Quarterly ‘Real Estate Research’
季刊『不動産研究』
昭和34年7月の創刊以来、半世紀を超える歴史を有する不動産専門誌。不動産に関する理論的・実証的研究等の場を提供するもので、日本不動産研究所役職員をはじめ、不動産に関係ある各分野の学識経験者の方々から寄せられた学術的研究論文を紹介しています。時宜にかなった特集などを組むことも特色のひとつです。
第68巻第1号(令和8年1月)特集:インフレ下の首都圏マンション市場
第68巻第2号
新しい年を迎えて
特集:インフレ下の首都圏マンション市場
建築費上昇下の供給者と需要者の行動変化
-価格上昇と供給減少が同時に生じる首都圏新築分譲マンション市場-
三菱UFJ信託銀行株式会社 不動産コンサルティング部 上級調査役 ジュニアフェロー 舩窪 芳和
本稿では新築分譲マンション市場を取り巻く外的要因を整理したうえで、供給者であるマンションデベロッパー、需要者である住宅取得者の行動変化の背景について概観する。現在のマンション価格上昇と供給減少は、建築費上昇主導と考えられる。供給者であるマンションデベロッパーは建築費の原価構成が低く、価格上昇率が高い都心部に供給を移す動きがみられる。需要者である住宅取得者では、一般にパワーカップル、パワーファミリーと称される高収入の共働き世帯が目立つ。社会構造の変化を背景とした供給者と需要者の事情が噛み合うことで現在の市場均衡が成立しており、一過性の変化ではないと結論付けられる。
【キーワード】アンケート調査、ヘドニック・アプローチ、経時的変化
【Key Word】Questionnaire-based study, Hedonic approach, Time series change
金利上昇と住宅ローン
-日本の金融正常化における家計の住宅ローンへの適応-
Interest Rate Rise and Housing Loans
-Household Adaptation to Housing Loans in the Era of Monetary Normalization in Japan-
株式会社ニッセイ基礎研究所 金融研究部 上席研究員 福本 勇樹
日本銀行によるマイナス金利政策の解除以降、住宅ローン市場は低金利依存から構造的転換を遂げつつある。金融正常化に伴う資金調達コストの上昇により、金融機関間の住宅ローン獲得競争は、低金利・低コストから財務基盤の強さを軸とする局面へ移行している。一方で住宅価格は名目賃金を上回る上昇率を示しており、家計は借入額の拡大、借入期間の長期化、変動金利志向、共働きによる世帯収入の増加、親族からの資金援助など、複合的な適応を進めている。今後は、貸し手・借り手双方において金利上昇への耐性が問われる局面となり、家計にとっては「レジリエンスの強化」と「住宅資産の利活用に向けた環境整備」が重要な課題となる。
【キーワード】住宅ローン、金利上昇、家計行動、金融正常化、住宅政策
【Key Word】Housing loans, Interest rate rise, Household behavior, Monetary normalization, Housing policy
首都圏分譲マンション市場の現況と今後の見通し
-供給絞り込みの背景についての考察-
株式会社長谷工総合研究所 上席主任研究員 関口 栄輝
長谷工総合研究所では首都圏の新規供給戸数は2024年には2万5,000戸を下回り、2025年も年間では前年から微増にとどまる水準となると予測している。供給の絞り込みの要因については、価格の上昇や工期が延びることによる販売期間の長期化などの状況もあり、供給や販売を急がず時間をかけてじっくりと行う姿勢による側面もある。平均価格の上昇については都心における再開発等による超高層物件供給の影響が大きく、販売の速度間の差もありその他の地域との価格差は広がりつつあり、主に郊外部において、販売価格は上昇するが、供給と販売はスローペースながら堅実に進むと思われる。
着工と供給のタイムラグも広がっており、短期的には現況と同様に推移していくと予測されるが、中長期的にみると、再開発の中止などによる着工戸数の減少などによる供給の絞り込みが一層強まる可能性もある。
【キーワード】分譲マンション市場、供給戸数、価格動向、超高層マンション、着工戸数
調査
最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2025年9月末現在)をふまえて-
平井 昌子
当研究所は2025年9月末現在の「市街地価格指数」を2025年11月27日に公表した。
「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2025年3月末比、以下同じ。)1.1%(前回1.1%)、前期に続き上昇となった。
地方別の地価動向は、一部で弱い動きもみられるが、総じて上昇傾向が続いた。
三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」で前期比2.4%(前回2.6%)、「大阪圏」で前期比1.6%(前回1.6%)、「名古屋圏」で前期比0.9%(前回1.1%)となった。三大都市圏ともに上昇傾向が続いた。
「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比4.1%(前回3.5%)、商業地で前期比4.7%(前回4.1%)、住宅地で前期比3.9%(前回3.3%)、工業地で前期比2.2%(前回2.1%)となった。
※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸
【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、長期的地価指数
最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2025年9月末現在)をふまえて-
手島 健治
当研究所は2025年9月末時点の「全国賃料統計」を11月27日に公表した。
オフィス賃料は、全国平均が前年の0.9%上昇から今年は1.6%上昇に拡大し、2年連続で上昇となり、すべての区分で上昇となったが、上昇幅は1 ~ 2%とそれほど大きくない。大阪市のオフィス市況が回復していることから大阪圏や近畿地方で上昇幅が拡大し、名古屋市のオフィス市況の回復で名古屋圏や中部・東海地方では横ばいから上昇に転じた。
共同住宅賃料は、全国平均が前年の1.1%上昇から今年は1.6%上昇に拡大し、5年連続で上昇となり、北陸地方と四国地方以外が上昇となったが、上昇幅は1 ~ 2%とそれほど大きくない。北海道地方はラピダス半導体工場の影響による千歳市での賃料上昇の影響が大きく、近畿地方や大阪圏では大阪府などで転入超過が続き、賃料の上昇幅が拡大した。
今後の見通しは、オフィス賃料は、三大都市圏などで上昇が継続し、2026年9月末時点で全国平均は1.3%の上昇が予想される。共同住宅賃料も三大都市圏などで上昇が継続し、全国平均では1.3%の上昇が予想される。
【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向
最近の不動産投資市場の動向
-第53回不動産投資家調査結果(2025年10月1日現在)をふまえて-
岩指 良和
当研究所は、「第53回不動産投資家調査」の結果を2025年11月27日に公表した。
調査結果(2025年10月)の概要は以下のとおりである。
(1)期待利回りの動向は、アセットにより一部地域で「低下」がみられたが、「横ばい」の地域が多くを占める結果となった。
・オフィスは、「東京・丸の内、大手町」の期待利回りは3.2%で6期連続の横ばいとなり、その他の東京のオフィスエリアと地方都市においても概ね横ばいの結果となった。
・住宅は、「東京・城南」のワンルームタイプの期待利回りは前期に引き続き3.7%で横ばいとなり、ファミリータイプの期待利回りは3.8%で4期連続の横ばいとなった。また、地方都市ではワンルームタイプ、ファミリータイプともにほとんどの調査地区で横ばいの結果となった。
・商業店舗は、「都心型高級専門店」は「名古屋」のみ低下したが、「銀座」は3.3%で2期連続の横ばいとなり、その他の調査地区も横ばいの結果となった。「郊外型ショッピングセンター」は「東京」のみ低下したが、その他の調査地区は横ばいの結果となった。
・物流施設(マルチテナント型)は湾岸部の「東京(江東区)」は3.8%で4期連続の横ばい、内陸部の「東京(多摩地区)」では4.0%で2期連続の横ばいとなり、全ての調査地区で横ばいとなった。
・ホテルは、「東京」は4.2%で2期連続の横ばい、「大阪」を除く調査地区も横ばいとなったが、「大阪」のみ0.1㌽の低下の結果となった。
(2)今後については、「新規投資を積極的に行う。」という回答が94%で横ばいとなり、「当面、新規投資を控える。」という回答は3㌽下落し2%となった。また、「既存所有物件を売却する。」という回答は3㌽下落し26%となった。緩和的な金融環境は維持されており、不動産投資家の非常に積極的な投資姿勢が維持されている。
【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲
論考
2026年の不動産市場
-マクロ経済動向から占う不動産市場の見通し-
Japan’s Real Estate Market Conditions in 2026
An Outlook from Macroeconomic Perspective
吉野 薫
2025年の不動産市場においては、賃貸市場の改善が前年と比べて一層顕著となった。また日本銀行が金融正常化を推し進める中、不動産市場のファイナンスコストは上昇したもののファイナンスのアベイラビリティは保たれている。こうしたもとで不動産価格の上昇基調に特段の変調はみられなかった。2026年にかけても、賃料上昇期待の醸成が継続し、不動産投資市場における投融資姿勢の積極性が維持されるもとで、緩やかな不動産価格の上昇が継続する可能性が高い。リスク要因として、投資財価格高騰を受けた企業の業容拡大意欲の動向、雇用・所得環境の改善の足踏みなどの実体経済面の論点のほか、財政政策に起因する金融・資本市場の急変の可能性などが意識される。
【キーワード】企業の業容拡大意欲、建築費の高騰、雇用の質の改善、財政の健全性
【Key Words】:Corporate’s Appetite for Capital Investment, Upturn of Construction Cost, Qualitative Improvement of Employment, Soundness of Public Finance
寄稿
賃貸人からのサブリース契約の更新拒絶に借地借家法28条の正当事由があると認めた裁判例
-東京地裁令和5年7月20日判決・2023WLJPCA07206013及び
東京高裁令和6年1月18日判決・2024WLJPCA01186003(確定)-
前青山学院大学大学院法学研究科特任教授、元税務大学校長 垣水 純一
賃貸人からのサブリース契約の更新拒絶による解約に借地借家法28条の正当事由があるかが争われた裁判において、サブリース業者の管理状況を踏まえ、契約当事者の「契約存続に対する期待」や「自己使用の必要性」を考察することにより、正当事由が認められた。無断転貸が正当事由を認める事情となるかについては第一審と控訴審とで判断が分かれた。
【キーワード】サブリース契約、借地借家法28条(正当事由)、民法612条2項(無断転貸)
海外図書紹介
中国における中央・地方財政関係の構造転換と政府間移転支払制度 -分税制改革以降の制度的特徴・実証分析・政治経済学的含意-
原著:中国国務院発展研究センター市場経済研究所 研究員 王瑞民、『央地之間:転移支付的政治及其他』(上海遠東出版社、2025年)
曹 雲珍(編集・翻訳)
中国の不動産市場を理解する鍵は、土地財政という地方政府の収入構造にある。1994年の分税制改革により、税収は中央に集中する一方、公共サービスの提供責任は地方に残された。この財政的ギャップを埋めるため、地方政府は土地使用権の譲渡収入に依存せざるを得なくなった。本稿は、この構造を歴史・制度・実証の3層から分析し、工業用地の低価格供給による企業誘致と、商住用地の高価格供給による即時収入確保という二重価格戦略を解明する。さらに、政府間移転支払制度の限界と政治的要因による配分の歪みを明らかにし、中国不動産市場の価格形成メカニズムと地方政府の行動理論を体系的に提示する。
【キーワード】:分税制改革、政府間移転支払、土地財政、二重価格戦略
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