不動産研究 58-2

第58巻第2号(平成28年4月)
特集:東日本大震災と不動産(4) -震災後5年を迎えた復興事業の現状と課題-

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特集:東日本大震災と不動産(4)-震災後5年を迎えた復興事業の現状と課題-

東北の復興
-新たなステージ「復興・創生」へ
Reconstructing Tohoku
-Toward new stage ,"Reconstruction and Revitalization"-

復興庁 統括官 吉田 光市

 東日本大震災から丸5年。平成28年度からは後半5年の「復興・創生期間」となる。この間、復興は着実に進展し、地震・津波被災地域では、公営住宅や高台移転等の事業の多くがその完成時期を迎え、復興は「総仕上げ」のステージとなる。福島においても、避難指示区域の解除等が進み、「本格的な復興」のステージとなる。今後は、ステージに応じた課題に的確に対応しつつ、未曽有の大震災に対して、これまでの「住宅の再建」、「インフラの復旧」に加え、コミュニティ形成、産業・生業支援等幅広い分野に渡る復興施策を併せて強力に推進し、「暮らしの再建」、「地域の再生」に努める。また、前例のない施策の総動員、創造的復興、減災の発想等今般の復興政策は今後の教訓となるものである。「復興五輪」と位置付けられた「2020年東京五輪」に向けて国の総力を挙げて復興の加速に取組む。

【キーワード】復興の加速化、復興・創生期間、新しい東北、減災、復興五輪
【Key Word】Acceleration of Reconstruction, Reconstruction and Revitalization Period, “New Tohoku”, Disaster Risk Reduction,“Olympics and Paralympics of Recovery”

 

岩手県における復興事業の進捗状況と今後の課題

岩手県復興局

 本稿は、岩手県における東日本大震災津波からの復旧・復興の進捗状況と今後の課題をまとめたものである。
 岩手県の復興計画の概要と復興に向けた取組状況、被災者の現状、被災地における地価等の状況や復興の課題と対応について紹介する。

 

東日本大震災からの復興に対するUR都市機構の取組み
-震災後5年間の活動と今後の課題-
Reconstruction projects of UR for Great East Japan Earthquake
-Activities of five years after GEJE and future subjects-

独立行政法人都市再生機構 震災復興支援室長 佐分 英治

 独立行政法人都市再生機構(以下「UR都市機構」と表記)は、被災自治体の支援を通じて震災直後から復旧・復興に取り組んでいる。そこで、平成28年3月で震災発生から5年が経過する機会に、これまでUR都市機構が行ってきた取組みの状況を報告する。復興市街地整備事業では、CM方式を活用して工期短縮やコスト縮減等を検討しつつ、被災自治体と連携して復興まちづくりを進めている。災害公営住宅整備事業では、被災自治体からの要請を受けて住宅を建設している。

【キーワード】東日本大震災、復興まちづくり、復興市街地整備、災害公営住宅、CM方式
【Key Word】Great East Japan Earthquake、Reconstruction city planning、Urban reconstruction project、Emergency public housing project、Construction management

 

調査

山林素地及び山元立木価格の動向
-平成27(2015)年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

 平成27(2015)年3月末現在における山元立木価格は、アベノミクスによる大規模金融緩和に住宅着工の消費増税への駆け込み需要も重なって、最高値を記録した昭和55(1980)年以降で最大の上昇率を記録したが、平成27(2015)年3月末現在における山元立木価格は、駆け込み需要に伴う需要の先食いの反動で需給が緩み、素材(丸太)価格が急騰前の水準に下落したことにみてとれるように、その脆弱な需給構造を示す結果となった。
 本稿では、当研究所が平成27(2015)年10月22日に公表した「山林素地及び山元立木価格調」の分析に加えて、その後分析した内容を紹介する。

キーワード:山林素地価格、山元立木価格、素材(丸太)価格

 

論考

台湾中古住宅流通市場に関する研究
-流通システム、情報サービス、取引コストの3つの視点からの国際比較分析-

曹 雲珍

 本研究は台湾の中古住宅流通市場に焦点をあて、流通システム、情報サービス、取引コストの3つの視点から制度の類似点が多い日本と生活習慣や住宅意思形態などが近い香港との比較分析を行い、台湾の住宅流通市場の全体像を把握するとともに市場の特徴と現存の問題点も明らかにする。
 分析の結果、(1)流通システムについては、台湾の「履約保証」制度はある程度トラブルを回避することができるが、根本的な解決策とはいえない。また、台湾ではプロセスの一環として地政士の関与は法的な責任を分担することになっているが、第三者の専門家としての中立性が欠けている。(2)情報サービスについては、台湾では日本のレインズのような指定機関がないため、優良な住宅情報が流通しないだけではなく、情報が分散しているため、売り手の市場探索時間も長くなっている。また、「不動産取引実際価格登録制度」による情報開示は物件を特定できないなどで参考情報としては不十分という問題が存在しているが、賃貸価格と前売り価格の情報も同様に開示していることは日本と香港はないので、台湾の特徴とも言える。(3)取引コストについては、仲介手数料は台湾と日本はほぼ同じてあり、香港が一番安い。従って、台湾と日本の取引コストが高い一番の要因は仲介手数料が高いことである。

キーワード:台湾中古住宅流通市場、住宅流通システム、情報サービス、取引コスト、国際比較

 

判例研究(102)

大規模堅固建物建築目的による土地賃借権無断譲渡と背信性
-東京高等裁判所平成26年10月15日判決・判例時報2268号36頁-

小西 史憲

 民法612条2項により賃貸人は、賃借人が賃貸人に無断で賃借権を第三者に譲渡・転貸した場合、賃貸借契約を解除することができる。その一方で、判例理論は、無断譲渡・無断転貸に、賃貸人の信頼を損なうような事情がない限り契約の解除を認めないとしている。ここで取り上げる判決は、大規模堅固建物を建築するために土地賃借人が土地賃貸人に無断で土地賃借権を関連会社に譲渡した事例であり、一見これまでの判例理論に則った判断を示しているが、事案の特殊性を考えると疑問が残るものとなっている。

キーワード:土地、賃貸借、無断譲渡、無断転貸、大規模建物、背信性

 

The Appraisal Journal Fall 2015

外国鑑定理論実務研究会

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