2019/03/22 シェアリングエコノミーと鑑定評価

「シェアリングエコノミー」という言葉をご存じでしょうか?「share(シェア)=モノを共有する、一緒に使う」という英語から、シェアリングエコノミーとは、他人と様々なモノを一緒に利用する経済、あるいはビジネスという意味ですね。そしてこのシェアリングエコノミーを支えるインフラが、インターネットやスマホ、IoTといった技術です。

年を追うごとにシェアリングエコノミーは拡大しており、一般社団法人シェアリングエコノミー協会が発表している「シェアリングエコノミー領域MAP」をみると、多くのサービスが登場していることがわかります(下図参照)。

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最近、気になるシェアリングビジネスとして「傘シェアリング」というサービスが新聞で報道されていました。「傘シェアリング」とは格安で傘をレンタルできるサービスです。「アイカサ」はシェアできる傘の場所や本数が地図上に表示され、傘のQRコードを読み取ることでレンタルできるもの。1日であれば70円~と購入するより格段に安いですね。

一連の価格秩序

さて、話は「不動産鑑定評価」に変わります。不動産鑑定士は不動産の経済価値(市場価値)を「価格」で表示する業務を担っています。そして不動産鑑定士によって行われる不動産鑑定評価とは、「この社会における一連の価格秩序の中で、対象不動産の価格の占める適正なあり所を指摘すること」でもあるとされています。

弊所初代理事長櫛田光男は、この「一連の価格秩序」を自身の著作「不動産の鑑定評価に関する基本的考察」で以下のように述べています。

「すべての財および用役について、その価格がそれぞれ表示せられ、かつこれら価格が全体として相互にある関係を保つことによって形成している秩序であって、(中略)これら無数の諸価格はそれぞれ乱雑に無関係に存在し動いている訳ではなく、相互にある関係を保っているのであって、そこに一つの全体としての秩序というものが認められます」

これは、諸財の価格は市場機構を通じて価格を指標とした、いわば「合理的で美しい序列体系」が形成されることを念頭においた表現、あるいはその思いを強く表していると思えます。さらにいえば、櫛田は戦前戦後を官僚として国内の経済を見てきた経験から、物価統制や地代家賃統制といった「統制経済」というものに対するアンチテーゼともいえ、これが櫛田が「一連の価格秩序」に込めた思いなのではないかということです。

シェアリングエコノミーは価格秩序に影響するか?

この「不動産の鑑定評価に関する基本的考察」を著したのは昭和30年代後半です。戦後10年を経過し、高度経済成長へと突き進んでいた頃です。当時もやはり「価格秩序」は充分に機能していなかったかもしれません。だからこそ、「一連の価格秩序」を不動産鑑定士に見通すことを要請したのだろうと思います。

そして現在、シェアリングエコノミーは「所有価値」から「利用価値」へと大きく転換しつつあります。カーシェアリング、レンタサイクル、シェアハウス、シェアオフィスなども自己所有せずに、利用できることで十分な満足を得られるということでもあるでしょう。

また、格安航空LCCや格安携帯の参入、100円ショップや約1000円の理容室など機能・目的はほとんど変わらず、品質の違い(あまりわからないものもある)で価格差が生じ、ネットオークションといった個人間売買も一般的になった現在、「一連の価格秩序」を把握することは非常に難しいと感じます。これに加え、シェアリングビジネスは「所有」から「利用」へと消費者の意識を変えていくきっかけにもなると考えます。

消費者の意識が所有から利用へと変化する、すなわち「持たない生活」が中心となれば、価格秩序はもう一度再整理されていくだろうと感じます。一部の高級ブランド製品や高品質なサービスを除いては、一般的な商品、サービスが「購入価格」と「利用価格」の2つの価格体系に組み込まれていく可能性を示唆しています。

不動産の鑑定評価にあたり

今後、人々のライフスタイル、財やサービスの購入、利用意識が変化すれば当然価格秩序も再編され、それに伴い不動産についても「独占的に所有」と「みんな(あるいは他人が)が所有し、みんなで利用する」など、様々な仕組みが現れることでしょう(既に出始めている例もあります)。

であればこそ、不動産鑑定士はこれまでのような価格機構を軸とした判断のみならず、多様な価格秩序が同時に存在する社会の中で、その不動産の価格の占める適正なあり所を指摘することが要請され、ますます複雑化する「価格秩序」に対応しなければならないと感じます。