2021/02/12 投資と投機と不動産

皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

緊急事態宣言、外出自粛が続いている中、様々な形で人々はストレスを抱えていることと思います。このような中、現代のデジタル社会を象徴するような出来事が米国株式市場で起こりました。 報道によれば、米国のゲーム販売チェーン企業の株を巡り、ヘッジファンドが仕掛けた大量の空売りに対して、個人投資家たちがSNSやアプリを活用して買い注文を浴びせたことで株価は急騰、空売りしていたヘッジファンドが大きな損失を被ったというニュースです。

SNSでつながった個人投資家達は、ヘッジファンドが大規模な空売りを仕掛けていることを「道徳的に間違っている」と考えたとのことです。

今回は、このような株式の取引にかかわらず、投資(家)と投機(家)の違いや、現在の不動産市場に対して、不動産鑑定士がどのような態度で臨むべきかを考えてみたいと思います。

投資(家)と投機(家)の違い

「新訳 バブルの歴史」(エドワード・チャンセラー著 山下恵美子訳 パンローリング株式会社発行)で著者は、「通常、投機は、市場価格の変動から利益を得ようとする試みと定義される。この定義から言えば、将来的にインカムゲインよりもキャピタルゲインを重視することは投機と見なされる。」また、経済学者のJ・A・シュンペーターの言葉を引用し「投機家と投資家の違いは『トレード』する意思、つまり証券価格の変動から利益を実現する意思があるかどうかである。そういう意思がある人を投機家と言い、そういう意思がない人を投資家と呼ぶ」。投資は受動的であり、投機は能動的であると著者は説明します。

チューリップバブルから見る投機の世界

さて、それでは投機家と言われる人々によってもたらされたバブルの歴史として17世紀半ばに発生したチューリップバブルを概観していきたいと思います。

オランダのチューリップバブル

時代は1600年代半ばに遡ります。当時のオランダは織物貿易ブームの到来、商業的楽観主義が到来し、郊外の住宅建築ブームで沸いていました。チューリップバブルの始まりは、パリやフランスで球根の価格が上昇していると聞きつけた人たちによると言われています。

チューリップバブルは1636年から1637年にかけて起こりました。高騰したチューリップの球根の価格は、1つの球根が年収5年分の価格になったとの記録も残っています。

また、チューリップの花弁の縞模様は、球根に付いたウイルスによるものだったことが後に判明し、結果的にチューリップバブルは、球根のランクではなく、投機家達がもっと高く売ることができるという「希望」のもとで起きたと言えます。

実態のない現代の金融取引

現代、金融商品はさらに高度化、複雑化し、金融派生商品(ディリバティブ取引)や暗号資産(ビットコイン)取引など、取引の対象そのものに実態がないものも数多く出現しています。また、取引方法もFinTechを活用し、HFT(マイクロ秒単位での売買)やAI等を活用した取引が中心となり、今後はトークンエコノミーと呼ばれる代替通貨による経済が出現するとも言われています。

不動産鑑定士の役目

このように、現代の金融市場では、実態がないものや対象そのものの価値に基づく価格とはかけ離れて取引される場合、冒頭で示したヘッジファンドと個人投資家との取引合戦がくりひろげられています。

不動産もまた、金融商品として取引の対象になりました。金融商品化された不動産は、上記のような投機的取引によって価格がゆがめられてしまうかもしれません。

一方で、不動産鑑定評価基準の第1章基本的考察の第4節には不動産鑑定士の責務として、「土地は、土地基本法に定める土地についての基本理念に即して利用及び取引が行われるべきであり、特に投機的取引の対象とされてはならないものである。」と記されています。

現代の金融商品として取引されている不動産が「投機的取引の対象」であるかについては、投資か投機かの違いによることもありますが、不動産鑑定士としての役割と責務は、現在の金融市場が実態とかけ離れた状態になりやすいことを充分に理解し、特に過去に経験した不動産バブルの崩壊を再び起こさないよう、不動産そのものの価値を見極め、誠実に鑑定評価活動に勤しむことではないかと考えています。(幸田 仁)