2022/03/31 為替レートと不動産の価格秩序

皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

昨年の秋頃から始まった原油価格の高騰は、私達の生活にも徐々に影響が出始めています。小麦や食用油、菓子類、飲食店の商品も続々と値上がりしています。

土地価格については3月22日、国土交通省によって全国の地価公示価格が発表され、全国平均では全用途平均、住宅地、商業地は2年ぶりに上昇に転じ、工業地は6年連続の上昇とのことです。

一方で、円の為替レートについては、円安傾向が続いていますが、私が特に注目したのは先月、国際決済銀行(BIS)が発表した日本の通貨「円」の2022年1月の実質実効為替レートが約50年以来の低水準になっているということでした。

今回は、この実質実効為替レートをキーワードに、不動産価格と物価の関係について考えてみたいと思います。

実質実効為替レートとは

日本銀行の解説によれば「特定の2通貨間の為替レートをみているだけでは捉えられない、相対的な通貨の実力を謀るための総合的な指標」と説明しています。また、「実質」というのは、通貨のインフレ動向を加味して調整していることを意味しています。つまり、実質実効為替レートとは、主要な貿易相手諸国の通貨に対する相対的な実力を示す指数ということになります。

具体的なイメージ

米国と日本の通貨のケースで説明してみます。

日本に3000万円の不動産があるとします。このときの米国ドル為替レートが1ドル=100円で、年収1000万円の日本人がいるとします。また、日本のインフレ率は0%とします。

米国では当初年収10万ドルでしたが、インフレが続き、年収が15万ドルに増えます。為替レートは1ドル=120円の円安になったとします。米国はインフレにより物価は上昇しますが年収も増えるため、生活水準はそれほどかわりません。日本国内でも年収1000万のままでもインフレ率が0%であれば、同様に生活水準はそれほどかわりません。

この場合、日本の3000万円の不動産は、米国人からはどのように見えるでしょうか?

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外国投資家の存在感と不動産取引

近年、日本では株式・金融の取引市場や、大企業の大株主として、外国投資家の存在感は高まっています。不動産についても同様で、上記の実質実効為替レートを考えれば、外国投資家は、日本の不動産投資に魅力を感じているのかもしれません。

北海道ニセコエリアの体験

かつて、私が北海道支社に勤務していた時代、ニセコエリア(倶知安町、ニセコ町)は外国投資家によって大規模な開発が行われていました。私は北海道出身ということもあり、昔のニセコエリアを知っていた関係で、その劇的な変化に大きな衝撃を受けました。

ニセコエリアのコンドミニアムは、一部屋が1億円前後という価格で、購入者は外国人が中心です。地元の人々にとってはとても購入できるような価格ではありません。

そこで感じたのは、外国投資家の資金力と開発力のパワーでした。外国投資家の感覚は、日本国内の投資家の感覚とは大きくかけ離れ、日本人からみれば「とんでもない高価格」でも、外国人からみると「投資としての魅力がある(利益が見込める)価格」として判断されていたのだろうと思います。

不動産鑑定評価の本質

不動産鑑定評価基準「第1章不動産の鑑定評価に関する基本的考察」の「第3節不動産の鑑定評価」には、不動産の鑑定評価の本質として以下のような記載があります。

「不動産の鑑定評価とは(筆者加筆)、この社会における一連の価格秩序のなかで、対象不動産の価格の占める適正なあり所を指摘することであるから、その社会的公共的意義は極めて大きいといわなければならない。」

ここで、「この社会」と「価格秩序」という2つのキーワードがでてきます。

不動産鑑定評価基準の草案ができたのは1969年(昭和44年)のことです。この頃、国際間の通貨は米ドルを基軸として各国通貨の交換比率を決めた固定相場制をとっていた時代(いわゆるブレトンウッズ体制)でした。

戦後の焼け野原から復興をとげた背景もあり、「この社会」とは「日本国内における経済社会」を指し、「価格秩序」とは「日本国内における諸物価」をイメージしていたと思います。

「この社会」「価格秩序」の変化

グローバル化と外国投資家の参入が日常化した現在、この2つのキーワードの意味は大きく変化したことを念頭に置かなければならないと感じています。「この社会」とは「国際社会」であり、「価格秩序」とは「世界各国の通貨の実力と外国投資家の資金力を背景とした物価水準」に変化したということです。

しかし、不動産鑑定士として忘れてならないのは、不動産は私達の暮らしと経済活動を行うために欠かせない基盤であることです。国際社会における通貨の実力差があったとしても、各不動産を取引する場合に想定される市場参加者を見極めたうえで、日本人が安心して暮らし、経済活動が行えるための不動産の価値と価格のあり所をしっかりと意識することが求められていると感じます。(幸田 仁)