不動産研究 52-4

第52巻第4号(平成22年10月) 特集 : 地球温暖化対策・省エネ制度と不動産

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第52巻 第4号

特集 地球温暖化対策・省エネ制度と不動産

地球温暖化対策に関する法政策の現状と課題

柳 憲一郎

気候変動枠組み条約の発効以降における国内外の動向を紹介するとともに、 気候変動に関する国内法である温暖化対策法、 省エネ法、 新エネ法、 フロン類回収・破壊関連法の現状を記述し、 その全体像を鳥瞰した。 また、 温暖化防止対策に係る政策手法として、 今後導入が検討されている国内排出量取引制度に焦点を当てて、 その制度構築に際して検討された国内排出量取引制度検討会や法的課題検討会の議論を紹介するものである。

 

キーワード :気候変動、 法政策、 温暖化対策法、 省エネ法、 国内排出量取引制度

 

Key Word:Climate Change, Policies and Laws, Global Warming Countermeasures Act, Energy Conservation Act,
       Japan Verified Emission Reduction System

 

東京都建築物環境計画書制度の展開
The development of The Green Building Program by The Tokyo Metropolitan Government

石原 肇

東京都では2002年から環境確保条例に基づき、 延床面積が10,000㎡を超える新築建築物を対象として建築物環境計画書制度を施行した。 条例改正により2005年から建築物環境計画書制度の強化を行うとともに、 分譲マンションを対象とした環境性能表示制度を導入した。 東京都では2007年に気候変動対策を策定し、 このための条例改正を2008年に行い、 わが国初の大規模事業所に対する温室効果ガスの総量削減義務の導入とともに、 建築物環境計画書制度やマンション環境性能表示制度等のさらなる強化を行った。 本稿では、 2010年から施行した建築物環境計画書制度やマンション環境性能表示制度の改正内容について報告する。

 

キーワード :東京都、 建築物環境計画書制度、 マンション環境性能表示制度

 

Key Word:Tokyo Metropolitan Government, The Green Building Program, The Green Labeling Program for Condominiums

 

東京都の温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度-Tokyo Cap-and-Trade Program-

棚田 和也

東京都は、 2010年4月から日本で初めての 「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」 を開始した。 オフィスビルをも対象とする点では世界で初めての制度でもある。 削減義務の基本的な内容は、 大規模にエネルギーを消費する建物・施設 (大規模事業所) の所有者等が、 エネルギー消費に伴って排出されるCO 2について、 5年間の計画期間内における当該事業所からの総排出量を、 基準排出量と削減義務率とから算定される排出上限量以下とすることであり、 温暖化対策の取組が特に優れた事業所については、 削減義務率を軽減する 「トップレベル事業所」 の仕組みも用意されている。 義務履行においては、 排出量取引によって他者の削減した量を充てることも可能である。 本稿では、 この制度の概要について報告する。

 

キーワード :東京都、温室効果ガス排出量削減義務と排出量取引制度、トップレベル事業所

 

Key Word:Tokyo Metropolitan Government, Tokyo Cap-and-Trade Program, Top-Level Installation

 

審査付論文

住宅購入可能価格から見た首都圏新築マンション市場
The Condominium Market in the Tokyo Metropolitan Area from the Viewpoint of Possible Purchase Prices for Housing

藤澤 美恵子

本研究は購入者の可処分所得に注目し、 所得に対する住宅ローン借入可能額を割り出し、 住宅購入可能価格を算出した。 住宅購入可能価格と新築マンション分譲平均価格との比較により、 マンションの市況と住宅ローン減税を始めとする住宅政策の関係を明確にする。 さらに住宅購入可能価格を需要価格と見なし、 金利や可処分所得の予測値を使用して、 将来の住宅購入可能価格を算出した。 同時に、 回帰式により予測マンション価格を算出し、 将来も価格ギャップが継続するとの結果を得た。 所得が頭打ちの中、 持ち家政策の多様化や減税のあり方などの再考が求められる。

 

キーワード :住宅購入可能価格、マンション市場、住宅政策、ローン減税、需要価格予測

 

Key Word:Possible Purchase Prices for Housing, Condominium Market, Housing Policy, Tax Deduction for Housing Loans,
       Estimation of Demand Price

 

調査

企業の農業参入と田畑価格及び賃借料の動向-平成22年調査結果をふまえて- 

八木 正房

「農地法の一部を改正する法律」 (平成21年法律第57号) が平成21年12月15日に施行され、 一般企業からの農業参入の障壁が低くなったことから、 公共事業の縮小で従業員の雇用不安に直面している建設業者や安定的に生鮮野菜を提供したい食品業者などの農業参入が増加している。 また、 農地の 「小作料」 が 「借賃等」 となり、 標準小作料制が廃止され 「賃借料情報」 が提供されるなど、 本調査の根幹に拘わる変更があった。  本稿では、 農業経営を取り巻く環境が慌ただしく変化する中で、 田畑価格に影響するとみられる情勢について報告するとともに、 改正農地法の施行後に実施した 「田畑価格及び賃借料調」 の結果の詳細を紹介する。

 

東京及び大阪ビジネス地区におけるオフィス賃料等の予測結果(2010~2020年)

手島 健治

オフィス市場動向研究会 (三鬼商事㈱と当研究所の共同研究会) では、 今後のオフィス市況の大局的な動きを把握することを目的として、 計量的アプローチにより将来のオフィス市況の動向を推計し、 公表している。 本稿では、 この成果である東京ビジネス地区 (都心5区) 及び大阪ビジネス地区 (主要6地区) におけるオフィス賃料等の予測結果をまとめている。 主な結果は、 ①東京ビジネス地区は経済の回復が遅く、 賃料は2010年が-12.5%、 2011年が-3.2%と下落し、 賃料の底は2011年で賃料指数は89まで低下。 空室率は8%台が続き、 ピークは2010年の8.5%。 2012年から賃料は上昇に転じ、 空室率は7%前後と改善のスピードは緩やか。 その後は空室率が5%前後まで低下し、 賃料は経済成長率の予測が低いので、 年率2%前後の上昇にとどまる。 ②大阪ビジネス地区は経済の回復が遅く、 新規供給が多いことから、 賃料は2010~2011年に6~9%の下落が続き、 空室率は2011年に11.7%まで上昇。 2013年の大阪北ヤード開発等で新規供給が多く、 賃料は2013年まで下落が続き賃料指数で86となり、 空室率は2014年まで11.5%前後で高止まり。 その後空室率はゆっくり低下して2020年が8%、 賃料は経済成長率の予測が低いので、 年率2%前後の上昇にとどまる。

 

キーワード :賃料予測、 マクロ計量経済モデル、 ヘドニック分析

 

全国のオフィスストックの現状と今後の展望-「全国オフィスビル調査(2009年末時点)」 結果をふまえて-

手島 健治  菊池 慶之

日本不動産研究所は、 2009年12月末時点の全国のオフィスビルストックを調査し、 2010年9月9日に、 第5回目 (2009年12月末時点) の結果を公表した。 主なポイントは以下の通りである。

  • 2009年末時点の全都市のオフィスビルストックは8,814万㎡ (5,555棟) となり、 このうち2009年の新築が206万㎡ (92棟) と総ストックの約2%を占めている。 また、 2009年には、 総ストックの約1%にあたる87万㎡ (64棟) が取壊となった。
  • 今後の供給は、 2010年以降、 3年連続して200万㎡を超える計画があり、 特に2012年は286万㎡と2003年 (377万㎡) 以来の水準が見込まれている。
  • 10万㎡以上の超大型ビルは東京区部で圧倒的に多く、 東京周辺の横浜、 千葉、 さいたまでも相対的に多いが、 それ以外の都市では中規模ビルが多くなっており、 東京圏とそれ以外の都市でオフィスビルの規模に格差が生じている。

キーワード :全国オフィスビル調査、 オフィスビルストック、 取壊、 超大型ビル

 

海外論壇

The Appraisal Journal Spring 2010

外国鑑定理論実務研究会

資料

日本不動産研究所図書室 主な新規受入図書リスト-2010年5月下旬~2010年9月中旬-

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