福田 進
国土交通省 土地・建設産業局 国際課長 小林 高明
アジアをはじめとする新興国の経済成長とともに世界のインフラ需要が急速に拡大している。 インフラの海外展開は国の成長戦略の一つとして掲げられるように、 我が国の持続的な成長のためには、 それらの新興国の成長を取り込んでいくことが必要であり、 不動産分野における海外展開 (アウトバウンド) と海外からの国内投資 (インバウンド) の促進を戦略的に図っていくことが重要である。 本稿では、 不動産業の国際展開を巡る課題と、 その課題解決に向けた方向性について紹介する。
【キーワード】産学官の連携、 国際展開戦略、 法制度整備支援
【Key Word】industry-academia-government collaboration, the global business strategy, supporting for the development of legal system
宮城大学 事業構想学部 教授・キャリア開発センター長 田邉 信之
不動産投資市場では、 クロスボーダー投資が活発化しており、 その中でアジアの位置付けが高まりつつある。 日本でも不動産投資市場の成長とともに、 市場の安定性を評価するインバウンド投資が増加しており、 アウトバウンド投資も80年代後半の経験を踏まえつつ徐々に増えていく方向にある。 これまで日本では希薄であったグローバル化に対する 「真のニーズ」 が、 これからは日本市場の成長速度の鈍化、 新たな投資対象・投資資金に対する需要の高まりなどを背景に、 顕在化してくることとなろう。 日本の市場関係者は、 グローバル化のメリットを活かしていくとともに、 そのデメリットや副作用などにも十分に留意しなければならない。 また、 グローバルスタンダード確立に向けた動きには、 日本も積極的に参画していくことが必要である。
【キーワード】不動産投資、 グローバル化、 インバウンド、 アウトバウンド、 グローバルスタンダード
【Key Word】real estate investment, globalization, inbound investment, outbound investment, global standard
日本生命保険相互会社 不動産部・専門部長・不動産投資開発室長 和良地 克茂
わが国において、 東京という世界都市と地方都市との間には、 都市経営の面で大きな差異が生まれている。 東京には国内外から投資資金が流入する一方で、 地方都市ではヒト・モノ・カネの流出に歯止めが掛からず、 今後の都市経営には資金の地域還流と地域内循環が生まれる施策が必要である。 このような状況は、 米・英でも同様であり、 不動産投資のインバウンドを考えるには、 米・英の投資家がどのような施策の下で、 地域開発投資を実現しているかを知り、 わが国への応用方策を検討しておくことが有用である。 そこで本稿では、 主に米国における地域開発支援制度・組織を概観した上で、 わが国の地方都市における不動産ストックの整備更新が進み難い状況を、 オフィスビル投資の期待利回りに着目して定量的に把握し、 その解決試案として、 機関投資家と地域の投資家とのパートナーシップによる 『定期借地型開発投資』 を提案する。
【キーワード】コミュニティ開発、 CDFI、 Intermediary、 Tax credit、 期待利回り、パートナーシップ
【Key Word】Community development, CDFI, Intermediary, Tax credit, Expected yield, Partnership
ドイツ証券株式会社 不動産投資銀行部 部長兼ARAアジア太平洋リサーチ・ヘッド 小夫 孝一郎
ドイツ証券株式会社 不動産投資銀行部 アソシエイト 胡 敏軒
アベノミクス効果で国内不動産市場は久しぶりに活況を呈しており、 アジア諸国をはじめ海外投資家からの注目が高まっている。 このようななか、 統計データを使って日本における不動産クロスボーダー取引の現状を分析すると国内市場の特徴や問題点が浮かび上がってくる。
海外から日本へのインバウンド取引額は世界6位と、 注目度が高い割には順位がやや伸び悩んでおり、 この要因として市場の 「機関化」 の遅れなどが指摘される。 一方、 日本からのアウトバウンド投資の現状はより深刻で、 ここ数年の順位は主要国ではほぼ最下位となっている。 欧米やアジア諸国と比べても国内年金基金のポートフォリオ分散が進んでいないことや、 不動産の運用プロが育っていない現状などが改めて浮き彫りとなっており、今後の意識改革が求められる。
【キーワード】不動産投資、 クロスボーダー取引、 年金基金、 ソブリンウェルスファンド
【Key Word】Real Estate Investment, Cross-Border Capital, Pension Fund, Sovereign Wealth Fund
松岡 利哉
10月8日に 「田畑価格及び賃借料調 (平成25年3月末現在)」 を公表した。 田畑価格は大正2年 (1913年) から調査を開始し、 今回調査で100周年となる。 調査開始100周年に当たる2013年における日本の農業を取り巻く情勢は、 重要な岐路にさしかかっている。 農家の高齢化の進行はいよいよ限界に近づくなか、 平成24年12月の政権交代以降、 TPP (環太平洋戦略的経済連携協定) 交渉への参加表明を踏まえ、 政府により農地の大規模集約化、 農林水産業の6次産業化等の成長戦略が掲げられ、 10月以降は農地中間管理機構の制度設計、 減反政策の見直し、 経営所得安定対策 (旧戸別所得補償制度) の規模縮小等矢継ぎ早に施策を講じている。 これらはTPP参加という外部ショックを契機に、 滞っていた農政改革と競争力強化を一気呵成に成し遂げようとするものあるが、 高齢化の進行も待ったなしの状況であることから、 遅かれ早かれ、 日本の農業の大変革期が訪れるものと予測される。
本稿では、 農業の競争力強化への政策転換に視点をあわせて、 先に公表した 「田畑価格及び賃借料調」 の内容に加えて、 その後分析した内容を紹介する。
キーワード:田畑価格、 賃借料、 競争力強化への政策転換
髙岡 英生
当研究所は平成25年9月末現在の 「市街地価格指数」 を11月27日に発表した。 「市街地価格指数」 から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
① |
三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、 「東京圏」 は前期比 (平成25年3月末比) で0.2%上昇 (前回 [平成25年3月末時点調査、 以下同じ] 0.2%下落)、 「大阪圏」 は同0.1%下落 (前回0.3%下落)、 「名古屋圏」 は同0.1%上昇 (前回0.1%下落) となった。 最高価格地は 「東京圏」 が前期比0.9%上昇 (前回0.0%)、 「大阪圏」 が同0.1%上昇 (前回0.2%下落)、 「名古屋圏」 が同0.6%上昇 (前回0.1%上昇) となり、 平成20年3月末調査以来11期 (5年半) ぶりに3つの都市圏とも地価上昇となった。 |
② |
「東京圏」 の詳細区分のうち、 「東京区部」 の地価動向は、 商業地が前期比で1.1%上昇 (前回0.2%上昇)、 住宅地が同0.5%上昇 (前回0.1%上昇)、 工業地が同0.0% (前回0.0%) と横ばい、 全用途平均で同0.7%上昇 (前回0.1%上昇)、 最高価格地が同3.3%上昇 (前回1.0%上昇) となった。 |
③ |
「東京区部」 の主要商業地 (銀座四丁目交差点周辺地区、 東京駅丸の内口周辺地区、 日本橋二丁目・中央通り沿い地区、 新宿駅東口交差点周辺地区、 渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区) の地価動向は、 銀座・丸の内・新宿では強めの上昇傾向が、 日本橋ではやや強めの上昇傾向が、 渋谷では緩やかな上昇傾向が見られた。 |
④ |
地方別の地価動向を全用途平均で見ると、 全ての地方で下落幅が縮小したものの、 投資資金の流入が期待できない地方都市では前回並みの地価下落となった地点が多く、 地価下落が継続している。 |
⑤ |
「六大都市」 の地価動向は、 商業地が前期比で1.2%上昇 (前回0.2%上昇)、 住宅地が同0.4%上昇 (前回0.2%上昇)、 工業地が同0.1%下落 (前回0.3%下落)、 全用途平均で同0.6%上昇 (前回0.1%上昇)、 最高価格地が同2.2%上昇 (前回0.6%上昇) となった。 |
⑥ |
「六大都市を除く」 都市の地価動向は、 商業地が前期比で1.1%下落 (前回1.4%下落)、 住宅地が同0.7%下落 (前回1.0%下落)、 工業地が同1.2%下落 (前回1.5%下落)、 全用途平均で同1.0%下落 (前回1.3%下落)、 最高価格地が同1.0%下落 (前回1.4%下落) となった。 |
⑦ |
「全国」 の地価動向は、 商業地が前期比で1.0%下落 (前回1.4%下落)、 住宅地が同0.7%下落 (前回1.0%下落)、 工業地が同1.2%下落 (前回1.5%下落)、 全用途平均で同0.9%下落 (前回1.2%下落)、 最高価格地が同0.9%下落 (前回1.3%下落) となった。 |
⑧ |
今後半年間の地価動向については、 当期ほどのサプライズ的な効果が見込める政策は現在のところ見られず、 地価上昇の勢いはやや落ち着く見通しである。 |
※全用途平均:商業地、 住宅地、 工業地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、 横浜、 名古屋、 京都、 大阪、 神戸
キーワード:市街地価格指数、 三大都市圏、 最高価格地、 地価上昇
手島 健治
当研究所は2013年9月末時点の 「全国賃料統計」 を11月27日に公表した。 オフィス賃料は、 全国で0.2%下落 (前年は1.0%下落) に縮小し、 三大都市圏や政令指定都市で横ばいの地点が増加した。 東京圏や東京都区部はわずかではあるが6年ぶりに上昇へ転換した。 また北陸新幹線延伸への期待感から北陸地方の下落幅が大きく縮小した。 共同住宅賃料は全国的に弱含みの動きが継続したが、 前年に引き続き宮城・福島県では復興需要や原発事故の復旧関連需要の顕在化により、 上昇・横ばいとなった。 1年後の2014年9月末時点について、 オフィス賃料は、 東京都区部で上昇が増加、 三大都市圏等で横ばいが増加することから、 全国平均で0.1%上昇し、 底を打つ見通しである。 共同住宅賃料は弱含みの動きが継続して全国平均で0.2%下落する見通しである。
キーワード:全国賃料統計、 賃料指数、 オフィス、 共同住宅、 市場動向
手島 健治
「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2013~2020年)・2013秋」 を10月8日に公表した。 ①東京ビジネス地区の賃料は、 2012年の大量供給等で下落したが、 2013年に反転し、 2014年も上昇が継続。 空室率は2014年に6.3%まで低下。 2015年は賃料の上昇が続くが、 2016年は新規供給が50万坪と急増するため、 空室率は6.0%まで上昇し、 上昇幅も大きく縮小。 2017年以降は空室率が6.0%前後で、 賃料は微増で推移。 ②大阪ビジネス地区は、 2013年のグランフロント大阪等の大量供給で空室率が再上昇し、 賃料の下落幅も拡大。 2014年は前年の2次空室等で空室率は高止まりし、 賃料はほぼ横ばい。 2015年に賃料は反転し、 2016年も4%程度の上昇が継続。 2017年以降も賃料は年率3%強の上昇が継続し、 空室率は緩やかに低下して2020年に6.8%。 ③名古屋ビジネス地区は、 2013・2014年は新規供給が少なく賃料もわずかに上昇するが、 2015年は名古屋駅周辺で過去最大の新規供給があり、 空室率は大幅に上昇し、 賃料も再度下落に転換。 2016年から空室率は低下するが、 賃料は2017年まで3年間下落が続く。 2018年以降は賃料が上昇に反転するが、 回復は緩やかで、 厳しい状況が続く。
キーワード:賃料予測、 マクロ計量経済モデル、 ヘドニック分析
手島 健治
日本不動産研究所は、 2013年1月に全国オフィスビル調査を実施し、 2013年9月18日に結果を公表した。 主なポイントは以下の通りである。
① |
2013年1月現在の全都市のオフィスビルストックは9,629万㎡ (5,919棟) となり、 このうち2012年の新築が235万㎡ (66棟) と3年ぶりに200万㎡を超え、 総ストックの約2.4%を占めている。 また、 2012年の取壊しは64万㎡ (43棟) と総ストックの約0.7%にあたる。 |
② |
新耐震基準以前に竣工したオフィスビルストックは、 全都市で2,801万㎡ (2,008棟) と総ストックの29%を占めている。 都市別では福岡 (43%)、 札幌 (41%) が4割を超え、 京都 (38%)、 大阪 (37%) と続いている。 逆に、 さいたま (9%)、 横浜 (18%)、 千葉 (20%) は、 新耐震ビルが多い。 |
③ |
今後3年間 (2013-2015年) の新築計画によると、 全体の約7割を東京区部が占めることは変わらないが、 大阪で2013年、 名古屋で2015年に大きい供給が予定されている。 |
キーワード:全国オフィスビル調査、 オフィスビルストック、 新耐震基準、 オフィスビル取壊
吉野 薫
このたび日本不動産研究所が実施した第29回不動産投資家調査 (調査時点:2013年10月1日) において、 「環境不動産」 (グリーンビルディング) に関する特別アンケートを併せて実施した。 第25回および第27回の不動産投資家調査においても同様の特別アンケートを実施しており、 その第3回目となる今回の結果からは、 環境不動産を考慮する不動産投資家が増加したこと、 不動産の環境性能評価指標に対する要望が強まったこと等が明らかとなった。 また、 環境不動産は理論的・長期的には市場においてプラスに評価されると考えられているとはいえ、 依然として現時点では市場における価値への影響が明確でないとする意見が多く見られた。
キーワード:環境不動産 (グリーンビルディング)、 環境性能評価指標、 リスク・スプレッド
小松 広明
リザーブ・キャップ・レートとは、 4月時点調査において新たに定義した用語であり、 対象物件に対する買い手の最大支払い意思額に基づいた取得期待利回りを意味する。 丸の内・大手町地区Aクラスビルについては、 賃料の上昇期待のもと、 今後の取引価格の上昇が予想されており、 買い時とする投資家が5割を占めた。 その結果、 当該リザーブ・キャップ・レートの分布形状は低位な水準に歪められており、 推定取得確率70%では対前回スプレッドが-30bpと大きく変化していることが明らかとなった。 一方、 城南地区賃貸住宅ワンルームについては、 所得の購買力低下が懸念されており、 賃料の上昇期待は限定的であることから、 売り時とする回答割合が約4割を占めている。 当該リザーブ・キャップ・レートの推定取得確率50%と70%では-30bpの相違がみられており、 いわゆる分布の裾における変動の大きさが示されている。 リザーブ・キャップ・レートは、 「不動産投資家調査」 の情報を補完する新たな指標として、 その活用が期待される。
キーワード:リザーブ・キャップ・レート、 不動産投資、 共分散構造分析
小松 広明・谷 和也
本研究では、 歩行者通行量と店舗賃料の関係を明らかにするため、 札幌市の都心の商店街における歩行者集客ポテンシャル変数を新たに導入し、 その統計的有意性について検討した。 その結果、 当該変数の統計的有意性が示され、 歩行者通行量が店舗賃料の価格形成要因として正の影響を与えていることが確認された。 当該結果には、 2011年3月に開通した地下歩行空間の整備効果が反映されているものと考えられる。 地下歩行空間の整備によって、 歩行者通行量は増加し、 店舗の売上高も増加しているとの調査結果も見られる。 歩行者通行量は、 店舗賃料の価格形成要因としての商業繁華性を定量的に捉えた指標といえる。 不動産鑑定評価実務においては、 歩行者通行量を地域資料の一つとして収集及び整理しておくべきであろう。
キーワード:店舗賃料、 ヘドニック賃料関数、 歩行者通行量、 歩行者集客ポテンシャル変数
外国鑑定理論実務研究会
廣田 裕二