不動産研究 56-2

第56巻第2号(平成26年4月)
特集:東日本大震災と不動産(3)-震災後3年間を踏まえた不動産評価の視点-

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第56巻第2号

特集:東日本大震災と不動産(3)-震災後3年間を踏まえた不動産評価の視点-

東日本大震災からの復興に対するUR都市機構の取組み -震災後3年間の成果と今後の課題-

独立行政法人都市再生機構 震災復興推進役 小山 潤二

 独立行政法人都市再生機構(UR)は、東日本大震災からの復旧・復興に対し、被災自治体の支援を通じて、組織を挙げて取組んでいる。復興市街地整備は、被災自治体の中心市街地をメインに、復興へのプロセスを意識しながらCM方式という新たな手法を活用してスピーディに高台の安全な住宅地や平地部の嵩上げを整備中。災害公営住宅は、福祉施設の併設などにも取組んでいる。震災後3年を経過し、URの取組み地区は道筋が見えつつあるが、復興全体としては、用地確保、工事費の高騰、マンパワー不足が課題。加えて、震災からの時間の経過に伴う被災者の生活再建意向の変化に対して計画を対応させていくことが新たな課題。ハードとしてのまちの整備後を見据え、ビルドアップの促進、生業の再生、福祉施策等ソフト施策との連携などに分野横断的に取組む予定。

【キーワード】東日本大震災、復興、まちづくり、プロセス、CM方式
【Key Word】Great East Japan Earthquake,reconstruction,city planning,process,construction management

 

東日本大震災における被災地の住宅着工状況と災害復興住宅融資利用者の属性

住宅金融支援機構 調査部 主席研究員 横谷 好

 東日本大震災が発生してから3年が経過した。被災地における住宅の復旧・復興状況の現状について、阪神・淡路大震災後の住宅着工との比較による進捗度合いを比較するとともに、阪神・淡路大震災の災害復興住宅融資利用者との属性の比較を通じて、東日本大震災被災者の特徴を明確にする。また、復興需要の高まりにより生じてきた最近の問題点等について論じる。

【キーワード】住宅着工、災害復興住宅融資、属性、建設資材価格

 

東海地域における活断層帯が存することに伴う工業地地価の減価率に関する研究
-コンジョイント分析を用いた需要者意識に基づく工業地地価の減価率の計測-

明海大学 不動産学部 准教授 小松 広明
一般財団法人日本不動産研究所 東海支社 副支社長 恒川 雅至
一般財団法人日本不動産研究所 東海支社 専門役 安田 洋司

 東日本大震災以降、活断層に対する社会的な関心が高まっており、実際に活断層上の土地利用を条例によって規制する自治体がみられるようになった。本研究では、活断層の近傍における経済活動が比較的活発であり、製造業の集積する東海地域を対象とし、当該工業地の需要者サイドからみた活断層帯の存することに伴う土地価格の減価率を推定することを目的とした。
 研究の結果、活断層帯の存することによって建物耐震補強工事費の増加が見込まれることから、当該土地価格の減価率は-10%程度になるものと推計された。また、活断層帯を起点に距離帯別減価率を推計すると、-50%(200m以内)から-20%(800m以内)の変化となった。

【キーワード】活断層帯、工業地、地価、コンジョイント分析
【Key Word】active fault,industrial land use,land price,conjoint analysis

 

東日本大震災後の地価動向と土地評価について
-震災後3年を振り返って震災の地価への影響と土地評価方法-

一般財団法人 日本不動産研究所 システム評価部 第四資産評価支援室長 浅尾 輝樹
一般財団法人 日本不動産研究所 システム評価部 専門役 髙橋 英嗣

 被災地の土地評価に携わってきた経験から、震災後の地価変動状況と、これまで考案されてきた土地評価の方法について取りまとめる。

【キーワード】震災後の地価動向、震災による土地価格への影響、震災被災地の土地評価方法

 

参考:東日本大震災の被災地域における宅地・住宅関連の主な復旧・復興関連事業の概要、計画、進捗状況について

一般財団法人 日本不動産研究所 研究部 副部長 廣田 裕二

 本稿は、主に復興庁、国土交通省の公開情報を引用し、東日本大震災の被災地域における復旧・復興施策のうち、宅地関連施策と災害公営住宅整備事業等について概要、計画、進捗状況についてとりまとめたものである。

 

調査

山林素地及び山元立木価格の動向と日本の林業の方向性
-平成25年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

 平成25(2013)年3月末現在における山元立木価格は、前年の2年連続の上昇後の反落に引き続き杉が△5.2%、桧が△5.3%とそれぞれ低下したが、大きな下落率を記録した前年より下落幅は縮小している。その背景には、地域ごと月ごとの素材(丸太)需要は安定的ではなく、素材価格は脆弱な需給構造を反映した推移となっており、3月末現在の山元立木価格も弱含みな状況であった。4月以降は、円安基調が世界的に需給が逼迫していた外材輸入価格をさらに上昇させ、景況感の改善、金利や資材価格の先高感が新築住宅需要を喚起し、木材製品市況も上向いたことから、年末にかけて素材価格は急騰している。
 本稿では、当研究所が昨年10月8日発表した「山林素地及び山元立木価格調」の分析に加えて、日本の林業の方向性を考察するとともに、平成21(2009)年のJREIセミナーにおいて報告した「CO2吸収量(ストック量)に着目した森林の評価」に関連し、低炭素社会推進の源となっている国連地球環境枠組条約締結国会議の最近の動きを中心に紹介する。

キーワード:山林素地価格、山元立木価格、林業の方向性、低炭素社会の行方

 

論考

2020年東京オリンピックまでの地価変動予測
-アベノミクスによるマクロ経済的要因の影響分析を踏まえて-

金 東煥・山越 啓一郎・小松 広明(明海大学 不動産学部 准教授)

 現在の日本の経済状況は、アベノミクスによる景気回復の兆しを示している。加えて、2020年東京オリンピックは、日本の経済を更に活発化する可能性が高い。また、日本の不動産市場は、2001年の不動産投資信託(J-REIT)の開設により活性化されつつあると言われている。
 本稿の目的は、 ①このような不動産市場の状況によって日本の地価が、経済的な理論モデルが示唆する要因によって決定されているかを分析し、②その推定モデルを用いて、今後の地価を予測することである。
 従って、本稿では、日本の不動産市場の状況(不動産取引の活性化等の)に着目し、東京都の地価が、収益還元モデルの要因(賃料、利子率)を含んで決定されるかを実証する。また、その推定モデルを用いて2020年東京オリンピックまでの東京都23区の地価を予測する。加えて、同モデルに基づいて、マクロ経済的要因が東京都23区地価へ及ぼす影響を分析する分析手法は、地価のファンダメンタルズを考慮するVEC(Vector Error Correction)モデルを用いる。
 分析の結果は次のとおりである。第一に、東京都23区の地価は、賃料指数と国債金利(10年)との長期均衡関係のもとで収益還元モデルの要因が示唆するとおりに決定され、収益性を重視する構造となっている。第二に、2020年東京オリンピックまでの東京都の地価変動予測は、2018年に5.3%(対2013年比)上昇しピークを迎え、その後下落し、東京オリンピック開催時の2020年には、対2013年比で3.9%上昇となっている。第三に、アベノミクスの政策効果を織り込むと、東京都23区の地価は2018年に6%(対2013年比)、2020年に4.6%(対2013年比)上昇となっている。当該地価の上昇率のうち、0.7ポイントに対応する部分がアベノミクスの政策効果に他ならない。

キーワード:地価、VECモデル、収益還元モデル、2020年東京オリンピック、地価予測
Key Word:Land Prcie,VEC Model,Capitalization Model,Tokyo Olimpic Games 2020,Land Price Forecast

 

火災危険性を考慮した東京都23区内住宅地の地価関数分析

山越 啓一郎・金 東煥・小松 広明(明海大学 不動産学部 准教授)

 災害時における火災危険性の影響を測る指標として「火災危険量」を地価関数の説明変数に与えたヘドニック地価関数モデルの構築を行い、その関数によって建物の難燃化がどれだけ価格変動に効果を与えるかを測定した。その結果、「火災危険量」の指標は価格決定要因として十分に利用可能であることが判明したほか、建物の難燃化を進めると、下町地域で2%程度~最大3.5%程度の価格上昇が見込まれることが判明した。

キーワード:地価関数、ヘドニック分析、火災危険量、地盤特性、東京都23区
Key Word:Land value functions、Hedonic measures、Fire risk value、Ground characteristics、Tokyo Metropolitan area

 

判例研究(98)

受益権の準共有持分を買い戻した場合の不動産取得税課税の可否
-大阪地裁平成22年12月2日判決・判例地方自治351号59頁-

髙岡 英生

  2000年の投信法改正によってJ-REIT制度が導入されて以降、我が国において不動産証券化市場は着実な拡大・発展を遂げている。不動産証券化スキームにおいては、信託法に規定する「受益権」(以下、「信託受益権」という)が利用されるケースが多く、平成24年度に取得された証券化対象不動産の資産額のうち、約8割が信託受益権であった(国土交通省「平成24年度 不動産証券化の実態調査」より)。このように信託受益権が多く利用される理由の一つに、流通過程で不動産取得税が課税されないという特徴があるが、本件は、信託契約締結後に、信託受益権の準共有持分を売り渡し、当該準共有持分を買い戻した後に信託契約を解除した場合の不動産取得税課税の可否について判断した事案であり、信託受益権取引に関する実務上の留意事項として紹介する。

キーワード:信託受益権、自益信託、形式的な所有権移転、準共有持分

 

The Appraisal Journal Fall 2013

外国鑑定理論実務研究会

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