不動産研究 54-4

第54巻第4号(平成24年10月) 特集:工場立地の変化と工場跡地利用

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第54巻第4号

特集:工場立地の変化と工場跡地利用

日本企業の立地調整と工場跡地利用 

松原 宏

 2008年秋の世界同時不況以降、日本国内では工場閉鎖が相次ぎ、本格的な立地調整の局面に入っている。閉鎖工場の跡地利用を検討する際には、なぜ工場が閉鎖されたのか、こうした点の理解が欠かせない。本稿では、工場閉鎖を移転閉鎖と空洞化閉鎖、選択的閉鎖の3つに分け、それぞれに対応した工場跡地利用の方向性を検討した。大都市圏と地方圏では、跡地活用の可能性も異なる。地方圏では、新成長産業関連分野の投資や集積地域の高度化計画での位置づけが求められる。大都市圏では、工場跡地利用の新たな選択肢として、研究開発機能への再投資を促す政策が重要になってきている。

キーワード:研究開発機能、工場跡地利用、工場閉鎖、大規模工場、立地調整

 

居抜き利用の促進による設備投資の拡大に関する考察
-投資コストの削減を通じた国内投資環境の整備-

加藤 讓

 長引く需要の低迷に加えて、国内の事業環境の悪化が設備投資に悪影響を与えている。設備投資の低迷は、我が国の産業の国際競争力低下につながる恐れがあるため、設備投資の拡大を通じた我が国産業の持続的発展の実現が喫緊の課題となっている。設備投資を拡大させる要因のひとつとして、投資コストの削減があげられる。空き工場等の居抜き利用の促進は、投資コストの削減によって収益率が高まり設備投資の拡大につながる効果が期待できる。空き工場情報に関する取り扱い方法の適正化や業種不適合に対応した地域連携、改修費等の支援を行うことで空き工場への立地に係る課題を解決し、居抜き利用の促進を通じた国内投資環境の整備と設備投資の拡大を図ることが求められる。

キーワード:居抜き利用、空き工場、情報の非対称性、一関市、春日井市

 

首都圏近郊における大規模工場の撤退要因と跡地活用上の課題
-住工混在が進んだ多摩地域を対象とした調査研究より-

山本 秀一  阿部 剛志  岡田 玲子  萩原 理史

 首都圏有数のものづくり産業の集積地域である多摩地域でも、近年、大規模工場の撤退が顕在化している。多摩地域では、戦後から大規模工場の立地が進んだが、その後、工場周辺では、住宅系利用を中心に市街化が進んだ。こうした背景から、大規模工場の撤退要因としては、企業の立地調整による結果に加え、工場施設の更新時期の到来や、敷地周辺の市街化による影響が指摘できる。一方、従業員の通勤と物流の双方に利便性が高く、また、後背圏人口が大きい立地特性から、撤退後跡地は、適切な土地利用転換等によりまちづくりや産業振興の面で有効活用できる可能性が高い。本稿では、これらの認識に基づき、多摩地域における大規模な企業所有地を対象とした調査分析結果より、住工混在市街地における大規模工場の撤退後跡地の有効活用に向けた課題を論じる。

論考

-「駅距離」・「築年数」・「規模」からみた考察-
CharacteristicsofOfficeBuildingStocksbyDistrict
-Perspectiveof”ProximitytoStation”,”BuildingAge”and”GrossBuildingArea”

谷 和也

 本稿では、東京の主要オフィス地区(丸の内・大手町地区、日本橋地区、赤坂地区)を対象に、既存オフィスビルストックの「駅距離」・「築年数」・「規模」に関する地区ごとの特徴(地域特性)を、定量的に把握することを試みた。分析の結果、地区ごとの特徴が明らかになり、オフィスビルストックの地域特性が確認された。これらの特徴はオフィスビルの主要な価格形成要因であり、オフィスビルの市場競争力及びオフィス地区間の格差を測る上でのベンチマークとして理解可能であることから、これらを明らかにすることは不動産市場の透明性及び不動産鑑定評価の精度向上に寄与するものである。

キーワード:全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、価格形成要因

 

調査

東京及び大阪ビジネス地区におけるオフィス賃料等の予測結果
(2012~2020年)

手島 健治

 オフィス市場動向研究会(三鬼商事㈱と当研究所の共同研究会)では、今後のオフィス市況の大局的な動きを把握することを目的として、計量的アプローチにより将来のオフィス市況の動向を推計し、公表している。本稿は、3月に公表した東京及び大阪ビジネス地区におけるオフィス賃料等の予測結果を、8/22公表の短期経済予測などの結果を踏まえて見直したものである。①東京ビジネス地区の2012年は復興需要等で回復するが、大量供給のため、賃料指数は過去最低の85まで低下し、空室率も8.7%と高止まり。2013年は新規供給が過去平均より少なく、経済も堅調と予測され、空室率は7.3%に低下し、賃料も上昇に転換。2014年と2015年は新規供給が過去平均程度で、回復が継続し、空室率は6%後半まで低下、賃料は年率5~8%上昇。その後は、経済成長率の予測が低いので、空室率が6.5%前後で横ばいとなり、賃料は年率1%前後の上昇にとどまる。②大阪ビジネス地区の2012年は新規供給が過去平均程度で、空室率は改善し、賃料の下落幅は縮小。2013年はグランフロント大阪等の大量供給で空室率が再上昇し、賃料の下落幅も拡大。2014年は新規供給が過去平均より少ないが、2次空室等で空室率は高止まりし、賃料指数は過去最低を更新して78まで低下。2015年以降は新規供給が少ないと予測され、空室率は2020年に6.5%。賃料は年率3%強上昇するが、2020年でも賃料指数は94と厳しい状況が続く。

キーワード:賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

海外論壇

The Appraisal Journal Spring 2012

外国鑑定理論実務研究会

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