2023/10/11 【不動研だより】わが国の不動産投資の指標としての「不動産投資家調査」の変遷

わが国の不動産投資の指標としての「不動産投資家調査」の変遷

「不動産研究」第65巻第4号より

研究部 次長 岩指 良和



 2001年9月にわが国初のJリートが東京証券取引所に上場して20年余り経つ。今では当たり前になっているデューデリジェンスによるリスクの把握や収益還元法による物件価格の見極めであるが、当時は開拓者精神を持った先行的投資家においても試行錯誤の連続という状況であった。

 わが国の不動産投資の指標として定着している弊所の「不動産投資家調査」は、バブルの後遺症である不良債権問題という社会経済課題の解決に向けて、不動産の投資市場のテイクオフに貢献したいという使命感を持って、Jリート市場の創設に先立つ1999年に開始した。弊所の諸先輩が築いてきた中立的な調査機関としての社会からの信頼に加え、多くの市場関係者の皆様のご支援とご協力があってはじめて、この調査をスタートすることができた。

1.第1回調査(1999年4月)

 不動産投資家調査は、不動産証券化を普及させていくうえで、当時、多くの市場関係者から法制度面以外の実務的な課題として指摘されていた「不動産の鑑定評価の信頼性」と「不動産投資インデックス(利回り指標)の不備」を解決するための弊所の公益活動としての取り組みの一つである。

 

「調査は、収益還元法における利回りに関する内容です。現在、投資用不動産は、収益還元法により求めた価格を中心として鑑定評価を行っています。しかし、この手法の適用において、取引事例が少なく、情報収集が困難な我が国の不動産市場の現状から、還元利回りを始めとする諸項目の裏付けとなるデータが不足していることを認めざるを得ません。

そこで、不動産投資家である皆様方にご意見をうかがい、収益還元法の精度を向上させつつ、その結果をフィードバックさせることによって、不動産投資市場の共通理解を深めることを目標に、本調査を始めることといたしました。」

 

 これは第1回調査の協力者への依頼状の文言である。この時のアンケートの設問は6問、丸の内、大手町地区のオフィスの期待利回りを中心に立地や建物設備等が異なることによる利回りの格差等を問うものであり、回答数は34社、回収率27%であった(図表1)。1999年当時は、山一証券、日本債券信用銀行、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行の破綻など80年代バブルが崩壊した傷が癒えず、市場関係者は、不動産市場活性化のため、投資関連情報のインフラ整備の必要性を認識しつつも、自社が保有する不動産情報の開示等に消極的な姿勢であったことがうかがえる。

2. 調査対象アセットの拡大

 その後、不動産証券化や投融資市場の成長に伴って、調査の趣旨に賛同する協力会社も徐々に増え、直近の第48回調査(2023年4月)では、回答数143社、回収率80.8%となっている。


 調査内容も、調査を重ねるに連れて、第1回調査から質問項目が詳細となり、「期待利回り」や「取引利回り」だけでなく、「過去6ヶ月の投資との関わり」、「今後1年間の投資姿勢」、機関投資家の「主な資金源」(国内or海外)など多岐にわたっている。

 また、不動産投資の対象がオフィスから商業施設、賃貸住宅と拡大していく中で、本調査の調査対象アセットの種類も徐々に拡大し、現在はオフィス、賃貸住宅、商業施設、宿泊特化型ホテル、物流施設・倉庫の5種類である。

(1)オフィス

 オフィスは、第1回から調査している。第1回調査は、丸の内・大手町地区のみが調査対象であったが、第5回(2001年10月)以降は主な政令指定都市に調査の対象地域を拡大した。また、東京では第9回(2003年10月)以降、「丸の内・大手町」だけでなく、「日本橋」や「虎ノ門」「赤坂」「西新宿」などにも調査対象を広げている。

(2)賃貸住宅

 賃貸住宅は、第9回(2003年10月)から調査対象としている。その際、機関投資家の関心が高い東京地区については、「ワンルーム」、「ファミリー向け」、「外国人向け高級賃貸住宅(低層型、超高層型)」等のカテゴリーに分けて調査を実施している。

(3)商業施設

 商業施設は、賃貸住宅と同様に第9回(2003年10月)から調査対象としている。カテゴリーは、「都心型高級専門店」と「郊外型ショッピングセンター」で、地域は東京とそのほかの主な政令指定都市が対象である。

(4)宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)

 宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)は、第10回(2004年4月)から、東京とそのほかの主な政令指定都市を対象に調査している。

(5)物流施設・倉庫

 物流施設・倉庫は、第37回(2017年10月)から調査対象に加えられ、カテゴリーは「シングルテナント型」と「マルチテナント型」で、地域は東京と千葉、名古屋、大阪、福岡の「湾岸部」と「内陸部」を調査対象としている。

(6)その他の調査項目

 その他の調査項目として、現在と半年後の東京と大阪の「マーケットサイクル」や「今後の賃料水準」などの調査も行っている。また、この調査に併せて特別アンケートを実施し、時々の不動産投資市場に関するトピックスやマーケットイベントに対する投資家の見方などを調査している。

3.不動産投資家調査のこれから

 この調査の開始から20年余りを振り返ると、米国ITバブルの崩壊と同時多発テロ、東京オフィス2003年問題、いわゆるファンドバブルとリーマンショック、東日本大震災、異次元の金融緩和、新型コロナウイルス感染拡大など多くの紆余曲折を経てきたが、この調査がわが国の不動産投資市場の動きをみる際に非常に有用な情報であることを再認識することができる。

 この不動産投資の重要指標である本調査を途絶えることなく継続実施していくことが、公益的な役割を担っている弊所の使命であるが、これに加えて、市場イベント発生時の緊急調査など報道的な取り組みにもチャレンジしたいと考えている。また、基本統計量を代表的な地区・用途について公表し、調査対象アセットの拡大を図るなど、調査の有用性を高める方策についても検討を行いたい。引き続き、本調査へのご支援とご協力を賜れれば幸いである。


「不動産研究」第65巻第4号 特集「金融緩和下のマンション市場」
研究部 次長 岩指 良和