不動産研究 58-4

第58巻第4号(平成28年10月)
特集:国際競争力を高める都市再生

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特集:国際競争力を高める都市再生

国家戦略特区の都市再生プロジェクトと国際的経済活動拠点の形成

内閣府 地方創生推進事務局 参事官 塩見 英之

 国家戦略特区は、区域を限って規制の特例を認め、特例を活用した事業の推進により、産業の国際競争力の強化、国際的な経済活動拠点の形成を目指す制度である。この特例の一つとして、容積率の緩和や都市計画手続等の簡素化・ワンストップ化の特例を設け、スピーディに国際的な経済活動の拠点形成等に必要なプロジェクトを進められる特別な仕組みを設けている。東京圏では、既に、経済波及効果10兆円規模にのぼる計29の個性的なプロジェクトが進行しており、今後2年間でプロジェクト数を100とする構想も進んでいる。東京都の小池新知事も、特区の徹底活用により国際金融都市等の実現を図る姿勢を明確にしている。ビジネス、生活の両面で「世界一ビジネスのしやすい」都市に再生し、我が国経済を将来にわたって牽引しうる「東京」とすることが求められている。

【キーワード】国家戦略特区、都市再生プロジェクト、ワンストップ化、迅速化、経済波及効果
【Key Word】national strategy special zone, urban regeneration project, one-stop service of the administrative procedures, speed up, economic ripple effect

 

国際競争力強化に向けたUR都市再生機構の取組み
 -虎ノ門周辺の活動と今後の課題-

独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部 都心業務部 担当部長 竹内 英雄

 独立行政法人都市再生機構(以下、「UR都市機構」と表記)は、環状2号線の開通を契機に大きく変貌を遂げようとしている虎ノ門周辺において、国際競争力の強化に向け「国際ビジネス・交流拠点」を目指してまちづくりに取り組んでいる。具体には地域まちづくりの支援から個別事業の実施、地下鉄新駅の整備、エリアマネジメント等を行っており、その活動内容を報告する。

【キーワード】国際競争力強化、虎ノ門周辺、国際ビジネス・交流拠点、UR都市機構
【Key Word】Reinforcement of the international competitiveness、Toranomon、International business, interchange base、Urban Renaissance Agency

 

投稿

国境を越える寄付によって建設された不動産の管理運営
 -パリ国際大学都市の90年-

新潟大学 工学部 准教授 寺尾 仁

The Cité internationale universitaire de Paris is a dormitory complex. It started to be developed from 1923 at the most southern part of Paris. It contains now 37 dormitories constructed by donation and will have 10 more shortly. This paper analyses the administration systems of this complex and its crisis which the Cité and some dormitories have undergone and overcome. The donator of a dormitory gives its ownership to the University of Paris and they established the National Foundation, private corporation, which takes in charge of the Cité. If this system succeeds, the war or the lack of communication among the donator, the manager and the residents put the Cité into crisis.

キーワード:寄付、不動産管理、パリ、学生寮 国際
Key Word:donation, real estate administration, Paris, international, dormitory

 

入居者の表明選好データを用いた賃貸用共同住宅のリフォーム後の賃料プレミアムに関する研究

明海大学 不動産学部 准教授 小松 広明

 本研究では、首都圏の賃貸マンション及びアパートを対象として、居住者のリフォーム工事に対する質的評価と当該リフォーム工事に対する賃料プレミアム及び賃料ディスカウントの推計を行った。
 その結果、賃料プレミアムは、住戸の属性に着目すると、建築経過年数の増大とともに低下する傾向にあることが示された。また、入居者の性別・年齢別にみると、20代の男性が最も高い支払意思額を示していること、さらに、住戸に対する満足度と支払賃料に対する割高感は、いずれも賃料プレミアムに対して負の影響を与えていることが明らかとなった。一方、賃料ディスカウントについてみると、賃料プレミアムと同様に、建築経過年数に即応して低下傾向を示すとともに、入居者の性別・年齢別においては、20代の男性の示す賃料ディスカントが最も高く、年齢に応じて減少する傾向も示された。これに対して、女性においては、50代の賃料ディスカウントが比較的高い値を示すものの、20代の顕著な水準の高さはみられなかった。当該結果には、女性のリフォーム工事後の住戸に対する当たり前評価(住戸の不備に伴う不満の惹起)の思考が少なくとも反映されているものと考えられる。

キーワード:賃貸用共同住宅、リフォーム、賃料プレミアム、ベイズ統計モデル

 

調査

全国のオフィスビルストックの状況
 -「全国オフィスビル調査(2016年1月現在)」の結果をふまえて-  

手島 健治

 日本不動産研究所は、2016年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2016年9月13日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。
①2016年1月現在のオフィスビルストックは、全都市で11,116万㎡(8,636棟)となり、このうち2015年の新築が179万㎡(65棟)と200万㎡割れが続き、2015年の取壊しは87万㎡(78棟)であった。今後3年間の竣工予定は545万㎡(174棟)で、東京区部が7割と高い。
②新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市で2,951万㎡(2,623棟)と総ストックの27%を占める。都市別では福岡(41%)、札幌(40%)が4割を超え、京都(37%)、大阪(33%)と続いて多い。
③大阪と名古屋について地区別に最近の新築をみると、JR大阪駅周辺(梅田地区)とJR名古屋駅周辺(名駅地区)に床面積ベースで各都市の7割以上が集中している。

キーワード:全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

 

近年の中古マンション市場の動向と今後の展望
 -「不動研住宅価格指数」の調査結果(平成28年6月時点)をふまえて-

曹 雲珍・山越 啓一郎

 「不動研住宅価格指数」は、当初、2011年4月26日より株式会社東京証券取引所から「東証住宅価格指数」の名称で公表されたものであった。同指数は、2014年12月30日の公表をもって更新を終了することになり、その後日本不動産研究所が引き継いで、2015年1月27日から現在の名称で公表している。
 8月30日に公表した2016年6月時点の「不動研住宅価格指数」によると、首都圏は87.90ポイントで、2012年8月から概ね上昇傾向で推移し、2007年ミニバブルの時の最高値である2007年10月の89.32ポイントに近づいてきた。地域別では、東京都は96.53ポイントで、前年同期比は4.54ポイント上昇し、ミニバブルの時の最高値を超え、近年の最高水準となった。神奈川県は82.80ポイント(前年同期比2.34ポイント上昇)、千葉県は69.61ポイント(同5.26ポイント上昇)、埼玉県では69.85ポイント(同1.00ポイント上昇)となった。

キーワード:不動産住宅価格指数、中古マンション、価格上昇、市場動向

 

論考

韓国マンション市場における建築経過年数に対する居住者の意識分析

曹 雲珍・小松 広明

 本研究は、韓国マンション市場における建築経過年数に対する居住者の意識に焦点をあて分析した。建築経過年数への許容程度に影響する要因をみると、賃借人と購入者の大きな違いは転売利益があげられる。購入者は転売利益のため、積極的にリモデリングを行って資産価値を高める。それにより、建築経過年数が古いマンション住宅も流通しやすくなっている。韓国の消費者は住宅が投資資産であるという意識が強いため、自己負担で住宅の資産価値を高めていると思われる。国際分析では香港でも韓国と同様な傾向がみられた。香港でも転売利益があるからこそ自発的にマンションの修繕工事を行って資産価値を高め、古いマンション住宅の流通性が高まった。比較してみると、日本では一般消費者が中古住宅に対する敬遠的な心理要因は改善されつつあるが、住宅に対する消費財としての認識は根強く、住宅への投資意識は依然として薄い。従って、日本の住宅流通市場を活性化させるためには一般消費者の意識改善が不可欠であると言える。

キーワード:マンション住宅、建築経過年数、居住者満足度、ロジスティック回帰分析

 

首都圏におけるマンション価格と賃料の長期均衡関係分析

金 東煥・小松 広明

 本稿では、首都圏のマンション取引市場における住宅価格指数と賃料指数の長期均衡関係を各地域別・2008年以前と以降の期間別にVECモデルで比較分析した。分析結果として、①2008年以降の首都圏の住宅価格の変動は、賃料の変動に比べて相対的に大きく変動するようになった。このことは長期の弾性値に反映されている。②当該住宅価格は、長期均衡関係からの乖離による調整が急速に進んでいる。さらに、③各地域別の住宅価格は、東京都、神奈川県、埼玉県の順で当該関係への調整速度が速い。つまり、本稿は、2008年リーマンショック以降の首都圏の住宅価格は当該均衡関係からの乖離が以前と比べて拡大し、東京都の住宅価格はリーマン以前や他の地域より当該関係から大きく乖離しているため、今後は何らかの価格調整が生じる可能性がある。しかし、2020年までの予測によると、東京都の住宅価格は2020年まで上昇(対現在比約+12%)して、首都圏の住宅価格は東京都における住宅価格の上昇に支えられて推移していくものと予測される。

キーワード:首都圏、住宅価格、VECモデル、長期均衡関係、予測
Key Word:Greater Tokyo Area, Residential Property Price, VEC Model, Long Run Equilibrium, Forecast

 

土地価格比準表改正のポイント

髙岡 英生

 土地価格比準表は、国土利用計画法における価格審査を迅速かつ公平に実施することを目的として作成されている。
 この土地価格比準表は、平成6年以降改正が行われていなかったが、昨今の不動産市場を取り巻く環境や国民の不動産に対する意識の変化に対応するため、国土交通省が日本不動産研究所に調査を委託し、平成25年度から平成27年度までの3ヵ年度にわたって見直しのための検討が実施された。
 本稿では、平成6年以来、22年ぶりに改正された土地価格比準表について、改正の背景を説明するとともに、そのポイントを紹介する。

キーワード:土地価格比準表、不動産市場の変化、国民の意識の変化

 

判例研究

都市再開発法91条1項に基づく借家権者の対価補償の要否と借家権価格
 -東京地裁平成27年6月26日・東京高裁平成27年11月19日裁判所ウェブ-

島田 博文

 判旨:都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業において同法71条3項による申出をした借家権者について、同法91条1項に基づく対価補償の価額を0円と定めた権利変換計画及び収用委員会の裁決が適法であるとされた事例

 

The Appraisal Journal Spring 2016

外国鑑定理論実務研究会

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