2021/12/22 メタバースと不動産

皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

皆さんは「メタバース」という言葉をご存じでしょうか。フェイスブックの社名を「メタ」に変更したという報道があり、話題となりました。このメタという社名はメタバースのメタに由来すると言われています。

今回はメタバースとはどのようなものかを説明すると同時に、メタバースの世界が、今後の現実社会(不動産)に対してどのような影響を及ぼすかを考えてみたいと思います。

メタバースとは

メタバースは英語で「Metaverse」と表記します。これはMeta(~を超越した)という単語と、Universe(領域、世界)の”Uni”を取って合成した造語と言われています。メタバースとは、「現実を超越した世界」という意味となりますが、私も含めて「未体験ゾーン」です。

現実空間とサイバー空間

現在、世界では第四次産業革命(AI、ロボット、インターネット、PCの高性能化)により、働き方やライフスタイルが大きく変化しています。特にインターネットの高速化と、スマホの普及等によって「XR」(AR、VR、MR)が身近に体験できるようになったのです。XRの説明は割愛しますが、この技術によって、現実空間とサイバー空間が暮らしの中でも徐々に融合し身近な存在となっています。

メタバースを利用した具体的例

メタバースを利用したサービスは、オンラインゲームで先駆的に発達しました。自分のキャラクター(アバター)をつくり、プレーヤはアバターとしてゲームの世界で自由に行動し、好きなことにチャレンジし、仲間をつくりながら遊べるのです。

ビジネスでも徐々にサービスが出始めています。メタ(フェイスブック)が提供しているのが、「Horizon Workrooms」です。また、KDDIでは「KDDI DEGITAL GATE」という施設をVRにより再現し、サイバー空間でのビジネス環境を開発しています。

メタバースは不動産の価値に影響を与えるか

現実の不動産(土地)の量や範囲には限りがあります。このことを不動産鑑定評価基準では以下のように説明しています。

「自然的特性として、地理的位置の固定性、不動性(非移動性)、永続性(不変性)、不増性、個別性(非同質性、非代替性)等を有し、固定的であって硬直的である。(不動産鑑定評価基準第1章不動産の鑑定評価に関する基本的考察第2節(1)」

土地はこのような特性を有するため、限られた空間に交通施設、商業施設、オフィス、飲食店などの建物が林立し、人々は仕事や買い物、レジャーのために都市に集まります。それゆえ人が集まりやすい好立地な土地は高値で取り引きされるのです。

人々の行動変様が不動産の価値に影響を与える

コロナ禍はテレワークや、オンラインによる会議、ネットショッピング、食べ物の宅配など、暮らし方、働き方に対する行動変様を促しました。さらに暮らし方も、都心と地方での2拠点生活や地方移住など多様な働き方が可能となりました。

一方で、多くの企業では、現実のオフィスで仕事をする方が、業務の円滑な遂行には必要だと考えていることも事実です。私自身も現実の職場空間で働く良さを実感できます。しかし、これは私達が「今までの働き方に対する経験」からの思い込みかもしれないのです。

現在の10代~20代は、Z世代とも言われ、彼らはインターネットやSNSを通じて、現実空間とネット空間でのコミュニケーションを子供のころから経験し、ネット空間を利用することは当たり前という感性を持っています。彼らが今後社会で働くとき、私たちと同じような働き方に共感するかどうかは未知数です。

不動産の価値は時代のニーズによって変化する

不動産(土地)の有用性は時代によって変化します。例えば、江戸時代、主要な都市は内陸部よりも沿岸部に点在していました。なぜならば、交通手段の中心が海運だったからです。しかし、現在の物流拠点は高速道路等の道路網を中心に物流の拠点に応じて内陸部にも展開しています。

また、戦後、東京湾は大工業地帯となり、住宅地不足が深刻化しました。そのため首都圏の住宅は郊外へと拡大していきました。しかし、その大工業地帯は、現在、超高層タワーマンションエリアとなっています。

このように、不動産の価値(人間が認める有用性)は時代の変遷や経済情勢、国家政策、生活様式の変化などによって変わります。メタバースとXRが働き方や生活の一形態として実用化されたとき、不動産の価値(あるいは都市の価値)もまた変わってくることでしょう。しかし、不動産の価値はメタバースによって決定づけられるものではありません。不動産の価値は、メタバースを生活形態に採り入れ、新たな土地や都市のあり方を創造しようとする私達の行動規範や価値観が決めることになるのです。(幸田 仁)