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【土地と人間】暮らしを支える見えないインフラ


みなさんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

アメリカとイスラエルが令和8年(2026年)2月28日、イランを攻撃したことで、現時点ではイランによりホルムズ海峡が事実上封鎖されている状態が続いています。日本は原油の9割以上を中東諸国からの輸入に頼り、そのほとんどがホルムズ海峡を通過しているため、今後の動向が気になるところです。

土地が人間の生活と活動との基盤であるならば、原油は衣食住に欠かせない資源です。そこで今回は、昭和48年(1973年)に起きた第1次オイルショック当時の社会を振り返りつつ、現代社会における暮らしへの影響について考えてみます。

オイルショックと物価高騰

昭和48年(1973年)、エジプトとシリアがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛け、第四次中東戦争が始まりました。当時のペルシャ湾岸を拠点とする産油諸国は、原油価格を4倍近くまで引き上げること等でイスラエルを支援する国々に対抗し、その影響で日本の社会経済は大きな影響を受けました。いわゆる第1次オイルショックです。

原油価格の高騰は、人々の不安やパニックを引き起こしました。様々な生活用品や食料品が品薄となり、消費者はあわてて商品を入手しようとした結果、ますます物価が上昇するという悪循環(いわゆる「狂乱物価」です。)に見舞われました。紙の生産に不可欠な重油が不足するという風評が発端となり、トイレットペーパーなどの買い占め騒動が発生したのは有名です。

また、昭和48年8月10日に経済企画庁から発表された「年次経済報告(いわゆる経済白書)」では、当時の物価高騰とともに土地価格も急上昇した結果、できるだけ早めに土地を取得することが有利と考えられ、それがまた地価を吊り上げるという悪循環が生じ、土地を持たない人々の取得機会が地価上昇によって少なくなることは大きな社会問題といえるとし、不動産市場への影響についても言及しています。

見えないインフラに依存する現代社会

第一次オイルショックと狂乱物価は、つまりは「物理的なモノ不足」と「物価の高騰」でした。その意味では、原油価格の高騰が物価上昇に繋がる状況は現在と似ているように感じます。

ただ当時と異なるのは、現代が「デジタル空間」によって成り立っていることです。例えばスマホ利用、電子決済による買い物、ネット予約等の各種システム、AIの普及は、データセンターや通信インフラを安定的に動かす必要があるため、膨大な電力と通信網の製造・維持管理等のための資源である原油等が必要となります。

データセンターや通信網は、日常生活では物理的に見えないため実感は湧きません。しかし、ひとたび障害が起きれば、たちまち日常生活が機能不全に陥る可能性があります。現代の不動産は電力や通信網という「見えないインフラ」との不可分な依存関係がその価値を発揮するために必要なのです。スマートビル、タワーマンションなどの最先端のスペックを持つ建物ほど「スマート化する不動産の落とし穴」に陥るリスクを抱えているともいえます。

現在のデジタル社会は、リアル空間の制約から解放され、多様な暮らし方や働き方が可能となり、場所に縛られない自由を手に入れました。しかし実のところ、その裏側では巨大なデータセンターが稼働し、原油をはじめとする莫大な化石燃料由来の設備や電力を消費しているという現実が存在します。高度なネット社会といえども、化石燃料資源への依存は大きく、大規模な電力供給と大容量の通信網という物理的なインフラに強く縛られているといえるでしょう。化石燃料のほとんどを輸入に頼っている日本では、遠い国で起こった出来事といえども諸物価の上昇を引き起こす原因となり、暮らしへの影響は大きいと言えるかもしれません。
(幸田 仁)