2021/10/14 都市の「多様性」をとらえる

皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

9月5日、東京パラリンピックが閉会しました。パラリンピックでは様々な障害を持つパラリンピアンがメダルを目指す姿と選手達の勇気、努力に大きな感動をもらいました。閉会式では、「多様性」をコンセプトとした演出が披露され、特に私が釘付けとなったダンスがありました。

障害者、健常者それぞれが、思い思いの衣装をまとい、音楽に合わせて自由にダンスをし、躍動した演出です。色とりどりの衣装、ダンスも思い思いに踊っているわけですから一見バラバラです。しかし、よく観察すれば一人一人が個性を持ち、「バラバラであることの一体感」という感覚を覚えました。これが「多様性」を感じ取ることなのかもしれないと気付いた瞬間でした。

Tokyo Paralympics Closing Ceremony
今回は、「多様性」をキーワードに不動産鑑定評価について考えてみたいと思います。

多様性を紅葉で例える

そろそろ本州でも紅葉シーズンに入りました。紅葉の名所と呼ばれる日光や尾瀬には、紅葉の美しい景色を眺めに多くの人が訪れます。そこで、紅葉を例にとり、「多様性」について考えてみたいと思います。まずは、以下の2枚の写真をご覧下さい。

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上の写真は夏の山林です。深緑の森といったところでしょうか。夏らしく蝉の鳴き声が聞こえてきそうです。しかし、この写真で木の種類(樹種)の違いを見分けるためには、樹木に関する専門的な知識が必要かもしれません。

一方で、下の写真はまさしく紅葉のシーズン真っ盛りの山林です。赤、黄色、茶色、山吹色など色とりどりの樹木が見えます。この写真を見ると、それぞれの木々が異なる色に変色していることで木の種類の違いがある程度見て取れるのです。

紅葉が織りなす多様性

秋の紅葉は多くの人達を魅了します。それは春夏秋冬の季節感、山肌に広がる色とりどりの木々によって織りなす景色に心が惹かれるからかもしれません。夏の森林は緑一色ですが、紅葉は多様な種類の木々が生い茂っていることが一目でわかります。夏には気付くことができない木々の種類も、紅葉を見ることで木々の「多様性」に気づくことができるのではないでしょうか。

都市の多様性と鑑定評価

一見どの都市も中心部には商業施設のほかオフィスビルやホテル、飲食店街が集積し、郊外には住宅地や工場地域に分かれており、同じような地域の配置と構成に見えます。特に、近年の駅前商業地の多くは全国展開する飲食業や小売業の店舗が並び、どの都市の駅前も代わり映えがないようにも見えます。

都市の多様性を感じるとき

駅前飲食店街や郊外の大型商業施設、オフィス街、住宅地域を見て回っても日常では多様性を感じ取ることは難しいかもしれませんが、都市にも多様性を感じる時期があります。それは「お祭り」です。お祭りは都市で暮らし、働く人々が中心となって開催されますから、その地域の特色がとてもよく現れるのです。代わり映えのしない都市を夏の山林とすれば、お祭りは紅葉にあたると私は思います。

都市の多様性をとらえることとは

樹木の専門家は、夏の山林を見れば、多様な樹種が判別でき、紅葉時期の景色がある程度イメージできるといえないでしょうか。

不動産鑑定評価でも、都市や地域の特性(多様性)をとらえることが必要です。それは、代わり映えのない都市や地域に見えても、通常気付かないような小さな違いを読み取ることで可能となるのです。樹木の専門家が、夏の深緑の木から紅葉の色を予測するように、不動産鑑定評価は、都市全体と都市を構成する地域の特性について、そこで暮らす人々の文化や歴史をつぶさに読み取る力が必要なのです。その結果、各地域がもつ異なる特徴を見出し、多様な地域の集合体として織りなす都市空間のイメージの中で、一つの不動産が持つ価値が判断できるのだと思います。(幸田 仁)