不動産研究 57-1

第57巻第1号(平成27年1月)
特集:不動産鑑定評価基準の一部改正について

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第57巻第1号
新しい年(乙未年)を迎えて

特集:不動産鑑定評価基準の一部改正について

不動産鑑定評価基準の改正概要について

国土交通省 土地・建設産業局 地価調査課 鑑定評価指導室長 髙橋 友昭

 国土交通省においては約2年余にわたる調査・審議を経て平成26年5月に不動産鑑定評価基準の改正を実施し、同年11月から施行した。今般の改正は、不動産市場の国際化、ストック型社会の進展、不動産証券化市場の拡大等に伴い多様化・高度化する鑑定評価ニーズに的確に対応していくことを指向するものであり、早期に実務での定着を図ることにより、不動産鑑定評価が有する制度インフラとしての機能の充実、信頼性の一層の向上が期待される。

【キーワード】不動産鑑定評価基準,IVS,不動産証券化,ストック型社会

 

不動産鑑定評価基準等改正の背景と今後の課題
-国際評価基準をふまえた改正とストック型社会へ向けた今後の課題-

公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会委員長 奥田 かつ枝

 平成26年の不動産鑑定評価基準等改正の背景につき、本稿では特に国際的な評価基準として認知されている国際評価基準と当該論点にかかる公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会における検討の経緯を概説する。続いて鑑定評価基準等の改正点のうち特に今後の継続課題につながる原価法の改正概要を紹介し、ストック型社会への対応として政策的に重視されている既存建物の流通活性化と、鑑定評価として取り組むべき原価法の精緻化、手法の合理化に向けた課題を指摘する。最後に、事務所ビルや共同住宅における建物及びその敷地への取引事例比較法の適用の可能性についてとりあげる。

【キーワード】国際評価基準、スコープ・オブ・ワーク、調査範囲等条件、原価法、既存建物の流通活性化

 

不動産鑑定評価基準及び価格等調査ガイドラインに係る実務指針の概要
―不動産市場インフラたる不動産鑑定評価の適正な実施を担保する諸対応について―

公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 主任研究員 和田 伸也

 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会が策定する実務指針は、国土交通省が定める「不動産鑑定評価基準等」及び「価格等調査ガイドライン等」について「実務に即した解説」を行うとともに、内容によっては不動産鑑定士に遵守義務を課す「実務規範」としての性格を有する。「基準実務指針」は基準等の改正に合わせて今般新規に策定、「ガイドライン実務指針」はガイドライン等の改正に合わせて充実化を図ったものであり、これらの実務指針を遵守した適切な鑑定評価の実施が、国民の鑑定評価に対する信頼と期待に応えることにつながるものである。

【キーワード】連合会、基準実務指針、ガイドライン実務指針、国民の鑑定評価に対する信頼と期待

 

継続賃料の鑑定評価に係る不動産鑑定評価基準の改正について
-継続賃料評価の説明責任の向上及び評価過程の可視化が図られた改正-

一般財団法人日本不動産研究所 本社事業部 次長 島田 博文

 バブル経済が崩壊して、賃料減額請求に係る訴訟が頻発し、平成15年以降最高裁判決が多数出され、相当賃料に係る判例理論が定着した。こうした状況を踏まえて、継続賃料に係る不動産鑑定評価基準の規定が改正された。
 継続賃料の鑑定評価に係る今回の不動産鑑定評価基準の主な改正内容は、継続賃料評価の一般的留意事項(基準総論第7章第2節I賃料を求める場合の一般的留意事項)を新設することにより、継続賃料評価に係る概念的な整理が行われた。また、当該留意事項の視点から鑑定評価の手順全般にわたって必要な改正が行われた。

キーワード:継続賃料、賃料増減請求権、契約自由の原則、事情変更、公平の原則

 

調査

田畑価格及び賃借料の動向 -平成26年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

 10月16日に「田畑価格及び賃借料調(平成26年3月末現在)」を公表した。本稿では、公表した調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

キーワード:田畑価格、賃借料

 

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(平成26年9月末現在)をふまえて-

髙岡 英生

 当研究所は平成26年9月末現在の「市街地価格指数」を11月25日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
①「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(平成26年3月末比、以下同じ)0.5%の下落となり、地価下落傾向は継続したものの、下落幅は縮小した(前回0.7%下落)。
②地方別の地価動向を全用途平均で見ると、「中部・東海地方」を除く全ての地方で下落幅が縮小した。
③三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、「東京圏」は前期比0.4%上昇(前回0.4%上昇)、「大阪圏」は同0.2%上昇(前回0.2%上昇)、「名古屋圏」は同0.0%(前回0.2%上昇)となった。
④「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比1.6%上昇(前回1.7%上昇)、住宅地が同1.0%上昇(前回1.2%上昇)、工業地が同1.1%上昇(前回0.7%上昇)、全用途平均で同1.3%上昇(前回1.4%上昇)、最高価格地が平均で前期比3.8%上昇(前回3.9%上昇)となった。
⑤「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、渋谷を除き総じて前期比5%前後の地価上昇となった。渋谷は、駅前の開発工事が始まったことにより利便性がやや低下し客足の流出が見られたことから、他地区と比較してやや上昇率が低かった。
⑥今後については、概ね今回と同程度の地価動向が継続するとの見通しだが、景気動向に対する不透明感が払拭できていないこと等から、三大都市圏の最高価格地では上昇幅が縮小する見通しとなった。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

キーワード:市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

 

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2014年9月末現在)をふまえて-

手島 健治

 当研究所は2014年9月末時点の「全国賃料統計」を11月25日に公表した。オフィス賃料は、アベノミクス等によるマクロ経済の回復から、全国平均で2007年調査以来7年ぶりに2.0%上昇した。三大都市圏や政令指定都市などで下落から上昇に転換し、東京都区部では上昇幅が拡大した。共同住宅賃料は全国的にほぼ横ばいが継続した。東京都区部や六大都市などでわずかながら上昇に転換したが、前年上昇だった東北地方は0.1%下落(前年は1.2%上昇)となり、震災から3年が経ち復興需要等が落ち着いてきた。1年後の2015年9月末時点について、オフィス賃料は、東京都区部や大阪市などで上昇が継続するが、名古屋市で大量供給により再度下落することが予想され、全国平均で1.5%上昇し、上昇が継続する見通しである。共同住宅賃料は、今期と同様にほぼ横ばいで推移して全国平均で0.1%下落する見通しである。

キーワード:全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

 

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2014~2020年、2025年)・2014秋について

手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2014~2020年、2025年)・2014秋」を10月21日に公表した。①東京ビジネス地区の賃料は、2013年から上昇に転換し、2014年と2015年は6~9%の上昇が継続。空室率は2014年に5.3%、2015年は4.6%まで低下。2016年は新規供給が44万坪と急増するが、低い空室率の中、賃料への影響は小さく、賃料の上昇幅は5%程度を維持。2017年以降の賃料は上昇が継続するも上昇幅は縮小し、2025年は空室率が4.1%で、賃料は微増。②大阪ビジネス地区は、2013年のグランフロント大阪等の大量供給で空室率が再上昇したが、2014年は新規供給が少なく、空室率は8.1%まで大きく低下、賃料もわずかに上昇。2015年以降は空室率が低下し、賃料も3~4%の上昇が続く。2020年に空室率は6.5%、さらに2025年には5.6%まで低下し、賃料は微増傾向が続く。③名古屋ビジネス地区は、2013年と2014年の新規供給が少なく賃料はわずかに上昇。2015年は、名古屋駅周辺で過去最大の8.5万坪の大量供給となり、空室率は大幅に上昇し、賃料も再度下落に転換。2016年と2017年は名古屋駅周辺でそれぞれ6万坪と4万坪の大量供給が続き、空室率は2017年に11.8%まで上昇し、賃料も年率約4%下落。2018年から空室率が低下し、賃料は2019年からやっと上昇。2025年は賃料がやや回復して、空室率は9.2%となるが厳しい状況が続く。

キーワード:賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2014年1月現在)」の結果をふまえて-

手島 健治

 日本不動産研究所は、2014年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2014年10月9日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。
①今回調査から東京区部、大阪、名古屋については調査対象建物を延床面積5,000㎡以上から3,000㎡以上に統一した。
②2014年現在のオフィスビルストックは、全都市で10,672万㎡(8,298棟)となり、このうち2013年の新築が171万㎡(63棟)と再度200万㎡を割った。一方、2013年の取壊しは83万㎡(71棟)であった。
③新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市で3,020万㎡(2,670棟)と総ストックの28%を占める。都市別では福岡(42%)、札幌(41%)が4割を超え、京都(38%)、大阪(34%)と続いて多い。
④規模別にストック量をみると、3~5千㎡未満のビルは面積割合では全体の10%程度しかないが、棟数割合でみると30~40%と多くなる。

キーワード:全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

 

最近の不動産投資市場の動向
-第31回不動産投資家調査結果(2014年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第31回不動産投資家調査」の結果を11月25日に発表した。
 前回調査(2014年4月)は、アベノミクスや日銀の量的緩和など良好な資金調達環境を背景に、不動産投資市場が再起動した状況下で実施され、不動産投資家の期待する利回りにはその低下傾向が鮮明にあらわれた。今回調査(2014年10月)は、外資勢や新規参入プレーヤー等による大型取引が顕在化し、不動産投資市場の活況度合いに関心が高まる中、各不動産投資家が考える今後の投資姿勢や期待する利回りの動向について注目が集まった。
 このような状況下で実施された今回の調査結果(2014年10月)の概要は以下のとおりである。

(1)不動産投資家の今後1年間の投資に対するスタンスは、「新規投資を積極的に行う」が94%(前回92%)、「当面、新規投資を控える」が4%(前回6%)となり、不動産投資家の新規投資意欲は積極的なスタンスを維持している。
(2)Aクラスビル(オフィス)の期待利回りは、東京においては、「丸の内・大手町地区」が4.0%(前回差0.0ポイント)で前回比横ばいであったが、その他の「日本橋」「虎ノ門」などの調査対象地区においては全て0.1~0.2ポイント低下した。また、利回りの低下は、地方都市にも波及しており、主な政令指定都市においても、全ての調査対象地区で利回りが低下した。
(3)賃貸住宅の期待利回りは、東京においては、ワンルームマンションが城南地区で5.0%(前回差-0.1ポイント)、城東地区で5.2%(前回差-0.2ポイント)となったほか、ファミリー向けや外国人向け高級賃貸においても低下した。主な政令指定都市においても、ワンルーム及びファミリー向けともに全ての調査対象地区で0.1~0.2ポイント低下し、利回りの低下が継続している。
(4)商業店舗の期待利回りは、都心型高級専門店について、東京の銀座、表参道がそれぞれ4.1%(前回差-0.1ポイント)、4.3%(前回差-0.1ポイント)と低下したほか、主な政令指定都市においても多くの地区で低下傾向が鮮明となった。

キーワード:不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

 

不動産市場の国際化に関する投資家の意識について
-第31回不動産投資家調査結果(2014年10月1日現在)特別アンケート-

愼 明宏

 昨今の不動産市場の回復を受けて、不動産市場の国際化(インバウンド・アウトバウンド)の動きが注目されている。
 外国人投資家による日本不動産投資(インバウンド)に関しては、従来、外国資本というと主に欧米の機関投資家を指すことが多かったが、最近では、台湾や香港、シンガポールの富裕層など、外国人投資家の国や地域・属性の裾野が広がっている。一方、日本企業等による海外不動産投資(アウトバウンド)に関しては、欧米などの先進国だけでなくアジア新興国の成長を取り込む動きが注目されるようになった。
 このように、社会経済のグローバル化の進展とクロスボーダー取引の増加により不動産市場国際化の動きは、多くの市場関係者にとって高い関心事となっている。
 そこで、当研究所は、「第31回不動産投資家調査(2014年10月)」の特別アンケートとして、不動産市場の国際化をテーマに不動産投資家の意識・見通しについてのアンケート調査を行った。本稿ではこの特別アンケートの調査結果について紹介することとしたい。

〔第31回不動産投資家調査(2014年10月現在)/特別アンケート「不動産市場の国際化」について〕の調査結果概要

(1)インバウンド投資について
・2012年12月(第二次安倍内閣発足)以降のインバウンド投資のビジネス機会について、「非常に増えた」・「増えた」の回答が全体の約7割の水準を占めた。
・過去インバウンド投資を行った外国人投資家の国・地域については、「シンガポール」が最も多く、次いで、「米国」、「欧州(英国除く)」、「香港」、「台湾」の順となった。
・インバウンド投資に当たって人気の高い地域は、「圧倒的に東京都の人気が高い」の回答が全体の6割を超え、東京都の人気の高さが改めて浮き彫りとなった。一方、東京以外の都市では、「大阪」の人気が高く、次いで「福岡」、「京都」の順となった。
・今後、日本への不動産投資が拡大すると思われる外国人投資家の国・地域については、「中国(香港除く)」が最も多く、次いで、「シンガポール」、「米国」、「台湾」、「香港」の順で、グローバル市場で存在感を高める中国投資家への高い関心があらわれる結果となった。

(2)アウトバウンド投資について
・2012年12月(第二次安倍内閣発足)以降のアウトバウンド投資のビジネス機会について、「非常に増えた」・「増えた」の回答が全体の約6割の水準となった。
・今後、アウトバウンドビジネスしたい国・地域については、「米国」が最も多く、次いで、「英国」、「シンガポール」、「ベトナム」、「オーストラリア」の順となり、主に先進国への選好性の高さがうかがえる結果となった。
・一方で、今後、日本企業による不動産投資の拡大が予想される国・地域については、「米国」が最も多いが、次いで、「ベトナム」、「マレーシア」、「インドネシア」、「タイ」の順となっており、成長著しい東南アジア新興国への期待の高さが改めて浮き彫りとなった。

(3)現状の課題等について
・海外不動産投資拡大に向けて必要なこととしては、「国や公的機関による諸外国への不動産制度・インフラ整備支援(日本の不動産制度輸出等)」を挙げる回答が最も多かった。

キーワード:不動産投資家、不動産市場の国際化、インバウンド、アウトバウンド

 

The Appraisal Journal  Spring 2014

外国鑑定理論実務研究会

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