林 良嗣 森田 紘圭
我が国では20世紀において立地拡散が進み、 災害に弱い地域への宅地進出や農山村の荒廃による災害へのぜい弱化、 市街地拡大に伴うインフラ維持コストの増加が進んできた。 それに加え、 今後は少子高齢化による経済成長の低減や気候変動等による自然災害リスクの高まりが予想される。 本稿ではこれらへの対応策として、 地区レベルでのクオリティ・ストックの形成と都市レベルでのスマート・シュリンクというツイン戦略について紹介し、 その概要について論じる。
キーワード:少子高齢化、 気候変動、 生活の質、 クオリティ・ストック、 スマート・シュリンク
Key Word:Aging Population, Climate Change, Quality of Life, Quality-Stock, Smart-Shrink
斎藤 参郎
While financial and real estate markets have long been integrated through securitization, it is said that much investment money has yet to be flowing into real estate markets of local cities in Japan. One reason for this is in the scarcity of information of local cities investors can utilize. To improve the situation, we propose to create and distribute Town Equity Indexes (TEIs) for indicating the values of urban areas and their real time changes. Thus TEIs must have the following novel characteristics. First, TEIs are constructed based on the estimated numbers of net in-migrants to city center areas. Such estimates had never been possible before Saito et.al. (2001, 2003) developed an on-site sample survey theory that established a consistent estimation method for trip chaining patterns from on-site samples. Second, TEIs are composed, generated, and distributed online automatically through electronic devices. This paper reviews the state of the art of our efforts to explore consumer shop-around behaviors to explain why our Town Equity studies turn out to be necessarily connected to Big Data innovations.
キーワード:都市エクイティ指数、 ビッグデータ、 回遊行動、 スマートシティ、 TEMS (都市エクイティマネジメントシステム)
Key Word:Town Equity Indexes, Big Data, Shop-around Behavior, Smart City, TEMS (Town Equity Management System)
村木 美貴
Even the city of Liverpool has massive deprived areas, it is dramatically changed under the comprehensive urban regeneration programmes. The points of regeneration are summarised as follows; setting the goal of urban regeneration programmes to the year of European Capital of Culture; public investments were concentrated in the city centre; large-scale shopping mall project called Liverpool ONE with great access to the neighboring shopping streets was developed under the compulsory purchase and so on.
キーワード:都市再生、 リバプール、 衰退、 収用
Key Word:Urban Regeneration, Liverpool, Deprivation, Compulsory Purchase
阪井 暖子
人口減少が進む中、 全国的に空き地の増加が危惧されている。 空き地は全国一律ではなく、 遍在して発生すること、 また発生消滅の動態についても、 その明滅のパターンやスピードは異なるだろう。 今後の新たな都市空間形成を考えるには、 この実態について把握しておくことが必要だ。 しかし、 空き地の発生消滅について実態的に把握された研究は少ない。 そこで、 本稿では人口減少、 世帯減少している大都市圏郊外住宅団地を事例にとって、 空き地の発生消滅の状態について1990年から2010年の20年間の調査を行った。 その結果、 空き地が減少しているという状況が観察されるとともに、 今後の都市空間形成における問題点も見出された。
キーワード:空き地、 発生消滅、 コンパクトシティ、 郊外住宅団地、 動態コントロール
Key Word:vacant-lot, movement, compact-city, city formation, suburban housing area
手島 健治
オフィス市場動向研究会 (三鬼商事㈱と当研究所の共同研究会)は、 今後のオフィス市況の大局的な動きを把握することを目的として、 計量的アプローチにより将来のオフィス市況の動向を推計・公表している。 本稿は、 4月に公表した東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測 (2013~2020年)・2013春をもとに作成した。 ①東京ビジネス地区は、 2012年の大量供給等で下落したが、 2013年に反転し、 2014年も上昇が継続。 空室率は低下して2014年は6.6%。 2015年以降は上昇が続くが、 上昇幅は縮小し、 空室率は6.5%前後でほぼ横ばい。 ②大阪ビジネス地区は、 2013年のグランフロント大阪等の大量供給で空室率が再上昇し、 賃料の下落幅も拡大。 2014年は前年の2次空室等の影響で空室率は高止まりし、 賃料も下落が継続して、 賃料指数は過去最低を更新。 2015年に賃料は反転し、 2016年以降も上昇が継続するが、 年率3%弱の上昇にとどまり、 厳しい状況が続く。 ③名古屋ビジネス地区は、 2013・2014年にわずかに上昇するが、 2015年は名古屋駅周辺で過去最大の新規供給があり、 空室率は大幅上昇し、 賃料も再度下落に転換。 2016年から空室率は低下するが、 賃料は下落が継続、 2017年はほぼ横ばい、 2018年以降は上昇が続くものの、 回復は緩やかで、 厳しい状況が続く。
キーワード:賃料予測、 マクロ計量経済モデル、 ヘドニック分析
髙岡 英生
当研究所は平成25年3月末現在の 「市街地価格指数」 を5月28日に発表した。 「市街地価格指数」 から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
① 「東京区部」 の地価動向は、 前期比 [平成24年9月末比] で商業地が0.2%上昇、 住宅地が0.1%上昇、 工業地が0.0%と横ばい、
全用途平均で0.1%上昇、 最高価格地が1.0%上昇となり、 平成19年9月末調査以来11期 (5年半) ぶりに全ての用途で地価が下げ止まった。
② 「東京区部」 の主要商業地 (銀座四丁目交差点周辺、 東京駅丸の内口周辺、 日本橋二丁目・中央通り沿い、 新宿駅東口交差点周辺、
渋谷駅前スクランブル交差点周辺) の地価動向は、 銀座・丸の内・日本橋では上昇傾向が見られ、 新宿・渋谷はほぼ横ばいであった。
③ 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、 「東京圏」 は前期比で0.2%下落、 「大阪圏」 は同0.3%下落、
「名古屋圏」 は同0.1%下落となった。
④ 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、 デフレ脱却への期待感等から大都市で地価上昇あるいは下げ止まりといった動きが見られたが、
実需を全体的に押し上げるほど景気が回復しているとは言えないため、 わずかに下落幅は縮小したものの、
前回調査と同程度の地価下落が継続している地方が多い。
⑤ 「六大都市」 の地価動向は、 前期比で商業地が0.2%上昇、 住宅地が0.2%上昇、 工業地が0.3%下落、 全用途平均で0.1%上昇、
最高価格地が0.6%上昇となった。
⑥ 「六大都市を除く」 都市の地価動向は、 前期比で商業地が1.4%下落、 住宅地が1.0%下落、 工業地が1.5%下落、 全用途平均で1.3%下落、
最高価格地が1.4%下落となった。
⑦ 「全国」 の地価動向は、 前期比で商業地が1.4%下落、 住宅地が1.0%下落、 工業地が1.5%下落、 全用途平均で1.2%下落、
最高価格地が1.3%下落となった。
⑧ 今後半年間の地価動向については、 今回調査において観測された大都市の稀少性が高い都心商業地や名声が高い住宅地における地価上昇の動きは、
次回調査においても継続する見通しである。
※全用途平均:商業地、 住宅地、 工業地の平均変動率
六大都市:東京区部、 横浜、 名古屋、 京都、 大阪、 神戸
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
キーワード:市街地価格指数、 「東京区部」 最高価格地、 デフレ脱却
廣田 裕二 谷 和也 愼 明宏 髙岡 英生
当研究所は、 「第28回不動産投資家調査」 の結果を5月28日に発表した。 前回調査 (2012年10月) 以降、 国内では2012年11月に衆議院が解散し12月に新政権が発足した。 「アベノミクス」 への期待から円安・株高が進行し、 国内では景気回復期待が高まっている。 不動産市場に関しては、 良好なファイナンス環境が継続していることに加え、 国内景気の先行きへの期待からマインドの改善も見られる。 そのような状況下で実施した今回の調査結果の概要は以下である。
(1) 不動産投資家の今後1年間の投資に対するスタンスは、 「新規投資を積極的に行う」 が88% (前回89%)、
「当面、 新規投資を控える」 が4% (前回8%) となり、 不動産投資家の新規投資意欲は積極的なスタンスを維持しており、
リーマンショック前の水準に近づきつつある。
(2) Aクラスビルの期待利回りは、 東京においては、 丸の内、 大手町が4.3% (前回差-20bp) となり、
2009年4月以来8期続いた水準から低下したほか、 全ての調査対象地区において10~20bp低下した。
主たる政令指定都市 においても低下した地区が増加した。
(3) 賃貸住宅の期待利回りは、 東京においては、 ワンルームマンションが城南地区で5.4% (前回差-10bp)、
城東地区で5.6% (前回差-20bp) となったほか、 ファミリー向けや外国人向け高級賃貸においても低下した。
主たる政令都市においても、 ワンルーム及びファミリー向けともに全ての調査対象地区で10~20bp低下し、 利回りの低下が継続している。
(4) 商業店舗の期待利回りは、 都心型高級専門店について、 東京の銀座、 表参道がそれぞれ4.5% (前回差-10bp)、
4.6% (前回差-20bp) と低下したほか、 主たる政令指定都市においても多くの地区で低下傾向がうかがえる。
キーワード:不動産投資家調査、 利回り、 投資意欲
吉野 薫
当研究所は、 第25回 (2011年10月) および第27回 (2012年10月) の不動産投資家調査において環境不動産 (グリーンビルディング) に対する投資についてのアンケート調査を実施した。 そこでは (i) 投資判断時に不動産の環境配慮を考慮しようとする意識が高いこと、 (ii) 「環境不動産」 は長期的にはプラスに評価されると考えられ、 その主な理由が 「テナントが選好すると見込まれる」 からであること、 (iii) 不動産投資家が、 環境不動産を適切にはかる 「ものさし」 を求めている傾向が強まっていること、 などが明らかとなった。 また、 昨今はビルの耐震性能・環境性能に関する市場参加者の関心も高まっており、 国土交通省や環境省などにおいてもさまざまな取り組みが進められているところである。 こうした流れを受け、 このたび第28回不動産投資家調査では、 投資運用物件の環境不動産化・耐震化ならびに不動産投資における耐震化・環境不動産化の選別基準に焦点を当て、 投資の実態に関する調査を実施した。 また、 三大都市圏と地方圏との間での、 耐震性能や環境性能に対する投資家の意向の相違にも関心を向けた。
キーワード:不動産投資家調査、 環境不動産、 耐震化
小松 広明
リザーブ・キャップ・レートとは、 対象物件に対する買い手の最大支払い意思額に基づいた取得期待利回りを意味し、 本研究において新たに定義した用語である。 研究の結果、 不動産投資家の意識構造において、 リザーブ・キャップ・レートと期待利回りに格差が生じる原因は、 投資家の抱く景況感の向上に起因しており、 不動産投資市場の拡張期においては期待利回りとの格差が生じやすいことが確認された。 また、 投資家のリザーブ・キャップ・レートの回答に際しては、 期待利回りの水準が意識されており、 取引利回りの平均値差において統計的有意性が示されていないことから、 リザーブ・キャップ・レートと取引利回りの水準の類似性が示唆される結果となった。
キーワード:リザーブ・キャップ・レート、 不動産投資、 共分散構造分析
外国鑑定理論実務研究会