みずほ総合研究所株式会社 調査本部経済調査部 主任エコノミスト 大和 香織
本稿では、2020年の東京オリンピック開催に伴う経済効果の定量的な試算を、マクロアプローチと個別事象の効果積み上げの両面から行った。過去のオリンピック開催国のケースを参考にマクロアプローチにより試算すると、2020年度までのGDP押し上げ効果は累計で約36兆円に上る可能性がある。他方、都市インフラ整備等の投資増加、観光需要の増大など、想定される主な個別事象の効果を試算し積み上げると、GDPは約29兆円押し上げられるとの結果が得られた。オリンピック開催に伴って期待される効果は多岐にわたるが、それらの効果を現実に引き出し極大化させるためには、成長戦略の着実な推進や企業行動の積極化が求められる。
【キーワード】オリンピック、経済効果、投資活性化、観光、成長戦略
国土交通省土地・建設産業局付(シンガポール国家開発省出向中)新田 翔
シンガポールの新しい国立競技場を中心としたスポーツ施設である「スポーツハブ」の新設プロジェクトは、同国のPPPプロジェクトの代表例である。このような大規模なスポーツ施設の建設・運営をPPPを活用して行った事例は、世界的にも極めて珍しい。本稿では、スポーツハブにおけるPPPの活用事例を中心に、シンガポールのPPPについて、その制度や過去の適用事例等について説明する。具体的には、まず、シンガポールのPPP制度について、概説した上で、次に、過去の適用事例等について説明する。更に、スポーツハブの事例を取り上げ、より詳細にプロジェクトの概要やPPPの活用手法について述べるとともに、本プロジェクトの遅延の経緯とその背景についても触れる。
【キーワード】スポーツ施設、PPP、官民連携、シンガポール
一般財団法人日本不動産研究所 研究部 研究員 金 東煥
日本は2020年東京オリンピック開催に向けてインフラ整備を進めている。競技場等のインフラ整備は日本経済にプラスの影響を与える可能性が高いものの、大会終了後の当該インフラの活用方策の不在によって莫大な財政負担として残る可能性もある。本稿では、2020年東京オリンピック開催直前に隣国の韓国で開催される2014年仁川(インチョン)アジア競技大会と2018年平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックにおける経済波及効果や競技場等のインフラ整備の計画、事後活用計画等を考察する。
これらの自治体は、競技場の事後活用計画として仮設建築物活用、民間業者への賃貸等の計画を立てている。また、当該地域の不動産価格の動向は、両大会の決定以降、ソウルより順調な上昇水準を示すなど明らかに両大会によるプラスの効果を受けている。このような隣国の例は、2020年東京オリンピック開催準備を行う日本にとって有用であると考えられる。
【キーワード】2014年仁川アジア競技大会、2018年平昌冬季オリンピック、経済波及効果、事後活用計画、不動産価格
一般財団法人日本不動産研究所 研究部 不動産エコノミスト 吉野 薫
2012年に開催されたロンドン五輪は、主要な競技会場が置かれたイーストロンドン地域の再開発を促進し、同地域に新たな活気を吹き込んだ。ただし、同地域の再開発は長期間に亘るロンドンの再生という文脈で捉えるべきであり、五輪招致のみが再開発の動機であった訳ではない。また、近時のロンドンの住宅価格の高騰の原因を五輪招致に求めることも適切とはいえない。東京への教訓として、(1)交通インフラの充実、(2)民間企業によるコミット、(3)恒久的競技施設の活用、が挙げられる。
【キーワード】2012年ロンドン大会、2020年東京大会、イーストロンドン、レガシー、見捨てられた地域の再生、都心への近接
松岡 利哉
平成26(2014)年3月末現在における山元立木価格は、2013年4月のいわゆるアベノミクス第1の矢とされる異次元緩和以降、円安基調が外材輸入価格を上昇させ、景況感の改善、金利や建築費の先高感が新築住宅需要を喚起したところに消費税増税への駆け込み需要が追い打ちをかけ、国産素材(丸太)価格は、2014年1月を頂点に急騰し、山元立木価格は、最高値を記録した昭和55(1980)年以降で最大の上昇率を記録した。
本稿では、当研究所が昨年10月16日に公表した「山林素地及び山元立木価格調」の分析に加えて、為替変動からみた山元立木価格の方向性を考察する。
キーワード:山山林素地価格、山元立木価格、為替変動
小松 広明(明海大学 不動産学部 准教授)・曹 雲珍
本研究では、東京都特別区に存するシングルタイプの賃貸マンションを対象として、まず単身居住者と不動産投資家の住戸選定における意思決定プロセスをもとに、態度レベルと意図レベルのそれぞれにおける価格形成要因の選好強度の相対比較を行った。その結果、態度レベルにおいては、単身居住者と不動産投資家のいずれにおいても「都心への接近性」に対する選好性が最も高くなることが確認された。また、意図レベルにおいては、単身居住者では「建築経過年数」が、また、不動産投資家では「最寄り駅までの距離」がそれぞれ最も高い選好性を示す結果となった。
次に単身居住者に着目し、建物の経年減価要因に関する意識について共分散構造分析を行った。分析の結果、男女とも建物の許容経過年数は10年以上15年未満とされ、リフォーム後では、当該年数が15年以上20年未満と5年程度長くなることが示された。リフォーム前においては経済的減価懸念が、また、リフォーム後では物理的減価に対する改善期待が、それぞれ許容経過年数に影響を与えていることが確認された。
キーワード:マンション、経年減価、コンジョイント分析、一対比較、共分散構造分析
曹 雲珍・小松 広明(明海大学 不動産学部 准教授)・許 智文(香港理工大学)
本研究は香港中古マンション購入者の建築経過年数に対する意識に焦点をあて、購入時の重視度と入居後の満足度という2つの視点から分析するとともに、建築経過年数に対する満足と不満に寄与する属性も明らかにする。また、香港不動産市場精通者にヒアリング調査を行うことによって購入者の建築経過年数に対する意識について確認する。その結果、購入時は「CBDへの接近性」の重視度が高いが、入居後は「眺望の良さ」が全体の満足度への寄与が高いことが明らかになった。建築経過年数に対する意識は購入時と入居後ともに高い。また、香港の中古マンションにおいては20年という建築経過年数が1つの大きなポイントになっていることが分かった。不動産市場の精通者へのヒアリング調査は、中古マンション流通しうる許容建築経過年数については一般中古マンション購入者の回答より10年長く、築30年という意見が一番多かった。但し、転売利益を考えると、一般的には築20年以内であるという意見がほとんどであった。また、許容建築経過年数の判断根拠としては建物自体よりもエレベーターなど施設的な老朽化の影響が大きいことや、リフォームによって住宅価格は5~10%程度上昇することが分かった。
キーワード:中古マンション、建築経過年数、購入時の重視度、入居後の満足度
関 智文(弁護士)
外国鑑定理論実務研究会