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【土地と人間】 分譲マンションの転売規制


みなさんこんにちは。日本不動産研究所の幸田仁です。

再開発等によって建築される分譲マンションについて、転売を一定期間禁止する条件をつけて販売するニュースが話題になっています。大手マンション事業者が販売する一部の新築分譲マンションについて、引き渡し前に転売活動をした場合は手付金の没収や、違約金を課すこと等を販売時の条件とするものです。また、一般社団法人不動産協会も、会員事業者に対する分譲マンションの販売に関する取り組み方針として、「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて」を令和7年11月に発表しました。

そこで今回は、分譲マンションの転売規制の意味とその背景について考えていきたいと思います。

人気が集中する新築分譲マンション

新築分譲マンション需要は、自ら住むことを目的とする「マイホーム需要」が中心であることがこれまで社会的に通底した認識でした。しかし、東京都心部における一部の新築分譲マンションでは、申し込み者が数倍から数十倍になる状況がここ数年続いたことで、これらのマンションに希少価値が発生し、販売価格よりも高い価格で転売される状況が生まれています。結果として人気の高い分譲マンションは、これまでのような「住むためのもの」に加え「高く売れる投資商品」という考え方が社会の中で容認され、短期での転売目的の購入者層が生まれてきたといえるでしょう。

社会学者エミール・デュルケームによれば、社会が高度に発達していくと、様々な機能(職業や業界、集団など)がそれぞれの関係性を保ちながら時間をかけて連帯していくと説明します(有機的連帯)。また、有機的連帯が複雑化するほど、社会のルールも広範囲に及んでいくとも説明します。

しかし、これらの諸機能が協同することもなく細分化され、何の規制もされないと、社会は異常形態になるとし、これを「アノミー(無規制状態)」という言葉で説明しました(具体的には恐慌や資本と労働の対立を例示してアノミーの異常性を説明しています)。そして、アノミーを解消するためには、機能が細分化されていくことを抑制するのではなく、細分化した機能(集団)が共通の目的をもっていることを感じとるよう、社会全体の中に正しく位置づけることが重要であると説明します。

この考え方を今回の転売規制の動きに当てはめてみます。

新築分譲マンションは長らく「マイホーム」として購入する人々が中心でしたが、徐々に「投資商品」として購入する人々も現れたことで細分化が起こり、購入目的の異なる集団(諸機能)が相互に無関係な状態になってしまったともいえます。これを放置すればアノミー化してしまいます。そう考えると、今回の転売規制による取り組みは、分譲マンションに関する社会的な機能を再整理したといえるのではないでしょうか。

転売規制を行った経緯

今回の転売規制の取り組みにいたった経緯を確認すると、転売目的による購入や一部外国人による投機的取引が、住宅価格の上昇のほか、賃貸マンションにおける家賃の高騰につながっているとしています。

しかし、東京都心部の分譲マンションは世界の主要都市と比べても割安なため、外国人富裕層によるセカンドハウス等としての需要は根強いといわれています。つまり、見方を変えればまだ安いと感じる人たちも一定数存在するとも解釈できます。

このように、分譲マンションの価格高騰の要因は複雑に絡み合っており、販売時に制限をかける側(販売者)としてもその点は十分に理解しているはずです。そのため、転売規制に踏み切った理由についてはより広い視野で考える必要があると考えます。

不動産鑑定士の役割

弊所初代会長の渋沢敬三は、初代理事長の櫛田光男を迎えるにあたり、「ひとつ研究所で不動産―ことに土地の生理学・病理学―といったようなものを、とっくりと勉強してもらえないかね」と伝えたといわれています。

不動産の病理を紐解くという視点に立てば、分譲マンションの価格高騰や転売規制についても、価格の変動(あるいは高騰)や転売目的の購入者の存在という表面的な「症状」だけに囚われることなく、その背後に潜む「病理」に目を向けなければなりません。

そのためには不動産市場について、単に価格の動きを追うだけでなく、その背景にある社会的・経済的な構造変化とともに社会全体を読み解く力が必要です。

なぜ不動産の価格が動くのか、何が不動産を取り巻く社会を変えているのかを冷静に診断し、長期的視点から市場の「健全さ」を見つめ直すことも不動産鑑定士の役割の一つではないかと感じます。

(幸田 仁)