みなさんこんにちは。日本不動産研究所の幸田仁です。
「シェアハウス」という賃貸住宅が、2000年代ごろからブームになっていましたが、最近は住まい方の一つとして若者層を中心に定着してきました。今回はこのシェアハウスについて、首都圏と地方の機能的役割、特に地方におけるシェアハウスについて考えていきたいと思います。
国土交通省が発行した「シェアハウスガイドブック」によれば、シェアハウス(共同居住型賃貸住宅)とは、「一つの賃貸物件に親族ではない複数の者が共同で生活する」賃貸住宅とされています。具体的にはリビング、キッチン、浴室、トイレ、洗面所等を他の居住者と共同して利用する賃貸住宅です。また、シェアハウスとなる建物は空き家となった戸建住宅を有効活用するものや、古くなったアパートやマンションをシェアハウスにリノベーションするものが中心でしたが、最近は大手不動産会社がコワーキングスペースとシェアハウスを兼ね備えた物件をシリーズで展開する事例も出てきています。
首都圏を中心にシェアハウスが増加している原因を考察すると、まず経済的な要因があげられます。近年、賃貸住宅の家賃が上昇していることに加え、入居するために必要な初期費用が高額であることもあり、割安なシェアハウスが若者単身世帯(20代~30代)を支持されているようです。
20代前半の若者は高校や大学時代にコロナ禍に見舞われ、リモート授業や通学の制限などにより、他者とのコミュニケーションが自由にできなかったことも影響しているかもしれません。
また、最近は1カ月以上滞在する外国人観光客の間では、ホテル代より割安であることに着目してシェアハウスを利用するニーズが増えているとの報道もあります。
このほかにも、シェアハウスであれば常に人がいるため安心できること、他者との交流ができることもメリットです。一方で、個室以外では他人が同居しているので、騒音が気になること、キッチンやリビングなどの共用スペースの掃除がされないと汚くなってしまうというデメリットもあるようです。
シェアハウスは通常の賃貸住宅とは異なり、共同生活を行う場でもあるので、他者との関係性によっては住みやすいと感じる場合もあれば、逆に同居人に気を遣う必要もあるという側面がありそうです。
現在、シェアハウスの供給は東京圏に集中しており、特に経済的な側面のメリットを感じた若者による需要が増えていますが、地方創生のための移住促進や、関係人口(「移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々」:総務省)の創出・拡大にも役立つ可能性があります。
神戸大学都市安全研究センター教授の近藤民代氏は、サブスク型多拠点居住サービスを展開する「ADDress」利用者へのインタビュー等を通じた調査を行っています。この調査によると、利用者にとっては今までのコミュニティとは異なる人に出会うことで自分の価値観が変わる効果が生まれたり、移住に向けた新しい住まい方を探すお試し住居にもなっているようです。また、ADDressの施設に入れ替わり入居する利用者が地域の一時的なメンバーとして認識されることで、地域住民との関係を持つ状態が生み出され、地域にとっても良い影響がある可能性を示しています。
シェアハウスという新たな住まい方は、首都圏では主に経済的な側面からくるメリットが居住動機になっているのに対し、地方では利用者の価値観や地域に対する評価を通じて見えていなかったものを再発見・再評価されることなど、地域住民にも良い影響を与える役割を果たしているようです。
地方のシェアハウスは、大都市圏におけるそれとは異なり、利用者と地域住民が相互に影響を与え合いながら、出会いや繋がりを促す拠点としての性格も合わせ持ち、様々な人々の関わりの中で地域が再評価される可能性を持っている施設といえるかもしれません。
(幸田 仁)