皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。
久しぶりのコロナまん延による行動制限がないゴールデンウィークで、全国の観光地は多くの人で賑わったようです。とはいえ、一部の地域では感染者数が増加傾向にあるという報道もあり、マスクと手の消毒はしばらく続きそうです。
今回は、徐々に整備されてきた公的機関が公表しているオープンデータの利用と新たな発見との関係について考えてみたいと思います。
今年の4月17日の朝日新聞に興味深い記事がありました。警察庁公開の「交通事故オープンデータ」を用いて朝日新聞取材班が埼玉大学大学院の久保田尚教授の監修を受け、事故多発地点を分析したというものです。
この報道に目を引かれたのは、警察が把握しているいわゆる「事故多発地点(特に交差点)」ではない事故多発交差点が見つかったという内容です。
警察庁が公開している「交通事故統計情報オープンデータ」は、主に人身事故の場所や事故の状況などを公開しているデータベースで、過去2年分(約68万件)にのぼります。
そこで、私も早速警察庁が公開しているオープンデータを地図に落としてみました。
人身事故の地点(青のポイント)は、全体的に分布していますが、赤丸で囲ったエリアは他のエリアよりも集中している傾向がわかり、事故が多い場所が一目で判断できます。
オープンデータやビッグデータは研究者や実務家によって、様々な課題解決のために活用されつつあります。
データベースの構築には、人が一つ一つ入力する方法と、システムやインターネット等を介して自動的に蓄積されるデータベースの2つに分けられると考えます。
人が入力する方法は、日々の記録として蓄積されます。この方法はコンピューターやインターネットの普及と共に大規模化し、業務上必須のものとなりました。たとえば、顧客情報、販売管理、財務会計などのデータベースです。
もう一つは、インターネットや大規模なシステムによって自動的に蓄積されていくものです。コンビニやスーパー等の「POS(Point Of Sales)データ」や鉄道会社の「乗降記録データ」は大規模システムによる蓄積です。POSデータとはスーパーやコンビニなどのレジで記録された商品購入記録です。乗降記録データはプリペイドカードを利用した自動改札データなどです。さらに近年注目されているのがウェブサイトの閲覧履歴、SNSのテキストデータやスマホを介した人々の移動データによって自動的に蓄積される膨大なデータベースがあり、これらをビッグデータと呼びます。
業務上入力されたデータベースは日々の財務情報、営業情報等として蓄積します。
入力内容をわかっているはずの入力者(組織)であるが故に気づけないことがあります。たとえば日々大量に入力する場合は大勢の人が分担するので全体を把握しにくいこと、入力(記録)すること自体が業務と考えるため、データベースの分析までは意識できなくなることです。
データベースは人の手によって記録されるほか、スマホアプリ、SNS等の利用によっても自動的に蓄積します。データベースの入力者(組織)は日々の業務に集中し、個別の入力内容をよく知っているが故に、全体を客観的に分析するという意識を持ちにくくなると感じます。今回の朝日新聞の報道は、別の観点や目的を持った分析者によって、隠された事実が発見される可能性があることを示唆したものといえます。
不動産分野のビッグデータやオープンデータは多岐にわたります。そのため、不動産に関して多角的に分析しようとしても、横断的に活用する必要が生じます。各分野の専門であるほど横断的・多角的な分析が困難となる「入力者(組織)の罠」にはまってしまうかもしれません。
不動産鑑定評価実務では、今後はビッグデータやオープンデータ等をより一層活用しなければならない時代になるでしょう。このような時代の中で、「入力者の罠」に陥らないように、常に幅広い視野と多角的な視点、そして柔軟な思考力をもって、これらのデータを横断的に活用していかなければならないと思います。(幸田 仁)