不動産研究 58-3

第58巻第3号(平成28年7月)
特集:まちづくりと駐車場 -まちづくりにおける駐車施設の現状と課題-

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特集:まちづくりと駐車場 -まちづくりにおける駐車施設の現状と課題-

都心部における駐車場の整備実態と附置義務駐車施設緩和の動向

日本大学 理工学部 教授 小早川 悟

 本稿では、わが国における駐車場整備の変遷と駐車場整備に係る法制の整理を行い、都心部における駐車場整備の状況を路上駐車実態と路外駐車場の整備状況から把握した。さらに、近年の駐車政策の動向として、附置義務駐車施設の緩和の考え方とその先進事例を東京都千代田区、渋谷区、新宿区の事例をもとに整理した。そして最後に、このような状況を踏まえたこれらの駐車政策の動向についての考察を行った。

【キーワード】:駐車場整備、附置義務駐車施設、駐車政策、地域ルール
【Key Word】Parking Lots Development, Equipment-duty Car-park, Parking Policy, Regional Rule

 

投資採算性からみた市街地再開発事業による駐車場集約の効果
 -横浜市におけるケーススタディ-

駐車場不動産研究会 中原 洋一郎

 横浜市内に設定したモデル地区において市街地再開発事業を実施することを想定し、駐車場運営事業者が駐車場床を取得する場合に、収益的な観点からどのような条件を満たす必要があるのかを試算により分析した。その結果、駐車場の収益性が高まり投資回収が可能となるか否かは、再開発の交付金による原価床価格の低減が影響するとともに、駐車需要の状況(稼働率、料金収入、家賃負担率等)、ひいてはその需要を喚起する専門事業者のノウハウに依存することが推定された。また、隔地駐車場制度を活用し、自敷地内で附置義務駐車場を設置せずに中規模ビルを建築する場合の経済効果を、土地に対する投資可能額の試算によって分析した。その結果、附置義務駐車場の隔地による整備は、土地に対する投資可能額の増加をもたらすことが推定された。

【キーワード】市街地再開発事業、駐車場、ケーススタディ、投資採算性分析
【Key Word】Urban redevelopment project、Parking lot、Case study、Profitability analysis

 

附置義務駐車施設の設置基準における国と自治体の運用に関する考察

駐車場不動産研究会 山越 啓一郎

 わが国では駐車場整備地区等で一定規模以上の建物を建設・保有する場合に駐車施設を附置することが義務づけられているが、その設置台数・隔地等を決める運用基準については自治体の条例にゆだねられている。本研究では附置義務駐車施設に関して、国土交通省の駐車場整備方針と主要な自治体の運用基準を比較した。その結果、国土交通省は中心市街地に対して駐車場の集約化を進めようとしているが、自治体はその考えには概ね同調していても条例等の整備が追いついていないことがわかった。国と一部の自治体との間で附置義務駐車場の整備方針の方法論の面で大きな違いがあり、それが原因でなかなか歩み寄れない状況にあるのではないかと考えられる。

【キーワード】駐車場条例、附置義務駐車施設、駐車附置の特例、駐車場の隔地、共同駐車場制度
【Key Word】Parking ordinance, Attachment obligation parking facility, Special case of attachment, Separated parking facility, Common parking area system

 

調査

最近の地価動向について
 -「市街地価格指数」の調査結果(平成28年3月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は平成28年3月末現在の「市街地価格指数」を5月24日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(平成27年9月末比、以下同じ)0.2%の下落となり、地価下落傾向は継続したものの、下落幅は縮小した(前回0.3%下落)。
  • 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、「関東地方」、「近畿地方」を除く全ての地方において下落が続いているが、下落幅は縮小した。中でも、「九州・沖縄地方」では下落幅の縮小傾向がより顕著に見られた。
  • 「近畿地方」は、全用途平均で前期比0.1%となり、8年ぶりに地価はプラスに転じた。
  • 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、「東京圏」は前期比0.6%上昇(前回0.5%上昇)、「大阪圏」は同0.4%上昇(前回0.3%上昇)、「名古屋圏」は同0.3%上昇(前回0.2%上昇)となった。
  • 「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比2.2%上昇(前回2.1%上昇)、住宅地が同0.8%上昇(前回1.0%上昇)、工業地が同1.2%上昇(前回0.8%上昇)、全用途平均で同1.5%上昇(前回1.5%上昇)、最高価格地が平均で前期比4.9%上昇(前回4.8%上昇)となった。
  • 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、投資市場における取得競争の活性化、外国人観光客の増加等による繁華性の高まりをうけ、上昇傾向が続いている。
  • 今後については、「全国」では概ね今回と同程度の地価動向が継続する見通しである。三大都市圏の最高価格地では、地価上昇が継続する見通しであるが、上昇幅は縮小していく見通しである。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率                             
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

キーワード:市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

 

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2016~2020年、2025年)・2016春について

手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2016~2020年、2025年)・2016春」を4月20日に公表した。まず成約事例を多数収集し、共益費込み賃料のヘドニック分析を行い、その結果を利用してヘドニック型の賃料指数を作成する。次に実質GDP、法人企業の売上高等を使ってオフィス床の需要量及び供給量、賃料指数を求める式を推定し、オフィス賃料変動モデルを構築する。上記モデルで、日本経済研究センターのマクロ経済の予測結果、新規供給量の予測結果等を前提に、2016~2020年及び2025年の賃料及び空室率の動向を予測する。なお今回は、日本経済研究センターがマクロ経済予測として標準シナリオと改革シナリオの2通りの予測を行ったことを受け、オフィス賃料予測も2通りの予測結果を公表する。予測結果は、①東京のオフィス賃料等の主な動向は、2018年まで賃料は上昇を維持するが、2019年の大量供給により空室率が上昇して、賃料はやや下落する。2020年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは上昇傾向で推移する。②大阪のオフィス賃料等の主な動向は、2018年まで新規供給が少なく、賃料は3%前後上昇し、2019年の大量供給で一息つく。2020年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは上昇傾向で推移する。③名古屋のオフィス賃料等の主な動向は、2015~2017年の名古屋駅周辺の大量供給で2017年に空室率が上昇し、賃料が下落するが、影響は小幅に留まる。2020年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは上昇傾向で推移する。

キーワード:賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

最近の不動産投資市場の動向
 -第34回不動産投資家調査結果(2016年4月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第34回不動産投資家調査」の結果を5月24日に発表した。
今回の調査(2016年4月)は、2016年1月に導入された日銀の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」によって不動産投資家の投資姿勢や期待する利回り等にどのような変化が現れるか注目された。既にアベノミクスによって好調なREIT市場等を背景に旺盛な投資マネーが不動産投資市場に流れ込んでおり、熾烈な物件取得競争よって利回りの低下が進み、一部にはファンドバブル期を下回る利回り水準での取引がみられるようになっていた。不動産投資家の期待する利回りが過去最も低い水準に到達しつつあった中で、マイナス金利政策が導入され、不動産投資家の投資姿勢や不動産投資に期待する利回りにどのような変化をもたらすか注目が集まった。

 このような状況下で実施された今回の調査結果(2016年4月)の概要は以下のとおりである。

  • 不動産投資家のAクラスビル(オフィス)の期待利回りは、東京「丸の内、大手町」が3.7%となり、本調査で過去最も低い水準となった。日銀の量的緩和等を背景に旺盛な投資需要が利回りの低下に影響した。ただし、東京の「赤坂」「六本木」「港南」「渋谷」「池袋」や「横浜」「大阪(梅田)」では前回比横ばいとなり、利回りの下げ一辺倒の動きに変化が見られ、今後の動向が注目される。賃貸住宅一棟(ワンルームタイプ)の期待利回りは、東京「城南」地区が4.7%で下げ止まったが、東京「城東」地区やその他の地方都市では前回に続き0.1~0.2ポイント低下した。2020年の東京五輪等を背景に投資需要が拡大しているホテルは、都心での市場過熱を受け「東京」の期待利回りが下げ止まったものの、その他の地方都市では0.1~0.2ポイントの低下が続いた。
  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」の回答が88%で、前回比1ポイント上昇し、「当面、新規投資を控える」の回答が10%で前回比2ポイント低下した。一部に投資市場の過熱感が指摘される中で、不動産投資家の期待利回りや投資姿勢等の動向が注目されたが、結果的には前回に続き、全体として積極的な投資姿勢が維持されており、日銀が本年1月に導入したマイナス政策の動きもこれに影響したと考えられる。

キーワード:不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

 

論考

マイナス金利が日本の住宅不動産市場に与える影響の実証分析

金 東煥

 2016年に入って日本銀行はマイナス金利政策を導入した。一般的に利子率の下落は資産価格の上昇を引き起こすとされている。本稿では今回のマイナス金利が日本の住宅不動産市場(首都圏の中古住宅対象)へ与える動学的影響を実証分析した。実証分析は、利子率、物価、住宅価格等の使用変数間の関係を経済理論に基づいて構造的に識別する構造VARモデルを構築し、インパルス反応関数と予測誤差の分散分解を用いて行った。実証分析は、利子率の下落が物価、消費、住宅価格の上昇を引き起こすという経済理論に一致する結果を示した。この結果は、2点を示唆する。第一に、本稿での経済理論に基づく仮説のもとで、マイナス金利政策は日本の住宅不動産市場に対してポジティブな動学的影響を与えるが、その影響は4ヶ月間である。第二に、日本銀行によるマイナス金利の外生性を考慮したうえで、利子率下落による住宅価格の反応を考慮すると、今後、利子率(2016年4月現在平均コールレート-0.037%)が-0.1%になる場合、想定住宅価格は現在対比で約8%上昇し、利子率が-0.15%になると、想定住宅価格は現在対比約15%上昇するだろう。

キーワード:マイナス金利、住宅不動産市場、構造VARモデル、住宅価格、金融政策
Key Word:Negative Interest Rate, Residential Property Market, Structural VAR Model, Housing Price, Monetary Policy

 

米国における投資移民制度(EB-5プログラム)の考察

金 東煥

 海外からの投資資金を活用した国内不動産市場の活性化は、人口減少・少子高齢化社会の到来等の厳しい環境に取り巻かれている日本の持続的経済成長へ寄与する可能性が高いと指摘されている。諸外国では、海外からの投資資金を活用した不動産市場活性化の様々な取り組みが行われており、特に、1990年に導入された米国の投資移民制度(EB-5プログラム)が不動産やインフラ開発等へ海外からの投資資金を積極的に導入する例として挙げられている。EB-5プログラムはリーマンショック後の不動産開発業界が直面した資金難の解消に寄与して不動産市場の活性化を伴う地域経済活性化の役割を果たしていると評価されている(2010年から2013年までEB-5プログラムの経済効果:約35.8億ドル)。一方、現在のEB-5プログラムは、雇用創出ターゲット・エリアの指定方法によっては、開発に容易な地域へとEB-5の投資資金を集中させ、EB-5プログラムの意図した地域へ投資資金が流入しない現象が発生する等の改善すべき課題も持っており、米国政府の今後の対応が重要とされる。

キーワード:投資移民制度、EB-5、外国人投資家、経済効果、不動産市場
Key Word:Investor Immigration Program, EB-5, Foreign Investor, Economic Effect, Property Market

 

韓国マンション住宅市場に関する研究
 -統計データからマンション住宅市場の特徴をみる-

曹 雲珍

 本研究は一般社団法人不動産流通経営協会の平成26年度研究助成報告「中古マンションの賃借人及び購入者における建築経過年数の意識に関する国際比較分析」の一部であり、アンケート調査分析や国際比較分析などを行う前に韓国マンション住宅市場の全体像を把握するための基礎研究である。
 韓国マンション住宅市場の特徴は、(1)マンション住宅市場は、売買(流通)市場、チョンセ市場、純枠な賃貸市場(ウォルセ市場)という3つの市場が存在している。これはマンション住宅市場に関わらず、住宅市場全体の特徴とも言える。(2)中古マンション住宅の流通量が高い。(3)売買価格とチョンセ価格の相関が高いにもかかわらず、動向が異なっている。近年、チョンセ価格は高い上昇を示したのに対して、売買価格は比較的に安定している。(4)チョンセの割合は減少傾向にあるが、保証金付きウォルセの割合は増加傾向にあり、賃貸市場に構造変化が現れている。

キーワード:韓国マンション住宅市場  韓国マンション住宅賃貸市場  韓国マンション住宅流通市場

 

The Appraisal Journal Winter 2016

外国鑑定理論実務研究会

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