一筆の土地の一部分の譲渡は可能

一筆の土地の一部分の譲渡は可能
大審院大正13年10月7日判決・大審院民事判例集3巻476頁

基本判例が示した結論

一筆の土地の一部を譲渡することは可能

判断基準(=一筆の土地の一部の譲渡が可能となるための条件(要件))

  • 土地所有者が、自分が所有する一筆の土地を数個の土地に区分した。
  • 数個の土地に区分するにあたっては、側溝を掘るなどの方法で境界を設けたり、標識を設けるなどして、それぞれの区分を明確にしていた。
  • 区分された個々の土地の譲渡がおこなわれた時期は問題とならない。
    譲渡は一筆の土地の分筆前でもおこなうことができ、譲渡にともなって所有権も移転する。ただし、譲渡の登記は分筆後でなけばできない。

判断基準を示した理由・根拠

  • 土地は自然状態では一体的なものであるが、分割していけないというものではない。
  • 土地所有者は、所有する土地を分割するかどうか、どのあたりを分割するかなどについて自由に決めることができる。
  • 登記制度も、分筆登記の前に、土地所有者が区分した土地を譲渡し、その所有権が移転することを禁止しているわけではない。

解説

 土地は、もともと境界などない一体的なものでした。境界は、農耕や、木の実の収穫、あるいは租税などさまざまな目的から人間によって設けられ、現在では、その境界に基づいて、登記簿に登録された一筆の土地を1個の不動産として扱い、取引や利用の対象としています。また、一筆の土地が分割されて二筆の土地となれば、分筆後2個の不動産となるといった扱いをおこなっています。このため、一筆の土地の一部は、理論上は、分筆前では1個の不動産となっていないため、取引して所有したり、利用したりできないことになります。

 しかしながら、所有地の一部分を親族に利用させたり、譲渡するといったことは、現実におこなわれるため、相続などがきっかけとなり争いとなります。

 この争いに、判断基準を示して、一筆の土地の一部でも、その一部が当事者に明確であるなどの一定の条件(要件)を満たせば譲渡することができるとの結論を示したのが本判決です。

 この判決が示した判断基準は、現在も維持されています(最高裁判所昭和30年6月24日判決・最高裁判所民事判例集9巻7号919頁など)。

 なお、本判決により、一筆の土地の一部について分筆前であっても譲渡により所有権が獲得できることが認められましたが、その所有権を第三者に対抗するためには、分筆の上、移転登記をおこなう必要がありますので、注意が必要です。

判旨

「土地ハ自然ノ状態ニ於テハ一体ヲ成セルモノナリト雖之ヲ区分シテ分割スルコトヲ得サルモノニ非ス即土地ハ所有者ノ行為ニ因リ互ニ独立セル数箇ノ土地ニ区分シ分割セラレ得ルモノニシテ如何ナル範囲ノ土地カ各箇ニ分割セラレタルヤハ所有者ノ為シタル区分ノ方法ニ依リテ定マルモノトス従テ所有者ハ一筆トナレル自己ノ所有地内ニ一線ヲ画シ或ハ標識ヲ設クル等ニ依リテ任意ニ之ヲ数箇ニ分割シ其ノ各箇ヲ譲渡ノ目的ト為スコトヲ得ヘキモノニシテ其ノ之ヲ数箇ト為スニ付テハ特ニ土地台帳ニ於ケル登録其ノ他ノ方法ニ依リ公認セラルルノ必要ナキモノトス唯不動産登記法ニ於テハ一筆ノ不動産ハ之ヲ登記簿ノ一用紙ニ記載スルコトヲ要スト為セルヲ以テ(同法第十五条参照)既ニ一筆トシテ登記セラレタル土地ヲ右ノ如ク数箇ニ分割シテ譲渡シタル場合ニ於テ譲渡ノ登記ヲ為スニハ先ツ分筆ノ手続ヲ為スコトヲ要スヘシト雖契約ノ当事者間ニ於テハ其ノ以前既ニ権利移転ノ効力ヲ生シタルモノト謂フヘク又土地台帳ニ一筆トシテ登録セラレタル土地ニ付テモ登録ノ変更前叙上ノ如ク所有者ハ之ヲ数箇ニ分割シテ譲渡ヲ為スヲ妨ケサルコトハ地租ニ関スル事項ヲ登録スル土地台帳ノ目的ニ照シテ之ヲ知ルニ難カラス(明治二十二年勅令第三十九号土地台帳規則第一条参照)」

(参照:新版 注釈民法(2) 〔平3〕(有斐閣))