平成31年(2019年)4月26日 「平成30年住宅・土地統計調査(以下、本調査)」の住宅数概数集計結果が総務省より発表されました。本調査は5年ごとに国内の住宅と、そこに居住する世帯の居住状況、世帯の保有する土地等の実態を把握する重要な統計調査の一つです。筆者は5年に1度の調査である本調査をいつも心待ちにしている一人でもあります。
統計調査というと、「数字ばかりでわかりにくい」「何を見たら良いのかわからない」ということもあり敬遠されがちですが、「見方」「方法」を憶えてしまうと意外に面白いことがわかります。今回は本調査を通して少しだけ見方のコツを紹介してみます。
本調査では「住宅」を調査するとなっていますが、ここで注意しなければならないのは、私達が日常的に使用している「住宅」のイメージと、調査で表現する「住宅」は異なる場合があることです。住宅といえば「マイホーム」「一戸建て」「マンション」「賃貸アパート」などがイメージされますが、本調査の「住宅」は以下のようにしっかりと分類されています。
意外に細かく分類されいることがわかります。そのほかにも構造や居住世帯(家族)、利用用途(自用、賃貸、事業)といった分類についても明確に説明されています。詳しくは「用語の解説」をご覧ください。
総務省発表による日本全国の住宅数は以下のとおりと発表されました。注目点は赤枠で囲った「空き家」ですね。
本調査は5年に1度の調査であるため、前回調査は平成25年(2013年)となります。前回調査から注目されるのが「空き家」です。総務省によれば「表1」のとおりと発表されました。空き家率とは上記のとおり、住んでいる世帯がいない住宅です。表1でわかることは、山梨県と長野県は平成25年から空き家率は減少しています。しかし、全国的には高い空き家率となっていることです。
山梨県と長野県では全国的にも高い空き家率となっている一方で、その割合が下がっている理由を考えてみましょう。山梨県と長野県といえば、首都圏からも近く「避暑地」「観光地」というイメージがありますね。別荘地や観光地は、昭和末期から平成初期にかけてのバブル経済時期に最盛期となり、首都圏からアクセスしやすい地域として続々と開発、販売されました。本調査では別荘地などの「二次的住宅」も居住世帯がない場合は空き家となりますので、これらの利用されなくなった別荘が空き家率に影響しているのではないかと感じました。次に、この2県だけ平成25年から空き家率が減少していますが、これも別荘が起因しているのではないか?、つまり近年の中高年世代を中心として、週末は別荘で暮らすというライフスタイルが人気となり、かつての別荘地であった山梨県や長野県の需要が高まった結果、空き家率の減少につながったのではないかという仮定です。
この仮定を別の視点から考えてみたいと思います。本調査では様々な集計が行われていますが、その中で「空き家のうち腐朽・破損ありの住宅数」という集計があります。「腐朽・破損あり」という意味は、空き家で壁、柱、屋根などの破損がある空き家です。このうち、別荘などの二次的住宅の割合が高い都道府県を上位からみると、表2のとおりとなります。
腐朽・損傷がありと判断された空き家の割合が高いのが、和歌山県、長野県、山梨県、静岡県と続きます。いずれも別荘地、観光地、避暑地として人気のある地域が多い県ですね。このうち、長野県や山梨県は、放置されたと思われる別荘も多いことから空き家率も高い可能性があると考えられます。やはり、昨今の週末移住などの新たなライフスタイルが登場したことで、放置されていた別荘でも買い手が現れ、別荘が空き家でなくなったり、あるいは建て替えられたことで放置された空き家が減少した結果、長野県や山梨県では全体としての空き家率は平成25年に比べると減少したと考えられないでしょうか?
今回、山梨県と長野県は空き家率が全国でも高く、その理由が別荘地などの二次的住宅の影響によるものではないか?といった仮定をつくってみました。もちろん、この仮定が事実であるかどうかについては、今後発表される本調査の詳細をさらに検証したり、他の統計調査(人口や産業等に関する調査)や開発事例、日々報道される情報等を総合的に見ながら検証しなければなりません。
とはいえ、本調査の結果から、様々な視点から集計し直してみたり、いろいろな数字との組み合わせや、仮定を立てて集計し直すことでいろろな状況が見えてくるのではないかと思います。
今回は空き家率の変化について仮定を立ててみましたが、そのほかにも様々な仮定を考えてみることで、統計調査の読み方がわかってくるのではないかと思います。読み解くためには、「調査結果の意味」を理解し、分析する力が必要となりますが、この力は単に「数字を分析する」ということだけでは難しいことでしょう。
やはり数字から何らかの変化や実態を読み取るためには「社会や生活などの日々の状況の変化を感じ取る力」が重要になります。
この「変化を感じ取る力」をつけるためには、実際に現場に赴き、日々の変化(時間軸)、地域ごとの状況の違い(空間軸)を感じ取らなければなりません。それぞれの地域の現場には人々の暮らしぶりや賑わい、状況の変化(高齢化が進んでいるのか、観光客が増えているのかなど)を確認することができる情報源が豊富に存在します。もちろん日々報道されるニュース、自治体や企業の重要な公表情報や調査結果などにも気に掛けておくことは当然必要です。
私達不動産鑑定士も書類や統計調査のみではなく、現場に赴き、地域の状況や特性を確認することで、これら「数字だけでは確認できない変化や状況」をしっかりと観察することが求められており、不動産の価値とは何か?ということについて日々取り組んで行かなければならないと感じています。
(幸田 仁)