基づく今回の特徴は、以下の4点に集約される。

  • 第11回から前回まで新規投資への積極投資割合が9割超であったが、今回、一転して80%に下落し、一方、当面新規投資を控えるものが、前回が5%にとどまったのに対し、今回20%と急増した。
  • 全ての利回りに関して、前回まで横ばいまたは下落傾向であったものが、今回、横ばいまたは上昇傾向に変わった。
  • オフィス賃料水準予測においては、全体的に上昇率の低下傾向、地方では下落予測もある。
  • 丸の内・大手町地区での期待利回りが、第7回以来、横ばいまたは下落の一途であったのが、5年半ぶりに上昇した。

今回の調査結果全体から、投資市場は積極投資から慎重な姿勢に転じ、売却の方針が急増したといえる。利回りにおいても、横ばいも一定割合で確認できるが、0.1%から0.2%の上昇を示すものが多い。
その他、回答者数が113社(過去最多)に上った今回調査では、海外J-REIT解禁への動きに合わせ、海外への投資に関しても特別アンケートを実施した。若干ではあるが、海外における関連の調査に関しても一部を紹介する。さらに、エンジニアリング・レポートに関しても実態を質問したので、これらについても概要を報告する。

調査

最近の地価動向について ―「市街地価格指数」の調査結果(平成20年3月末現在)をふまえて―

松岡 利哉

日本不動産研究所は平成20年3月末現在の「市街地価格指数」を5月20日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「六大都市」においては、全用途平均で平成17年9月末から6期連続した上昇基調の減速が鮮明になり、とりわけ住宅地(前期比+0.7%)、工業地(前期比+1.1%)は微増と横這いに近づいてきている。
  • 「六大都市を除く」においては、前回調査時点まで継続していた下落基調の改善傾向は、横這いに近づくにつれて鈍化している。
  • 三大都市圏別で見ると、前回調査では突出して上昇率が大きかった「東京圏」の上昇基調の減速が顕著であり、特に「東京区部」では、全ての用途で上昇基調は大きく後退し、住宅地(前期比-0.2%)は下落に反転し、商業地(前期+1.4%)も横ばい地点が増え上昇率も微増に止まった。「東京都下」、「神奈川県」もこれに追随する傾向が見られる。
  • 地方別で見ると、上昇基調の地方の顔ぶれは前回調査と同じで「関東地方」、「近畿地方」の上昇幅は縮小し、下落基調の地方については下落幅が1%以上縮小した地方はなく、下落幅が拡大した地方も増加しておらず、下落基調の緩やかな改善傾向は継続した。
  • 今後の地価の見通しについては、大都市では「東京区部」の現象が徐々に波及し、上昇率が横這いに近くなりながら下落に反転する地点が増え、地方都市においては下落基調の改善の流れから地方によっては下落基調が強まる可能性を秘めており、全体として微妙な状況にさしかかっている。

海外不動産

ロンドンの不動産の特殊性

山本忠

海外論壇

The Appraisal Journal Winter 2008

外国鑑定理論実務研究会

資料

不動産統計

資料

日本不動産研究所図書室 主な新規受入図書リスト -2007年11月中旬~2008年5月中旬-

レポート/刊行物一覧へ戻る