2020/03/19 コロナウイルス対策から考える都市の未来

みなさんこんにちは。日本不動産研究所の幸田 仁です。

今年の初め頃から蔓延しはじめた新型コロナウイルスは世界に拡大しており、日本国内においても多くの業界で影響が出はじめているようです。政府は感染を防止するため、大勢が密集した状態を避けることや、小中高校の臨時休校を要請しました。都心部でも通勤ラッシュを避けるため、あるいは休校で自宅待機となった子供の世話をするために、大手企業を中心に在宅勤務や時差出勤など感染拡大を防ぐための対策を講じています。

大都市の価値を生み出す源泉

東京都心など大都市で浮かぶイメージは、大規模高層ビルが林立し、電車や自動車の往来と多くの人たちが行き交う情景だと思います。そこに集まる人たちの目的は様々ですが、特に東京都心部では大手企業の本社などが多く、行政の中心地でもあることからスーツ姿のビジネスマンが闊歩しています。夜になれば、仕事が終わり帰宅するサラリーマンや若者達が飲食店や娯楽施設に集まり、賑わいを創出しています。近年は外国人観光客も多く訪れ、年間を通じて賑わいが途切れることはありませんでした。

しかし、今回の新型コロナウイルスによるイベント自粛や在宅勤務、渡航制限などの要請によって、外国人観光客やサラリーマンの姿が少なくなりました。都市での人々の活動が少なくなるということは、様々な業種(産業)に影響を与えますが、特に打撃が大きいのは、「人々の活動に依存する産業」だと思います。

人々の活動に依存する産業とは?

下のグラフは、平成28年時点の日本全国における産業別の従業者(働いている人)の人数を示したグラフです(総務省統計局による経済センサス調査)。

注目すべきは、黄色の棒グラフの産業で「卸売業・小売業」「宿泊業・飲食サービス業」「医療・福祉」「運輸業・郵便業」などです。これらの産業は、お客さんとなる人々が活動することによって成り立つものです。お客さんとなる人たちの活動目的は仕事や買い物、観光や旅行、飲食など様々ですが、この日常における「人々の活動」を前提に成立しています。そして、これら「人々の活動」に依存する産業で働いている人たちは、全産業の約60%にも及びます。現代の経済活動はこのような「サービス業」に携わる従業者が過半を占めているという状況です。

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さらに、このサービス業の従業者が増えた背景として、終戦後からの復興の過程の中で、経済成長とともに都市が果たしてきた役割と歴史を考えることも必要だと思います。

大都市の変遷と人々の暮らし

都市が膨張した時代

昭和20年に焼け野原になった大都市は、戦災復興や住宅不足の解消のため、都市を再興することに国を挙げて尽力してきました。もちろん焼け野原からの出発ですから、それは「都市再建」であり、都市に集中する住宅不足に対しては「大規模住宅団地開発」を行ってきました。再建を果たした大都市には仕事を求めて地方から人々がますます押し寄せ、1960年代から始まった高度経済成長期には、産業復興のために必要な工場建設需要、そして労働者として都市に押し寄せる人々の住宅需要によって土地価格は値上がりを続けました。いわゆる土地価格の値上がりが続く「土地神話」と言われた時代です。この旺盛な宅地需要に対応するため、もともと狭かった都市部の土地において建物の高層化、共同住宅の建設が進みました。

その後、大都市は多くの人々が様々な目的(経済活動や観光、買い物、レジャー等)によって密集することを前提に、人々の移動や経済活動を効率化し、生産性向上を目指して集中・拡大・発展しました。現在の東京をはじめとする大都市では、交通・通信・買い物・レジャーなど多くのニーズを満たすための機能を備え、かつ、人々が安全かつ快適に仕事に従事できる空間と環境を整備してきたといえるでしょう。そして大都市を歩けば、どこでも大勢の人々が様々な目的のために活動し、移動し、それによって各種サービス業は成り立っています。

急速な変化をもたらす可能性がある第四次産業革命

今後、第四次産業革命によりインターネット上に流れる膨大な情報(ビッグデータ)やサービスをもとに、人工知能(AI)やロボット、IoT等によって働き方、暮らし方が大きく変わるといわれています。近年の「働き方改革」においても、テレワーク、テレビ会議システム、ブロックチェーン技術を利用した暗号化技術などを積極的に活用する方向で取り組みが行われています。

技術革新の波は、私達の仕事や生活の中に徐々に浸透していますが、今回のウイルス対策をきっかけにテレワークシステムやIoTサービスなどを多くの就業者が体験することで、普及速度を早めるきっかけになるかもしれません。かつてのガラケーがスマホに切り替わったように、ここ数年の間で働き方や仕事に対する考え方が変化する可能性があります。

都市から人々がいなくなる?

直近ではトヨタ自動車が次世代都市としてスマートシティ「ウーブン・シティ」を静岡県裾野市の工場跡地を利用して試験的に開発するという発表を行いました。人々の暮らしと最新テクノロジーを融合させた次世代型都市開発への挑戦を意味しており、「スマートシティ」といわれる自動運転交通システム、IoTを活用したスマートホーム、自宅にいながら仕事ができるテレワークシステムが構想されています。

戦後、日本の大都市は狭い地域を有効に活用すべく高度な都市開発を行ってきました。今後、これらの技術革新を経て、都市に人が集まらなくてもビジネスや生活ができる環境が整ってくることでしょう。となれば、これからの都市構造はAIやロボット・テレワーク・IoT等をフルに活用し、人が移動しなくても経済活動が可能となるかもしれません。一方で、多くの人が集まることを前提にして構築された交通システム、大規模ビル群については、何らかの変革を行うことが必要になることでしょう。

例えば「関係人口」という定住でも観光でもない、人と人が交流し多様な関わりをもつ人口を増やそうというプロジェクトが地方都市をはじめとして始まっています。それは古代ギリシャにおける都市国家(ポリス)での公共空間として機能した「アゴラ」的な都市になるかもしれません。あるいは、弊所初代会長の祖父、渋沢栄一が設立にかかわった「田園都市株式会社(後に東急電鉄株式会社に承継)」の理念に掲げるような都市づくりがヒントになるかもしれません。

人々が集まる新時代の都市づくりに向けて

今回の新型コロナウイルス対策は、皮肉にも「大都市の日常」に一時的にせよ変化をもたらすことになりました。ウイルスの拡大と対策によって人々の往来が少なくなり、「都市から人がいなくなる」という現実を目の当たりにした衝撃は大きいと感じています。

最近は、SNSやパソコン、インターネットを活用したクラウドシステム等の普及によって、対面でのコミュニケーションが少なくなってきたような気がします。昔から都市(まち)には、人々を引きつける何らかの魅力があったのだろうと思います。あるいは何かの目標のために集まる人々が全体的な”まとまり”を持っていたのかもしれません。

これから先、こういった昔ながらの都市の魅力が失われる可能性があるとするならば、再び人々が「行ってみたい」と思えるような魅力を備える都市づくりが必要だと思います。(幸田 仁)