2022/09/01 【コラム】土地と向き合う

みなさんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

ここ数年、不動産に関する問題が話題になっています。空き家問題、所有者不明土地問題、重要施設(防衛関係施設等)や国境離島等の取引や土地利用問題などです。

今回は、現在直面しているこれら諸問題に対し、過去の土地所有に関する歴史を通じて、土地との向き合い方について考えて見たいと思います。

土地が財産となった歴史

江戸時代末期、土地といえば田圃(たんぼ)であり、「ムラ(村)」や「イエ(家)」によって、領主への年貢納入との引き替えに、村単位、家単位で土地所有が認められるという構造でした。これを「村請制」と言います。

明治維新後、政府は地租改正を行い、土地所有制度は大きく変わりました。村単位の所有から、所有を個人ごとに確定するという事業です。その結果、土地所有者は、土地取引、担保差し入れが自由になりました。土地が個人財産(商品化)になったのです。

制度が変わったとはいえ、しばらくは「家」制度による「村」社会の文化は継続し、村のルールや掟、家を守るという意識は続きます。

弊所初代理事長の櫛田光男が「不動産の鑑定評価に関する基本的考察」にて、「不動産は、通常、土地とその定着物をいう。」という表現に対し、あまりにも即物的で不十分だと感じ取り、不動産の本質を「土地と人間との関係の体現者であり、その意味で文化的歴史的所産の一つ」と説明しますが、このような土地所有制度の側面と社会文化の意識的側面をうまく表現したものと感じます。

財産偏重のジレンマ

機関誌「不動産研究」第6巻第2号(1964年4月)に、清水馨八郎(当時、千葉大学助教授理学博士)の「わが国土の風土性と日本文化」という寄稿文があります。その冒頭では、「不動産研究の前に土地研究を」として次のように語っています。

「国土は、日本人の生活と文化を育んでくれた母なる大地なのである。(中略)土地研究を忘れての不動産研究はしばしば方向を誤る危険がある。土地は財産としての不動産である以前に、国土としての土地であるという見方が今ほど必要な時はないと考える。(中略)現代日本の土地問題の矛盾は、土地を財産の対象としてみる不動産偏重思想から来ている。」

清水氏は、土地に対する財産偏重思想を土地問題の矛盾と指摘し、もっと広い視点での「生活と文化を育む大地としての視点」を持つべきだと主張しました。

土地の果たす役割とは

日本の地域文化はその土地を基盤とし、何世代にもわたって暮らしてきた人々の「土着性」によって育まれたと感じます。一方で、土地の財産化(商品化)は、その後の経済・産業の発展に大きく寄与しました。

現在の土地問題を俯瞰すると、地域社会の紐帯が失われ、個人の自由が重視される一方で、かつての土地を媒介とした「土着性」の良い面(相互扶助的側面)が失われたと感じます。

上記清水氏が警鐘を鳴らしたように、行き過ぎた財産偏重思想は、地域の文化や共同体の基盤としての土地の役割を切り捨ててきたのではないでしょうか。それが現在の様々な土地問題や、地域社会における孤立や孤独といった「生きづらさ」に繋がるとするならば、土地が果たす役割というものをもう一度考えてみる必要があるのかもしれません。
(幸田 仁)