2020/12/02 地方移住への意識の変化

皆さんこんにちは。日本不動産研究所の幸田 仁です。

連日、新型コロナウイルス感染者の拡大が報道されています。重症者の人数も増え続けており、生活、経済活動、医療等への影響が日増しに拡大しています。「3密」を可能な限り避けることが政府や自治体から要請される一方で、経済への影響は深刻化しつつあります。

今回はコロナ禍における人々の居住地の移動状況を概観し、テレワークや地方移住の意味について考えて見たいと思います。

新型コロナウイルス感染拡大と人々の移動の推移

今年1月から報道されはじめた新型コロナウイルスは、感染リスクや経済活動への影響が不安視され、感染を防ぎつつ、経済を維持するための対策について行政、医療現場・研究者の間でも百家争鳴の状況が続いています。

東京都特別区部からの転出者が増えている

以下のグラフは、令和2年1月以降の住民基本台帳人口移動報告をもとに、主要都市ごとに他都道府県へ転出した人の前年と比較した増減比率を示したグラフです。

0%が前年と同じ転出者数を意味します。したがって0%を上回ると前年に比べて転出者が多く、下回ると少ないことになります。

3月は転出者が増えていますが、これは転勤の時期とも重なるので早めに大都市から転出した可能性もあります。4月中旬に前安倍首相による緊急事態宣言が発表されたことにより、5月は転出者が大幅に減少しています。

その後、7月から8月にかけた第2波の時期から、東京特別区部と他都市との差が現れます。東京特別区部は他都道府県への転出者が他都市と比較しても増加していることがはっきりとわかります。

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テレワークと地方移住の意識

奇しくも、第四次産業革命によるICTやSNSの急速な普及によって「働き方改革」「Society5.0」の諸施策を推進する矢先におこったコロナ禍は、否応にも人々の生活と経済活動に直撃しました。

通勤の制限、在宅勤務の奨励、WEBを通じた会議システムによってオフィスに通勤する意味や目的が改めて見直されています。

「地方暮らし」に高い関心を示す首都圏の人々

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)在住者を対象に「東京圏以外の地域(地方圏)での暮らし(以下「地方暮らし」)」の意識・行動に関する調査を令和2年1月から3月に実施しました。

その結果、東京圏の約50%が地方暮らしに関心を持っており、特に若い方が「地方暮らし」への関心が高い傾向が見られるとの結果を発表しました。

我が国の都市の未来

弊所初代理事長である櫛田は、季刊誌「不動産研究」第9巻第1号(昭和42年(1967年)1月号)で「わが国の都市の行末」と題して以下のような言葉を残しています。それは、櫛田がかつてニューヨークの高層ビル群を眺め、壮観ではあるが、いずれも豊かな人間の生活を全面的に拒んでいるように思われるというアナクロニズムな感傷にすぎないのかという前置きをしたうえで語っています。

「私は、東京周辺50キロ圏内は、やがてビッシリと身動きならぬほど充填されてしまうであろう、それにいかに資金と手間をかけて、秩序ある所要空間の造成あるいは再編成をはかっても、結局は人々はその圏内で窒息してしまうであろう、そして人々はより明るい、より清い空間を求めて移動するであろう、少なくともそのような空間を強く欲求するであろう。」

人は肉体と心(精神)がバランス良く機能して、初めて「人間らしさ」を実感できると感じます。現在、社会問題化している家庭の崩壊、虐待やハラスメント、耐えきれないストレスによる自殺の増加は、人々の心を徐々に蝕んでいる結果なのではないでしょうか。

櫛田の言葉は、50年の歳月を経て現実になりつつあること、その先見性と人々の暮らしに対する思いの強さを改めて感じさせられます。(幸田 仁)