【コラム】「聖地巡礼」
みなさんこんにちは。日本不動産研究所の幸田仁です。
近年、アニメや映画のロケ地、スポットなどを訪れるファンが増加しています。これを「聖地巡礼」と言うようです。本来、聖地巡礼とは、宗教的に重要な場所を訪れることを意味し、四国のお遍路などが代表的です。
今回はアニメのロケ地等を訪れる「聖地巡礼」について考えてみたいと思います。なお、本来の聖地巡礼とは異なる意味として括弧書きで「聖地巡礼」とします。
ブームの始まりと言われるアニメ「らき☆すた」
埼玉県旧鷲宮町(現:久喜市)は、アニメファンによる「聖地巡礼」ブームの始まりとして取り上げられます。旧鷲宮町は全国的に有名な観光地があるわけではなく、昭和の雰囲気が漂う地方の町です。この町の鷲宮神社を舞台としたアニメ「らき☆すた」が2007年に放映されると、旧鷲宮町に見慣れない若者達が訪れるようになったそうです。
地元の人達は、最初は戸惑いながらも次々と訪れる若者達に何かおもてなしをしたいと考え、鷲宮神社の絵馬ストラップの販売などを行ったところ、大人気となりました。その後も若者達との交流は続き、「らき☆すた」の聖地として旧鷲宮町はファンと地元の人達との交流も深まる関係ができました。報道によると、鷲宮神社の木製鳥居が倒壊したときも、地元の人々やファンの支援を受けて、再建が実現したとのことです。
「聖地巡礼」の魅力
私は、アニメで「聖地巡礼」が成立する理由の一つに、日本アニメのクオリティも大きく貢献していると感じます。例えば「とある科学の超電磁砲(とあるかがくのれーるがん)」では、東京都立川市や多摩市、「怪獣8号」は横浜市や相模原市、町田市にある街並みやスポットの風景が忠実に再現されています。また、「STEINS;GATE(シュタインズゲート)」では、ストーリーの中で秋葉原の細かな街並みに加え、モデルとなった実在する牛丼店には多くのファンが訪れています。
このほか、アニメやゲームでも人気の「頭文字D(イニシャルD)」では、主人公である藤原拓海の実家「藤原豆腐店」は、渋川市に実在した「藤野屋豆腐店」をモチーフにしていました。この豆腐店は区画整理で閉店・解体された際に店舗看板や外装などが「伊香保おもちゃと人形自動車博物館」に寄贈されました。また、伊香保温泉から榛名湖に通じる榛名山道路(アニメでは「秋名山」)は、頭文字Dに登場するコースの一つとして有名ですが、その麓には「レーシングカフェD’Z GARAGE」があり、頭文字Dのグッズ販売やイベントが開催され、現在も多くのファンが集まるようです。
一般社団法人アニメツーリズム協会は、毎年「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を公表しています。候補地は北海道から沖縄県まで全国にわたってます。前述した立川市でもたちかわ観光ナビでアニメ聖地88に選ばれたことをPRしています。
「聖地巡礼」に必要な街の日常
「聖地巡礼」は、ファンのアニメ作品に対する愛着とともに、アニメで描かれる日常的な場所に身を投じ、その場所のシーンに入り込んだような没入感を体験することで、アニメと自身が一体化するような魅力があると感じます。
観光地といえば、一般には非日常的な空間、特別な体験を求めて訪れる場所であり、それが人を惹きつける魅力であるが故に、その観光地が所在する都市の日常的な街並みからは遠ざかる傾向があるかもしれません。
一方で、「聖地巡礼」の場合は、ファン自身がアニメというフィルターを通しながらその街の日常を体験することこそが特別なのであって、地元では変わらない日常の場所がファンにとっては特別な場所になるという逆転現象が起きているのではないかと感じます。これは、アニメをきっかけとしつつも、等身大の街の姿を知ってもらうよい機会になるのではないでしょうか。
ファンがアニメを通じてその地域や場所の日常に魅力と特別感を感じていることを理解しつつ、地元の人達が穏やかに迎え入れることで、ファンにとってのいわゆる「尊い場所(聖地)」へと転じていくのではないでしょうか。
(幸田 仁)