2019/09/10 所有者不明土地とコミュニティ(その1)

皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁(こうだ じん)です。

今回は「空き家」とともに、ここ数年社会問題となっている「所有者不明土地」に関して考えてみたいと思います。とはいえ、そもそもその前提として「この土地の所有者は誰か?」「その人が所有する土地の範囲はどこまでか?」などを確認するための情報元や手続については良くわからない方もいらっしゃると思います。

そこで今回は身近な「住所」というキーワードから、土地の所有者に関する情報や土地管理について説明します。

住所には2つの表示方法があります

手紙や荷物などの発送や受領には住所が使われますが、この住所は現在の日本では2つの表示が使われています。それは「住居表示」による住所と、「地番」による住所です。

「住居表示」による住所

「住居表示に関する法律」は合理的な住居の表示、つまり「わかりやすい住所」のルールを定めた法律で、原則として「〇〇県(都道府)〇〇市(町村)〇〇区(ない場合もある)〇〇五丁目〇〇(街区)〇〇(号)」と記載されるのが「住居表示」による住所です。

この住居表示による住所は国土地理医院でも公開されており、たとえば「東京都中央区銀座四丁目3街区」を検索すると以下のように地図で表示されます(クリックすると国土地理院のWEBにリンクします)。青く囲まれたところが該当する街区で、さらに建物ごとに1,2,3~と番号をふるのが住居表示による住所で、皆さんにとってもおなじみだと思います。

 

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住居表示による住所は、都市部を中心に戦後の区画整理や都市計画事業によって町並みを整備した結果、郵便物や荷物の配送などを合理的に配達できるようにすることや、住居表示を見ることで、都市のどこに所在するかがわかりやすくすることなどを目的として実施されてきました。

「地番」による住所

一方で「地番」による住所は、現在でも地方都市や都市の郊外、農村部などで今でも使われている住所です。地番は”土地”につけられた番号のことで、土地の管理を目的としています。土地管理にかかる情報には、その土地の状況(地目)や面積のほか、所有権、抵当権や賃借権などの権利設定などがあり、この「地番」に基づいてその土地の所有者や権利の内容などを記録しているのが「土地登記簿(不動産登記簿)」となります。

また、この土地登記簿は法務局で管理されており、誰でも申請すればその内容を確認することができます。もともと、土地登記簿では「大字(おおあざ)」や「字(あざ)」という地域区分で地番を整理し管理していました。「〇〇県〇〇郡〇〇町大字〇〇字〇〇番」といった表記です。昔はそんな住所だったなと思い出す方も多いことでしょう。住居表示の住所のように、わかりやすい住所として利用することは本来の目的ではありません。

「地番図」はややこしい

地番による番号を表示した地図を「地番図」といいます。この地番図は今でもしっかりと存在し、管理されています。しかし、現状の町並みや宅地の配置とは異なる形状や区画割のため、ぱっと見るだけではややこしい地図になっています。

たとえば以下の地図を見てください。これが「地番図」と呼ばれる地図です(画像クリックでe-kensinマップにリンクしています)。背景には現在の市街地図を重ねて表示しています。建物の敷地や道路、川などが地番によって細かく区切られていることがわかります。この地番図、現在は自治体で公開していることもあります。また、法務局で整備されている地図(公図)も地番図と類似しています。

地番は古い歴史をもつ番号であるため、現在の町並みと一致する場合と複雑に分筆・区分されされている場合があります。土地は地続きですから、現地で見ただけでは土地の範囲や境界がわかりません。たとえば、Aさんがある土地を購入する際に、Aさんはその土地がどこにあるのか?どのくらいの面積なのか?などは確認したいと思うはずです。この時に「地番」をたどって土地の情報を確認する必要があります。

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「住居表示」と「地番」は現在でも両方利用されています

このように、住所といっても「住居表示」と「地番」の2つの表示方法がり、住居表示は住んでいる人はわかりますが、その住居表示にある不動産の所有者はわかりません。その土地の所有者などの情報を調べるためには地番を知る必要があるのです。

「地番」は所有者情報を知るために欠かせない番号

以上のとおり、「地番」は土地の範囲と所有者が誰かということを確認できるように土地を区分して管理する番号で、日本全国ほぼ全ての土地には地番があります。また、土地は国や自治体も含めれば、必ず誰かが所有しているということになっています。所有者がいるならば、所有している土地の範囲が明確にならないといけません。そのために今でも不動産登記簿や地番図(又は法務局の公図)が必要なのです。

「住居表示」は建物をわかりやすく管理するための番号であり、都市部では慣れ親しんだ住所ですし、今ではインターネットマップや住宅地図で容易に確認することができます。

一方で、住居表示のみでは、その土地の「地番」を同様の手段で手軽に確認することはできません。地番はとても大事な土地の番号ですが、日常生活では利用されることが少ないこともあり、馴染みの薄い番号かもしれません。しかし、現在でも土地の所有者等の情報管理・記録は「地番」に基づいて行われているため、その土地の基礎情報を知る上で欠くことができない重要な”土地の番号”といえるのです。(幸田 仁)