不動産鑑定
評価の
基礎知識

basic_knowledge

1. 不動産鑑定評価とは

 不動産鑑定評価とは、「土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利の経済価値を判定し、その結果を価額に表示すること」(不動産の鑑定評価に関する法律第 2 条第 1 項)です。つまり、不動産の鑑定評価は不動産の経済価値を金銭に見積もる行為全般を指します。ですから、取引当事者が取引の対象となっている不動産について主観的に値付けをすることや、宅地建物取引業者が取引の仲介等の一連の業務のなかで売買価格等を設定するために価格査定を行ったり、顧客に対し値付けに関してアドバイスすることがありますが、これらも広い意味では不動産の評価であるといえます。ただし、不動産の鑑定評価に関する法律では、これら仲介等における価格査定や建築士の建物価格査定等は、不動産の鑑定評価からは除外され、「他人の求めに応じ報酬を得て、不動産の鑑定評価を業として行うこと」が「不動産鑑定業」と定義され、不動産鑑定士(不動産鑑定士補を含む 以下同様。)以外の者が鑑定評価を行ってはならないとされています。

 また、不動産鑑定士が準拠すべき不動産鑑定評価の実務指針である不動産鑑定評価基準では、不動産の鑑定評価について、「不動産の鑑定評価は、その対象である不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することである。それは、この社会における一連の価格秩序の中で、その不動産の価格及び賃料がどのような所に位するかを指摘することであって、…高度な知識と豊富な経験及び的確な判断力を持ち、さらに、これらが有機的かつ総合的に発揮できる練達堪能な専門家によってなされるとき、初めて合理的であって、客観的に論証できるものとなる」と指摘しています。

 さらに詳しく不動産鑑定評価を定義するならば、「一般の商品の価格が自由なプライス・メカニズムの下で形成されるのに対し、不動産は個別性が強く、取引市場も局限されているので、自由なプライス・メカニズムが成立し難い。不動産、特に土地の適正な価格を求めようとすれば、合理的な市場の価格形成機能に代わって不動産の適正な価格を判定する作業が必要となる。このような意味で、不動産の鑑定評価とは合理的な市場があったならばそこで形成されるであろう正常な市場価値を表示する価格を不動産鑑定士が的確に把握することを中心とする作業である」(日本不動産研究所編「不動産用語辞典第 7 版」)といえます。

2. 不動産の財としての特性 ―不動産鑑定評価の必要性―
(1) 不動産の財としての特性

 土地は全ての経済活動及び人間生活にとって最も基礎的な土台ですが、一般の財と異なる次のような性質を持っています。不動産全般についても、このような土地としての特性を反映した性質を有しています。

  • 土地は、埋立のような例外を除いて、新たに生産することが不可能であり、土地の総供給量は固定的です。しかし、土地の利用形態の転換は可能であり、ある特定の用途の土地の供給は長期的には可変的です。
  • 土地は移動することができません。
  • 土地は区分して利用されますが、どの土地も隣の土地と連携して互いに関連し合っています。このことはまた、個々の土地で営まれる経済活動(生産要素としての土地利用)において種々の外部効果が発生します。
  • 土地が利用可能となるのは、道路・鉄道などの交通施設、上下水道・電力・ガス等の公益施設などの社会資本が存在するからで、社会資本が利用可能となってはじめて土地は経済的価値を持ちます。
  • 土地はそのおかれている位置によって用途的な性質を異にします。都心からの距離、交通施設、その他の都市施設の利用可能性及びそれらからの距離、その土地の歴史的・地理的条件や環境によって、その経済価値が異なることになります。
(2) 不動産市場の特性 ―市場メカニズムを阻害する要因―

 土地は新たに供給(すなわち生産)することができないという本質的な特徴を持っています。土地は一般の財のように、価格が上昇すれば新規に供給が生じるということはほとんどなく、不動産の所有者がどのような動機によって売り手として市場に現れてくるのかという問題にすぎません。所有者である売り手は、土地の価格が上昇したからといって、その不動産を売却しようとするケースは少なく、資金繰り・破産・納税等何らかの特別な理由による換金の必要性が生じないかぎり、多くの場合売り手として市場に現れることはありません。

 このように制限された土地の供給(新たに生産できないということ)のために、土地建物から構成される不動産もその所在する場所ごとに個別性をもち、同じ不動産は二つと存在しません。不動産には全く同じものが存在しないという性質が不動産の個別の価格に決定的な影響を与えます。

 このように、「新たに生産できない」、そして「全く同じものが存在しない」という特性があるために、その情報にも不完全性が生じ、一般の財のような時価を形成する効率的な市場の成立は困難となります。

 しかし、きわめて不完全でありながらも不動産には取引市場があり、どのような種類の不動産であるかによりその市場を異にすることになります。

(3) 不動産鑑定評価の必要性

 不動産鑑定評価基準には次のように述べられています。「不動産の現実の取引価格等は、取引等の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり、しかもそれは個別的な事情に左右されがちのものであって、このような取引価格等から不動産の適正な価格を見出すことは一般の人には非常に困難である。したがって、不動産の適正な価格については専門家としての不動産鑑定士の鑑定評価活動が必要となるものである。」

3. 不動産鑑定評価制度
(1) 不動産鑑定評価制度の概要

 取引当事者等の主観的な見方や取引等の事情を排した不動産の適正な価格を求めるためには、十分に効率的であるとはいえない不動産市場の市場メカニズムについての体系的な知識や技術を体得した専門家の鑑定評価活動に依存せざるを得ません。

 わが国においては、昭和 30 年代末に、高度成長による都市への急速な産業・人口の集中を背景とした土地・住宅問題に対応するために、不動産鑑定評価の専門家によって鑑定評価活動が担われることによって、公共財としての性格を有する土地等の適正な価格の形成に資することを目的として、不動産鑑定業の登録制度、不動産鑑定士等の資格制度などを規定した「不動産の鑑定評価に関する法律」(昭和 38 年 7 月16 日法律第 152 号)を中核とする不動産鑑定評価制度が創設されるとともに、土地の適正な価格に関する情報を社会一般に提供する仕組みである地価公示制度を規定した「地価公示法」(昭和 44 年 6 月 23 日法律第 49 号)が制定されました。

 当時の立法主旨においては、地価高騰の原因として、需給両面の要因のほかに、土地特有の性格によって生ずる地価の合理的な形成の困難さがあり、特に適正な地価に関する情報不足が地価の合理的な形成を妨げ、はなはだしくこれを混乱させる原因となっているという認識のもとで、不動産鑑定評価制度の意義を土地特有の性格に起因する現実の地価決定の不合理性を極力排除して、地価形成の仕組みに合理性を与えようとする、いわば土地の流通対策というべきものであると指摘するとともに、公共用地の取得等における公正妥当な補償額の算定に資することを通じて、公共用地取得の適正化・円滑化をも意図するものであるとしています(櫛田光男・大石泰彦編(1971)、「土地問題講座 2 土地経済と不動産鑑定評価」、鹿島出版会)。

(2) 不動産の鑑定評価に関する法律

 不動産の鑑定評価に関する法律は、同法第 1 条に規定されているとおり、「不動産の鑑定評価に関し、不動産鑑定士及び不動産鑑定業について必要な事項を定め、もつて土地等の適正な価格の形成に資すること」を目的としています。

 前述のとおり、この法律は、「他人の求めに応じ報酬を得て、不動産の鑑定評価を業として行うこと」を規制しており、不動産の鑑定評価を業として行う場合には不動産鑑定業の登録が必要となります(同法第 22 条)。不動産鑑定業の登録のためには、事務所ごとに専任の不動産鑑定士を一人以上置くこと(同法第 35 条)などの要件を満たさなければなりません。また、不動産鑑定士の資格制度も同法によって規定されており、不動産鑑定士の資格を取得するためには、不動産鑑定士試験への合格及び実務修習の修了といった要件を満たしたうえで、不動産鑑定士の登録を受ける必要があります(同法第 15 条)。

(3) 不動産鑑定評価基準

 不動産鑑定評価制度において、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たって、その拠り所となる実質的かつ統一的な行為規範として、昭和39 年に「不動産鑑定評価基準」(宅地審議会答申)が設定されました。この「不動産鑑定評価基準」は、通常の法令のような形式で制定されたものではありませんが、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たって、常に準拠すべきものであると位置付けられています。

 「不動産鑑定評価基準」は平成14年に全部改正、平成19年、平成21年及び平成26年に一部改正されています。

 現行の不動産鑑定評価基準は、不動産鑑定評価全般にわたる実務指針である「総論」と不動産の種別及び類型に応じた評価手法等の具体的な指針である「各論」で構成されており、さらに、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」が示されています。

 なお、平成19年、平成21年及び平成26年における基準改正の概要は次のとおりです。

① 平成19年改正(平成19年4月2日一部改正)

a. 基準改正の背景等

 不動産証券化市場の急速な進展に伴い、その健全な発展と透明性の確保のため、投資家や市場関係者に対し利益相反の回避や取引の公正性を示す上で不動産鑑定評価の果たす役割が増大しています。

 また、経済社会状況の変化に伴う鑑定評価に対するニーズの変化により、市場関係者やエンジニアリング・レポー卜作成者との連携の必要性、鑑定評価書における説明責任や比較容易性等が強く要請されています。

 このようなことを背景として、平成19年4月2日付け国士交通事務次官通知で不動産鑑定評価基準等が一部改正され、証券化対象不動産の鑑定評価に関する基準の明確化等が行われました。

 改正では、不動産鑑定評価基準に「各論第 3章」を新設し、証券化対象不動産として鑑定評価を行う場合の適用範囲、鑑定評価にとっても重要な資料であるエンジニアリング・レポートについての不動産鑑定士の主体的な活用、DCF法の適用過程の明確化や収益費用項目の統一等が盛り込まれました。

b. 「各論第 3 章」の概要

ア.証券化対象不動産の鑑定評価
 証券化対象不動産とは、不動産投資法人などが取得(予定も含む)・保有する不動産のことです。そして、証券化対象不動産の鑑定評価の結果は、依頼者だけでなく広く投資家にも大きな影響を及ぼすので、その鑑定評価に当たっては、通常の鑑定評価にも増して詳細な調査や説明責任が求められます。

 このようなことから証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、各論第 3 章を適用して鑑定評価を行い、鑑定評価書の表紙などに各論第 3 章を適用したことがわかるように記載することとされています。

イ.エンジニアリング・レポート(以下「ER」という)の活用
 ERとは、証券化対象不動産の鑑定評価に当たって対象不動産の個別的要因等の確認等に必要となる、建築物・設備等及び環境に関する専門的知識を有する者が行った対象不動産の状況に関する調査報告書のことです。証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、原則として必要な資料とされており、不動産鑑定士は、依頼者に対し当該鑑定評価に際し必要なエンジニアリング・レポートの提出を求め、その内容を主体的に分析・判断した上で、鑑定評価に活用しなければなりません。
 (不動産鑑定評価基準各論第 3 章別表 1 ‒P9‒ の様式を参照)

ウ.DCF 法の適用過程の明確化や収益費用項目の統一
 証券化対象不動産は、その多くが投資用不動産市場に属し、需要者は国内外の法人投資家等が中心になります。当該需要者は一般的にその収益性を重視して取引を行う傾向にあることから、証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、収益還元法による収益価格を重視することになります。収益還元法には、直接還元法と DCF 法がありますが、各論第 3 章では DCF法のを中心に、適用過程の明確化(鑑定評価書の説明責任の向上のため)や収益費用項目の統一等(鑑定評価書の比較容易性の向上のため)が図られています。
 (不動産鑑定評価基準各論第 3 章別表 2 ‒P10・11‒ の様式を参照)

② 平成21年改正(平成21年8月28日一部改正、平成22年1月1日施行)

 依頼者のニーズの多様化や企業会計における不動産の時価評価の一部義務化等に伴い、不動産鑑定評価基準によらない価格等調査のニーズの増大が想定される一方、依頼目的等に見合わない簡便なものが依頼されるなど、トラブル発生の可能性が出てきました。

 これに対応するため、不動産鑑定業者が業として価格等調査を行う場合に、当該価格等調査の目的と範囲等に関して依頼者との間で確定すべき事項及び成果報告書の記載事項等について定めた「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」(価格等調査ガイドライン)が平成21年8月に策定されました。

 これを踏まえ、平成 21 年の基準一部改正では、総論第8章鑑定評価の手順において、第2節として「依頼者、提出先等及び利害関係等の確認」が付け加えられました。

③ 平成26年改正(平成26年5月1日一部改正、平成26年11月1日施行)

 不動産市場の国際化、ストック重視社会への転換、証券化対象不動産の拡大を踏まえ、多様な評価のニーズに対応していく観点から以下の点が改正されました。

  • 不動産市場の国際化への対応として、スコープ・オブ・ワークの概念を導入し、さらに価格概念に関する国際評価基準(IVS)との整合性向上が図られました。
  • ストック型社会の進展への対応として、建物に係る価格形成要因を充実させ、さらに原価法に係る規定が見直されました。
  • 証券化対象不動産の多様化への対応として、事業用不動産に係る規定が充実されました。
  • 定期借地権に係る規定を充実させ、継続賃料の鑑定評価に係る規定が見直されました。

 また、不動産鑑定評価基準の一部改正に伴い、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」と「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」及び「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン運用上の留意事項」の一部も改正されました。

不動産鑑定評価基準の目次は次のとおりです。

不動産鑑定評価基準
(平成14年7月3日全部改正、平成19年4月2日一部改正、平成21年8月28日一部改正、平成26年5月1日一部改正、平成26年11月1日施行)

  • 総 論
  • 第1章不動産の鑑定評価に関する基本的考察
    • 第1節不動産とその価格
    • 第2節不動産とその価格の特徴
    • 第3節不動産の鑑定評価
    • 第4節不動産鑑定士等の責務
  • 第2章不動産の種別及び類型
    • 第1節不動産の種別
    • 第2節不動産の類型
  • 第3章不動産の価格を形成する要因
    • 第1節一般的要因
    • 第2節地域要因
    • 第3節個別的要因
  • 第4章不動産の価格に関する諸原則
  • 第5章鑑定評価の基本的事項
    • 第1節対象不動産の確定
    • 第2節価格時点の確定
    • 第3節鑑定評価によって求める価格 又は賃料の種類の確定
  • 第6章地域分析及び個別分析
    • 第1節地域分析
    • 第2節個別分析
  • 第7章鑑定評価の方式
    • 第1節価格を求める鑑定評価の手法
    • 第2節賃料を求める鑑定評価の手法
  • 第8章鑑定評価の手順
    • 第1節鑑定評価の基本的事項の確定
    • 第2節依頼者、提出先等及び利害関係等の確認
    • 第3節処理計画の策定
    • 第4節対象不動産の確認
    • 第5節資料の収集及び整理
    • 第6節資料の検討及び価格形成要因の分析
    • 第7節鑑定評価の手法の適用
    • 第8節試算価格又は試算賃料の調整
    • 第9節鑑定評価額の決定
    • 第10節鑑定評価報告書の作成
  • 第9章鑑定評価報告書
    • 第1節鑑定評価報告書の作成指針
    • 第2節記載事項
    • 第3節附属資料
  • 各 論
  • 第1章価格に関する鑑定評価
    • 第1節土地
    • 第2節建物及びその敷地
    • 第3節建物
    • 第4節特定価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法
  • 第2章賃料に関する鑑定評価
    • 第1節宅地
    • 第2節建物及びその敷地
  • 第3章証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価
    • 第1節証券化対象不動産の鑑定評価の基本的姿勢
    • 第2節証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件
    • 第3節処理計画の策定
    • 第4節証券化対象不動産の個別的要因の調査等
    • 第5節DCF法の適用等
4. 公的土地評価制度と不動産鑑定評価

 公的土地評価には、前述の地価公示のほか、国土利用計画法に基づく都道府県地価調査、課税目的のための評価としての相続税評価及び固定資産税評価があります。

 政府は、土地基本法等を踏まえて、これらの公的土地評価に対する国民の信頼を確保するとともに、適正な地価の形成と課税の適正化を図るために関係省庁でそれらの均衡化・適正化を推進しています

 不動産鑑定評価は、これらの公的土地評価の均衡化・適正化のために多くの貢献をしています。

  • 土地基本法第 17 条(公的土地評価の適正化等)
    国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。
(1) 地価公示

 地価公示は、地価公示法に基づき、毎年 1 月1 日時点における公示区域(都市計画区域その他の一定の区域)内の標準地の正常な価格を調査公表する制度です。公示価格は、国土交通省土地鑑定委員会によって決定されますが、その作業については、各標準地について 2 人以上の不動産鑑定士によって行われた鑑定評価を基礎としています。

 地価公示制度は、次のような役割を担っており、不動産鑑定評価制度及び公的土地評価制度の根幹となっています。

  • 一般の土地の取引価格に対する指標の提供
  • 不動産鑑定士の鑑定評価の規準
  • 公共用地の取得価格の算定の規準
  • 収用委員会の補償金の額の算定上の考慮事項
  • 相続税評価、固定資産税評価の基準

 このように不動産鑑定士が地価公示を実施している区域にある不動産(土地)の鑑定評価を行う場合には、公示価格との均衡に十分留意することが義務づけられており、公示価格は不動産鑑定評価額決定のための重要な指標となっています。

(2) 都道府県地価調査

 都道府県地価調査は、国土利用計画法による土地取引規制における価格審査の規準及び同法に基づく規制区域内の土地の取引価格の算定の規準とすることを目的として、各年 7 月1日時点における基準地の正常な価格を調査公表する制度です。都道府県地価調査は、地価公示を実施している区域を含む全国において実施されており、実質的に地価公示制度を補完する役割を担っています。

 都道府県地価調査における各基準地の正常な価格は、不動産鑑定士による鑑定評価によって調査され公表されています。

(3) 相続税評価

 相続税等の課税価格の算定に係る土地の価額は、「当該財産の取得の時における時価による(相続税法第 22 条)」とされており、時価の評価の原則と各種財産の具体的な評価方法については財産評価基本通達に定められています。

 また、納税者が申告する際に土地の時価を的確に把握することは一般的に困難であるため、納税者の申告の便宜と課税の公平を図る観点から、同通達に基づいて路線価等(いわゆる相続税路線価)が定められ公表されています。

 この路線価は、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士による鑑定評価額(不動産鑑定士が国税局長の委嘱により鑑定評価した価額をいう)、精通者意見価格等をもとに国税局長が評定しています。路線価は土地基本法第 17 条の趣旨を踏まえ、総合土地政策推進要綱等に沿って、その評価割合を公示価格水準の 80% 程度とされ、その均衡化・適正化が図られています。

  • 国税庁長官が定めた財産評価基本通達において、宅地の評価は、市街地的形態を形成する地域にある宅地については路線価方式、それ以外の宅地については倍率方式によって行うこととされています。いずれの方式を適用するかは国税局長が定める財産評価基準書に示されていますが、そのなかで示されている路線価が相続税路線価と呼ばれているものです。
(4) 固定資産税評価

 固定資産とは、「土地、家屋及び償却資産を総称する(地方税法第 341条第 1 号)」とされておりますが、ここでとりあげるのは土地の価格についてで、その「価格」とは、「適正な時価をいう(地方税法第 341 条第 5 号)」とされています。

 そして固定資産税の課税標準額の決定は、原則として市町村長が行うものとなっており、市町村長は、総務大臣が定めた固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)によって、固定資産の価格を決定しなければならないとされています。

 また、固定資産税評価における宅地の評価は、固定資産評価基準に基づき市街地的形態を形成する地域にあっては路線価方式(市街地宅地評価法)、その他の地域にあっては標準宅地の評価額に比準する方式(その他の宅地評価法)によって評価額が算出されています。

 固定資産税評価は、3 年に一度評価替えが行われることとなっていますが、平成 3 年 1月に閣議決定された土地政策推進要綱で、「速やかに、地価公示価格の一定割合を目標に、その均衡化・適正化を推進する」こととされ、平成 6 年度評価替えから、固定資産税宅地における7 割評価の方針が打ち出されました。

 具体的には、平成 4 年 1 月の自治事務次官依命通達の一部改正において、地価公示価格、都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士による鑑定評価価格の一定割合を目途とし、「当分の間この割合を 7 割程度とする」ことが明記されました。その後、固定資産評価基準の一部改正(平成 8 年 9 月 3 日自治省告示)によって、「宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1 月1日の地価公示価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7 割を目途として評定するものとする」という措置が講じられました。

 これらの公的土地評価制度の概要をまとめたものが次表です。

区分 地価公示価格 相続税評価 固定資産税評価
主な目的等
  1. 一般の土地取引の指標
  2. 不動産鑑定士の鑑定評価の規準
  3. 公共用地の取引価格等の算定の規準
  1. 相続税、贈与税及び地価税課税のため
  2. 相続又は贈与の際に課税地価税については、毎年課税(平成10年から課税停止)
  1. 固定資産税課税のため
  2. 毎年課税
評価機関 国土交通省土地鑑定委員会 国税局長 市町村長
価格時点 1月1日(毎年公示) 1月1日(毎年評価替) 1月1日(3年に一度評価替)
評価方法  標準地について2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、国土交通省に設置された土地鑑定委員会がその結果を審査し必要な調整を行って正常な価格を判定し公示
  1. 市街地的形態を形成する地域にある宅地・・・路線価方式
  2. その他の宅地・・・固定資産税評価額倍率方式
 公示価格、精通者意見価格、売買実例価額を基に、公示価格ベースの仲値を評定し、これを基として各路線、各地域のバランスをとって路線価又は倍率を評定(地価公示価格水準の8割程度)
 売買実例価額から求める正常売買価格を基として適正な時価を求め、これに基づき評価額を算定
 この場合、市街地的形態を形成する地域にあっては路線価方式によって、その他の地域にあっては標準宅地の評価額に比準する方式によって評価額を算出(地価公示価格の7割程度を目標)
根拠法 地価公示法第2条第1項
 「土地鑑定委員会は、・・・一定の基準日における当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、これを公示する」
相続税法第22条
 「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による」
地価税法第23条
 「土地等の価額は、・・・課税時期における時価による」
地方税法第341条第5号
 「価格 適正な時価をいう」
(5) 不動産鑑定評価に対する多様なニーズ

 前述の公的土地評価以外にも、法令によって不動産鑑定評価が用いられる場合があります。例えば、会社法において、不動産を現物出資する場合には、その不動産の価額は不動産鑑定士の鑑定評価に基づいて決定するものとされ、また、 投資信託及び投資法人に関する法律において、資産の運用を行う投資法人において不動産の取得等が行われた場合には、当該不動産の鑑定評価を行う必要があります。

 そのほかにも不動産鑑定評価は社会一般の多様なニーズに対応しています。ここにそれらのニーズの一例を紹介します。

  • 売買などの取引における価格の判断資料として
     売買、交換のほか、賃貸借などの不動産の取引において、あらかじめ適正な価格についての資料として不動産鑑定評価書を用意しておけば、相手方から提示される金額や条件の妥当性を判断するための材料となります。また、取引交渉において、価格面で双方の主張が対立したような場合にも、不動産鑑定評価を依頼することによって専門家の客観的な意見を得て、問題解決に役立てることができます。
  • 公共用地の取得に伴う損失補償額の算定根拠として
     公共用地を取得する場合には、用地対策連絡会が決定した「公共用地の取得に伴う損失補償基準」において、取得する土地の正常な取引価格をもって補償するものとされています。同補償基準に付属する「土地評価事務処理要領」においては、土地の正常な取引価格を算定する方法及び手続が定められていますが、そこでは土地の評価は原則として標準地比準評価法によって行うものとされ、標準地の評価は原則として不動産鑑定業者の鑑定評価を求めることになっています。
  • 不動産の証券化や不動産投資信託の目的で取得する場合の不動産の価格の判断資料として
     不動産の投資法人、投資信託又は特定目的会社に係る特定資産としての不動産の取得又は保有期間中の価格の調査等において、その不動産の価格を把握する際の参考として不動産鑑定評価書が活用されています。
  • 現物出資や財産引受の目的である財産価格の証明として
     会社法上の現物出資や財産引受の目的である不動産については、財産価格の証明に不動産鑑定士の鑑定評価を用いることができるため、不動産鑑定評価書が活用されています。
  • 減損会計における正味売却価額の時価として
     減損会計における不動産の正味売却価額の時価を求める場合に、不動産鑑定評価額が合理的に算定された価額として用いられます。