2022/01/31 情報とデータを活用する時代

皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

最近、注目するニュースがありました。いくつかご紹介しますと、東京電力パワーグリッドやNTTデータなどが、スマートメーター(電力計)を利用して、電力使用状況データを販売する新会社を設立、JR東日本が12都県約600駅の乗降データをまとめた「駅カルテ」を作成、日本郵政グループが配達員の目視やバイクに取り付けたカメラにより最新の情報を反映したデジタル地図事業への参入などです。

20世紀末頃から「情報社会」と言われて久しいですが、第4次産業革命以降、ビッグデータやPOSデータ、個人データなど「データ」という言葉が目に付くようになりました。そこで、今回は「情報」と「データ」の違いを紐解きながら、不動産鑑定評価の実務を考えてみたいと思います。

情報とデータの違い

「情報」を英語で表記するとinformationとなります。これは動詞のinformの派生語です。informの原義は人の心や頭で形づくることとされ、これが名詞としてinformationとなり、人がなにがしかのイメージを生成する「物事」になります。イメージは、文字、画像、音声、手触りなど、人間の感覚機能を通じて伝達されるといえます。

一方、「データ」は英語でdataとなります。dataはもともとdatumの複数形でしたが、現在は単数でもdataとして使われています。dataの意味は、人がなにがしかの判断や決断をするための根拠となる「資料」や「事実」そのもの、あるいはこれらの集まりとされます。

情報は人がイメージする「物事」、データは事実や資料の「集合体」

情報とデータの違いを英語から考えてみましたが、日本語の場合、必ずしも明確に区別されていないように感じます。たとえば、「個人情報」と「個人データ」の違いをすぐにイメージ出来るでしょうか。実は個人情報保護法では、「個人情報」と「個人データ」は第2条でそれぞれ別の言葉として定義されています。

「データ」の収集と「情報」の収集

不動産鑑定評価基準第8章第5節では、確認資料、要因資料、事例資料を収集し整理することが要求されており、資料の収集及び整理は、鑑定評価の成果に左右されることから、的確に行い、公正妥当を欠くようなことがあってはならない、と記されています。

この内容は、昭和39年3月25日の宅地制度審議会第四次答申及び昭和44年9月29日の住宅宅地審議会による不動産鑑定評価基準の設定に関する答申から大きな変更はありませんが、当該答申では「豊富に秩序正しく誠実に行わなければならない」という一文がありました。

豊富に秩序正しく収集した資料は「データベース(ビッグデータ)」である

上記答申は、パソコンやインターネットがほとんど普及していない昭和40年前後に検討されたものです。それから半世紀以上が経過して時代は変わり、大量にデータを蓄積することができる時代となりました。大量に蓄積されたデータは、言い換えれば「秩序正しく豊富に収集された「事実」の集合体」であり、まさにデータベース(ビッグデータ)です。パソコンがない時代にもかかわらず、答申時には将来を見通すかのように「データベース(ビッグデータ)を構築しなければならない」と示唆していたように感じます。

情報は不動産鑑定士が判断するための根拠である

情報は前述のとおり、人間がイメージし、判断するための根拠となる「物事」です。情報は、文献や取材、日々の出来事を見聞きし、あるいは多くの鑑定評価の実務を通じて蓄積した経験により獲得できるものであり、価値判断のための重要な材料になるでしょう。

これからの不動産鑑定評価に必要なこと

50年前に検討された不動産鑑定評価基準では、現在の「データベース」のように資料や事実の収集と活用を前提とし、加えて、不動産鑑定評価実務における調査や取材、社会の諸活動を通じて必要な「情報」を整理することで、判断の根拠とすることを求めているのです。

これが意味するところは、データを分析するだけでも、調査や取材、実務経験のみに頼って判断するだけでは不十分であり、データの分析と様々な情報に基づいた判断が融合して、初めて的確な不動産鑑定評価が可能となるということではないかと考えます。

(幸田 仁)