2020/09/23 「変化」について考える

皆さんこんにちは。日本不動産研究所の幸田 仁です。

新型コロナウイルスの猛威によって、企業業績が悪化したことで、「人員整理」「解雇」「失業」といった報道が目につくようになりました。昨年まで観光やサービス業を中心に好景気を維持していましたが、突如として不況への下り坂を転がり始めました。

今回は、好景気から不景気への変化などを題材に、「変化」とは何かについて考えてみたいと思います。

失業率と失業者数

以下のグラフは政府が発表している労働力調査のうち、非自発的な失業者と完全失業率の変化を示しています。

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ニュースでよく報道される完全失業率は、折れ線グラフにあたり、2020年2月の2.3%から2020年7月の2.9%と0.6%上昇していることがわかります。

もう一つの指標である非自発的な失業者の人数を棒グラフで示しました。2人以上の世帯での非自発的な失業者数は、2020年2月の27万人から、2020年7月の46万人と19万人増加しています。

彼らは家族の生計を支える人達が大多数でしょう。彼らの収入が途絶えれば、家族も困窮します。0.6%の失業率増加と生活に困窮する可能性がある人が20万人~60万人発生することは同じ意味 です。

人は、数字によってその感じ方も異なります。たとえば、日本人の65歳以上の国民の割合(高齢化率)が25%であるという表現と、日本人の65歳以上の高齢者が3,200万人いる、という表現ではどちらが直感的に「そんなに多いのか?」と感じるでしょうか?

見える変化と見えない変化、短期的な変化と長期的な変化

昨日まで営業していたお店が閉店した、新しいビルが建ったといった町並みの変化は見える変化です。また、築50年のビルは明らかに新築と異なりますから、これも見える変化でしょう。

一方で、人々の意識、生活水準、歴史や文化の変遷などは、その場に居合わせてもすぐさま感じ取ることは非常に難しい見えない変化もあります。

このように、変化には見える変化と見えない変化、短期的な変化と長期的な変化があり、私達は見える変化や短期的な変化には気づきやすいですが、見えない変化や長期的な変化は気づくことが非常に困難、あるいは気づくことすら出来ない場合もあるのです。

不動産鑑定評価の「不動産」

弊所機関誌「不動産研究第6巻第2号(1964年4月号)」において、当時弊所鑑定役だった門脇惇は「不動産鑑定評価の意義」を、以下のように説明しています。

「民法が、不動産の意義を、特別の行為などとは無関係に、物的に、静態的に、定めているのに対し、不動産鑑定法(不動産の鑑定評価に関する法律、昭和38年法律第152号)は、それを不動産の鑑定評価という特別の行為との関連においてのみ、動態的に観念している。(中略)不動産の観念を、鑑定評価という行為に結びつけてのみ動態的に、かつ、間接的に匂わせているにすぎない。」

また、門脇は、鑑定評価を「鑑定」と「評価」という言葉が一体となって表現されていることに着目し、鑑定評価は調査と価額で表示する行為が常に往復するという立場をとっていると説明します。鑑定評価とは、不動産を動態的に捉え、その変化、過去と将来の連続性を踏まえる実践活動だと説いているように私は感じます。

見えない変化を捉える力

不動産の鑑定評価は、町並みや不動産の状態、人々の活動など目に見える短期的な視点と、過去からの歴史やその地域に根ざす文化、社会経済情勢の影響度など目には見えない長期的な視点をもって実践するものです。

そして、鑑定評価には、単に「土地」と「建物」の見えるもののみならず、社会情勢や人々の意識などの変化を捉えることに加え、長期的な過去と将来との変化をイメージできる経験と知識に裏付けられた想像力と、何よりも数字が示す意味を、現実の社会実態に照らし合わせて考察できる能力が必要なのです。(幸田 仁)