2021/01/08 ポストコロナ時代における不動産のあり方の変化

明けましておめでとうございます。日本不動産研究所の幸田 仁です。

昨年末から年始にかけて首都圏を中心に感染爆発とも言えるコロナ感染者が急増し、政府より緊急事態宣言(1都3県)が発令されました。

年始から社会経済が大変な状況となっていますが、今回のコロナパンデミック後の世界をどのように考えていけばよいのでしょうか。今回はポストコロナ時代における社会経済について、「不動産のあり方」という視点から考えてみたいと思います。

ポストコロナの方針

皆さんは「ダボス会議」という会議をご存じでしょうか?これは「世界経済フォーラム(以下「WEF」)」という団体が毎年スイスのダボスで開催される年次総会です。今年は、特別年次総会がシンガポールで2021年5月25~29日に開催される予定です。この特別年次総会は、コロナパンデミック以来、初めてビジネス、政府、国際機関、市民社会、アカデミアのリーダーが直接参加し、復興を議論する会合となる予定です。

グレート・リセット

2020年6月にWEFは、2021年の年次総会を「グレート・リセット」をテーマに開催すると発表しました。その大まかな内容は、「グレート・リセット」クラウス・スワブ/ティエリ・マルレ共著(藤田正美ほか訳:日経ナショナルグラフィック社版)に記載されおり、その一部をご紹介します。

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【出典:日経ナショナルグラフィック社版「グレート・リセット」表紙】

コロナ禍前の状態には戻らない

世界の歴史では、疫病の大流行が変革の契機となっているとし、筆者はこう答えています。「いつになったら、ノーマルな生活に戻れるのだろうと。シンプルに答えよう。戻れないのだ。」

デジタル化の加速

日本国内でもコロナの感染拡大対策として、WEB会議、SNSなどのICT技術、AI、IoTの活用などのデジタル技術が急速に実用化されました。デジタル化されたビジネスや社会は今後も間違いなく加速するはずです。これは別の視点から見れば「消費者の行動様式の大きな変様がおこる」ということを意味しています。

ポストコロナと不動産のあり方の変化

「不動産のあり方」については、不動産鑑定評価基準では以下のように説明しています。

「この土地を我々人間が各般の目的のためにどのように利用しているかという土地と人間との関係は、不動産のあり方、すなわち、不動産がどのように構成され、どのように貢献しているかということに具体的に現れる。(中略)この不動産のあり方は、その不動産の経済価値を具体的に表している価格を選択の主要な指標として決定されている。(不動産鑑定評価基準第1章)」

グレート・リセットの根底にあるテーマ

WEFが選んだ「グレート・リセット」には、「個人の幸福」というテーマが根底にあります。著者は今回のコロナ禍を受け、現在の世界は「国家間の連帯や個人の連帯が大きく失われている世界」であるとし、「パンデミックへの最善の対応を目指した判断はすべて、倫理的選択だと捉え直すことができる」と説明しています。

人々の行動様式の変化は「不動産のあり方」に影響する

上記のとおり、不動産鑑定評価基準では「不動産のあり方」とは“人々の諸活動の結果”と捉えます。今回のコロナ禍によって、必然的にこれまでのような働き方や暮らし方(通勤、都心部での生活、消費活動、教育、家族のあり方)について変化が生まれることでしょう。

それは、働き方、暮らし方、あるいは人と人との助け合いや人生における幸福とは何か?ということを考えさせられるきっかけでもあるはずです。

また近年、産業面においてもESG投資SDGsに積極的に取り組んでいます。これは逆説的に言えば、これまでの経済成長重視、富の蓄積、徹底した事業効率化などによる都市づくり、働き方、産業構造について、見直す余地があるということではないでしょうか?

不動産の価値も変化する

人々の行動様式の変化は「不動産のあり方」もまた変化することを示唆しています。この変化は、10年~20年という中長期的な歳月をかけて、企業の経済活動や事業、ビジネス方式、個人の重視する「価値観」や「行動規範」にも影響します。

これから迎えるポストコロナ時代に向け、不動産鑑定評価の実践においては「不動産のあり方の変化」を鋭敏に感じ取り、人々の活動、価値観の機微な動きと不動産の関係性を見極めなければなりません。いわゆるAIやビッグデータでは解き明かせない新たな不動産の価値(≒不動産のあり方)を見いだす発想と創造力が必要になると考えます。(幸田 仁)