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【土地と人間】AI価格査定はどこに向かう?


みなさんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

生成AIは現在、ものすごい速さで技術的な進化が進んでいます。

報道によれば、生成AIに2025年度の大学共通テストを受験させたところ、15科目のうち9科目で満点を獲得、一部の生成AIは最難関である東京大学の二次試験についても合格水準まで到達したとのことでした。

不動産の分野でも取引が多い都市部の戸建住宅やマンションについて、AIによる価格査定が急速に浸透しています。住所、土地・建物の面積、築年などの項目を入力すると、短時間で価格を査定してくれるサービスです。最近は生成AI(大規模言語モデル)により会話形式でおすすめ不動産を説明し、様々な相談にも対応してくれるサービスも登場しています。

24時間、迅速に不動産の価格を査定してくれることはとても魅力的です。また、AIが査定しますから、業社側にも属人的にならず経験の差による査定価格のばらつきが生じないというメリットもあるようです。そこで今回は、AI価格査定による不動産取引の効果と課題について考えてみたいと思います。

かつての「呼び値」問題との類似性

日本が高度経済成長期の1960~70年代、大都市圏において住宅地の不足や公共事業による土地取得需要が高まった時期に、不動産の価格が「呼び値」によって取引される現象が横行しました。

「呼び値」とは、思惑買い、投機的な取引や、売主の言い値、噂レベルの情報に基づく取引など、安易・不合理な方法で価格が決まってしまうことです。当時、この価格が「実勢価格」として一人歩きすることで、さらに価格が高騰するという現象が生じ、「呼び値」による不動産取引が国会でも大きな問題として議論されました(実は、不動産鑑定評価制度創設の一因になったものこの問題でした)。

AIによる価格査定は「呼び値」問題とは異なるものですが、逆に「合理的すぎる」ことが、結果的に「呼び値」と同じ問題が生じる可能性もあると感じています。

AI 査定価格の効果と課題

取引が多い大都市の一部のエリアにおける戸建住宅やマンションでは、AIにより査定された価格と実勢価格との差は小さいという検証もされています。このような結果により、AI査定価格は「適正な価格」であり、理に適っていると取引当事者も考えるでしょう。かつての「呼び値」が非合理な価格とわかっていても取引せざるを得ない状況とは異なります。

しかし、「AI査定価格は合理的である」という心理が働くと、それがアンカー(錨)となり、その後の取引当事者の意思決定に大きな影響を与える可能性があります。

特に学習データとして情報化されない「地域が持つ雰囲気」や「住民のコミュニティの安心感」といった質的な価値は、本来価格に反映されるべき要素であったとしても、AI査定価格がアンカーとなってしまうことで、これらの価値は切り捨てられてしまうかもしれないのです。

「臨場感」を感じとることの重要性

AIは、膨大なデータを学習し、最適なロジック(アルゴリズム)に基づいて実勢に近い価格を査定します。

しかし、AIでは不動産取引現場の「臨場感」を味わうことはできません(今のところ)。例えてみれば、音楽をスマホで聴くか、ライブで聴くかの違いです。スマホではいつでも気軽に聴けますが、ライブで感じる迫力、演奏者の熱量や観客との一体感をAIが価値として感じ取り、その感覚を取引当事者に伝えることはできないのです。

AIは今後も進化し続けることでしょう。しかし、現場の臨場感や数値化されない価値を捉える力まで備えることができるかどうかはわかりません。人間が果たす重要な役割はここにあると考えています。そのためにも不動産鑑定士は、現場感覚を養い、歴史的・文化的視点から地域と不動産の状況を繊細に感じ取り、AIでは数値化されない価値を統合して価格に反映させる能力を磨き上げていくことが重要だと思います。

(幸田 仁)