2022/07/22 【JREI Think-Tank Eyes】7月の日銀展望レポート-金融政策修正の兆しはあるか?

7月の日銀展望レポート-金融政策修正の兆しはあるか?

執筆者:研究部 不動産エコノミスト 吉野薫
2022年7月22日


 日本銀行は7月20日、21日に政策決定会合を開催し、その終了に合わせて「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の基本的見解を公表しました。展望レポートでは2022年度の物価に対する政策委員の中心的な見通しが+2.3%と示され、日銀が物価目標としている2%を上回ったとして注目されています。それでも日銀が今回も政策に変更を加えなかったのは、物価の昂進があくまで一時的要因であると認識しているためです。「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」という方針に変わりはない、ということでしょう。今回の政策決定会合の結果やその後の黒田総裁の記者会見、あるいは展望レポートの記述からは、日銀が金融政策の修正を検討している様子は一切読み取ることができませんでした。

 それでも昨今は日銀が金融政策を修正する可能性が取り沙汰されるようになりましたし、それを試すような動きも国債市場で一時見られました。特に投機筋が長期金利の上昇(国債価格の下落)を見越して空売りを仕掛けた結果、6月の海外勢による長期国債の売越額は過去最高となりました(図表1)。

図表1:外国人による利付長期国債の買付・売付額

(注)現先取引を含む店頭売買の金額
(出所)日本証券業協会

 近い将来に金融政策を維持できなくなるのではないか、という観測とともに、来春に日銀の総裁・副総裁が交代するという節目のタイミングが近づいていることも相俟って、金融政策が修正されうるとの説は信憑性を高めています。

 2013年に「量的・質的金融緩和」が導入されて以降、常々「ほぼ100%の確率で緩和的金融政策が当面続く」と主張してきた筆者ではありますが、今では金融政策の変更の可能性を過小評価すべきではないと考えるに至っています。それでも、金利水準の上昇が日本の不動産市場に悪影響を与えるようなリスクが差し迫っているとはいえません。日銀は原理上、国債を買い入れる余力を無限に有していますから、日銀が現在の政策に本気で固執する限り、投機筋に屈することはありえません。実際に国債を無限に買い入れようとすると国債市場の価格形成原理に弊害を来しますから、その弊害を除去するための措置を講じる可能性はありますが、それは市中金利の上昇を促すようなものとはならないはずです。

 こうした技術的な議論よりも、むしろ筆者としては実際に物価上昇率が2%を超過して金融緩和の縮小に至る、というプロセスに注視しています。事実、このところ家計や企業の予想物価上昇率は急速に高まっています(図表2)。

図表2:企業および家計の予想物価上昇率

(注)企業の見通しは全企業・全産業の平均値。家計の予想は中央値
(出所)日銀短観、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」

 

 物価目標の達成のためには、経済主体の予想物価上昇率が高まることが必須と考えられていますから、従前と比べて物価が上がりやすい状態になっているとはいえるでしょう。「日銀vs投機筋」「日銀人事に対する政治的思惑」のようなストーリーは人々の耳目を引きやすいとは思いますが、むしろ目配りすべきは「物価上昇→金融緩和縮小」という教科書どおりのプロセスが生じる可能性なのではないでしょうか。(一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト 吉野薫)

※当コラムで示される見解は個々の執筆者個人に属するものであり、必ずしも日本不動産研究所の見解を代表するものではございません。