不動産研究 59-1

第59巻第1号(平成29年1月)
特集:不動産テックの鍵を握るビッグデータとGIS

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新しい年(丁酉年)を迎えて

特集:不動産テックの鍵を握るビッグデータとGIS

先端技術を活用した不動産情報化(不動産テック)の潮流と施策

国土交通省 土地・建設産業局 企画課 地価調査課 地籍整備課 不動産業課 不動産市場整備課

 我が国の不動産市場においては、情報の非対称性の存在が指摘されており、市場の透明性の向上が課題として挙げられている。また、近年は災害の激甚化等に伴い、消費者の住まい選択の意識においても変化がみられ、消費者や投資家に対する情報提供の充実を図ることが必要となっている。本稿では、国土交通省が行っている不動産情報の提供の現況及び今後の施策について紹介するとともに、不動産分野における最新のITの利活用の動向を紹介する。

【キーワード】不動産テック
【Key Word】Real Estate Tech

 

GISを活用した時空間ビッグデータ分析
 -マイクロジオデータで見る我が国の現在と将来-

東京大学 空間情報科学研究センター 助教 秋山 祐樹

 近年GISを活用して時空間ビッグデータを分析・活用し、都市や不動産に関する課題に取り組もうとする動きが広がりつつある。そこで本稿では位置情報や時間情報を持つ時空間ビッグデータである「マイクロジオデータ」を、GISを用いて分析している研究事例を紹介する。まず我が国の「現在」の姿を把握するための研究として「店舗・事業所1件1件の分布と変遷の把握」と「震災ビッグデータ~日本全国の建物構造等の推定と大規模地震時における被災リスク評価~」を、続いて我が国の「将来」の姿を推定するための研究として「将来の生活困難地域の分布推定」と「人口減少に伴う将来の空き家増加推定」を取り上げる。最後に時空間ビッグデータを活用していく上での課題と、今後の展望について総括する。

【キーワード】 GIS、ビッグデータ、マイクロジオデータ、空間分析、将来推定
【Key Word】 GIS, Big Data, Micro Geodata, Spatial Analysis, Future Estimation

 

GISを活用したビッグデータと不動産市場分析

国立研究開発法人国立環境研究所 地球環境研究センター 特別研究員 村上 大輔

 GIS(Geographic Information System)やIoT(Internet of Things)の普及・発展に伴い、不動産分野における空間データ(位置情報に結び付けられたデータ)の利活用が活発化してきている。そこで本稿では、不動産市場分析におけるGISの役割を、実例を交えながら整理する。そのために、まずはGISの全般的な動向、及び不動産に関連したGISの動向を概観する。次に、ビッグデータ(具体的には高分解能リモートセンシング、携帯GPS(Global Positioning System)、及びジオタグ付きテキストデータ)を活用した不動産市場のGIS分析を紹介する。最後に、以上の結果も踏まえながら、不動産市場分析におけるGISやビッグデータの今後の動向について簡単に議論する。

【キーワード】地理情報システム、リモートセンシング、ヘドニック・アプローチ、ビッグデータ
【Key Word】Geographic Information System、Remote sensing、Hedonic approach、BigData

 

不動産の新しい可能性への挑戦

一般財団法人日本不動産研究所 企画部 主席専門役 幸田 仁

 2000年前後のパーソナルコンピュータ及びインターネットの普及は、情報技術の大きな変革(IT革命)をもたらした。インターネットの普及とともに、ネットワークを活かした情報機器、インターネットを利用したソーシャルネットワークサービス(SNS)のほか、日々の経済活動等により記録された電子情報を大量に蓄積した情報(いわゆるビッグデータ)等が利用可能となった。合わせてスマートフォンに搭載された各種センサー等の技術の高度化は、音声や画像認識に関する新たな技術を生み、コンピュータによる学習能力を高め、新しい考え方による人工知能技術(AI)にも波及し、これらビッグデータやAI、あるいは様々な機器等がインターネットと接続する(IoT)等を含め、第四次産業革命とも言われる時代となった。本稿は、第四次産業革命が、今後の不動産鑑定業界あるいは不動産鑑定評価実務に対してもたらす効果と、今後の不動産鑑定評価実務として、目指すべき方向性について考察する。

【キーワード】ビッグデータ、プロスペクト理論、人工知能、基本的考察、鑑定評価、ディープラーニング、効用

 

調査

山林素地及び山元立木価格の動向と低炭素社会の行方
 -平成28(2016)年調査結果をふまえて-  

松岡 利哉

 平成28(2016)年3月末現在における山元立木価格は、平成26(2014)年調査において住宅着工の消費増税への駆け込み需要等により昭和55年以降で最大の上昇率を記録した後、前回調査に引き続き、杉、桧の主要な樹種で下落が継続した。素材(丸太)は、木質バイオマスエネルギー利用としての需要に明るさも見えてきたが、用材需要の弱い状況が継続し、素材価格は不安定で弱含みに推移しており、山元立木価格の脆弱な需給構造を示す結果となった。
 本稿では、当研究所が平成28(2016)年10月31日発表した「山林素地及び山元立木価格調」の分析に加えて、平成21(2009)年のJREIセミナーにおいて報告した「CO2吸収量(ストック量)に着目した森林の評価」に関連し、低炭素社会推進の源となっている国連気候変動枠組条約の最近の動きを中心に紹介する。

キーワード:山林素地価格、山元立木価格、素材(丸太)価格、国連気候変動枠組条約

 

最近の地価動向について
 -「市街地価格指数」の調査結果(平成28年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は平成28年9月末現在の「市街地価格指数」を11月24日に発表した。「市街地価格指数」 から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(平成28年3月末比、以下同じ)0.1%の下落となり、地価下落傾向は継続したものの、下落幅は縮小した(前回0.2%下落)。
  • 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、「関東地方」、「近畿地方」、「九州・沖縄地方」は、横ばい若しくは上昇傾向となった。その他の地方においては下落が続いているが、下落幅は縮小傾向にある。
  • 「九州・沖縄地方」は、全用途平均で前期比0.1%となり、23年半ぶりに地価はプラスに転じた。
  • 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、「東京圏」は前期比0.6%上昇(前回0.6%上昇)、「大阪圏」は同0.4%上昇(前回0.4%上昇)、「名古屋圏」は同0.2%上昇(前回0.3%上昇)となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比1.5%上昇(前回2.2%上昇)、住宅地が同0.7%上昇(前回0.8%上昇)、工業地が同1.3%上昇(前回1.2%上昇)、全用途平均で同1.1%上昇(前回1.5%上昇)、最高価格地が平均で前期比4.6%上昇(前回4.9%上昇)となり、上昇傾向が続いているが上昇の勢いは弱まりつつある。
  • 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、投資市場における取得競争の活性化、外国人観光客の増加等による繁華性の高まりをうけ、上昇傾向が続いている。
  • 今後については、「全国」では概ね今回と同程度の地価動向が継続する見通しである。三大都市圏の最高価格地では、地価上昇が継続する見通しであるが、上昇幅は縮小していく見通しである。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率           
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率             
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市            
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市            
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

キーワード:不動市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

 

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
 -「全国賃料統計」の調査結果(2016年9月末現在)をふまえて-

手島 健治

 当研究所は2016年9月末時点の「全国賃料統計」を11月24日に公表した。オフィス賃料は、全地点の3割強が上昇となり、地方中核都市等で上昇幅が拡大するも、三大都市圏では上昇幅が縮小する地点が増え、全国平均は1.6%上昇と上昇幅がやや縮小した。今回の上昇を2007年のファンドバブル期と比較すると、上昇地点数は近づいているが、5%以上の上昇がファンドバブル期の20地点に対して、今回は1地点と少なく、薄く広い範囲の上昇といえる。共同住宅賃料は、全地点の約8割が横ばいで、全国平均は9年ぶりにわずかな上昇に転換した。1年後の2017年9月末時点についてオフィス賃料は三大都市圏等で上昇幅が縮小する地点が多く、名古屋市では大量供給により下落に転換することが予想され、全国平均は0.9%上昇と上昇幅がやや縮小し、共同住宅賃料は今期と同様に横ばいが継続する見通しである。

キーワード:全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

 

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測  
(2016~2020年、2025年)・2016秋について

手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2016~2020年、2025年)・2016秋」を10月27日に公表した。まず成約事例を多数収集し、共益費込み賃料のヘドニック分析を行い、その結果を利用してヘドニック型の賃料指数を作成する。次に実質GDP、法人企業の売上高等を使ってオフィス床の需要量及び供給量、賃料指数を求める式を推定し、オフィス賃料変動モデルを構築する。上記モデルで、日本経済研究センターのマクロ経済の予測結果、新規供給量の予測結果等を前提に、2016~2020年及び2025年の賃料及び空室率の動向を予測する。なお前回に引き続き、日本経済研究センターが中期経済予測で標準シナリオと改革シナリオの2通りの予測を行ったことを受け、オフィス賃料予測も2通りの予測結果を公表する。予測結果は、①東京のオフィス賃料等の主な動向は、2017年まで賃料は上昇を維持するが、2018・2019年の大量供給により空室率が上昇し、賃料はやや下落する。2020年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは2%前後上昇が継続する。②大阪のオフィス賃料等の主な動向は、2018年まで新規供給が少なく、賃料は3~5%上昇し、2019年の新規供給がやや多く、一息つく。2020年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは2%前後上昇が継続する。③名古屋のオフィス賃料等の主な動向は、2015~2017年の名古屋駅周辺の大量供給で2017年に賃料が下落するが、影響は小幅に留まる。2020年以降の賃料は標準シナリオで微増、改革シナリオでは3%前後上昇が継続する。

キーワード:賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

 

最近の不動産投資市場の動向
 -第35回不動産投資家調査結果(2016年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第35回不動産投資家調査」の結果を2016年11月24日に発表した。
調査結果(2016年10月)の概要は以下のとおりである。

  • 不動産投資家のAクラスビル(オフィス)の期待利回りは、東京及び主な政令指定都市において前回比で横ばいの地区と0.1~0.2ポイント低下した地区とが混在する結果となった。前回調査において、本調査開始以降最も低い水準となった「丸の内、大手町」の期待利回りは、今回調査では、前回比で横ばいとなったが、「赤坂」「西新宿」「渋谷」などでは前回比で0.1ポイント低下した。2013年以降続いた期待利回り低下の動きに変化が見られ、今後の動向が注目される。一方、賃貸住宅一棟(ワンルームタイプ)の期待利回りは、「札幌」「仙台」で横ばいとなったものの、全体的に低下傾向が続き、東京「城南」「城東」地区や地方都市でも0.1~0.2ポイント低下した。2020年の東京五輪等を背景に投資需要が拡大しているホテルは、都心での市場過熱を受け「東京」の期待利回りが4.8%となり、「東京」のホテルは本調査開始以降、最も低い水準となった。
  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」の回答が85%で、前回比3ポイント低下し、「当面、新規投資を控える」の回答が11%で前回比1ポイント上昇した。不動産投資市場の過熱やピーク感が指摘されつつある中、今回の調査では、不動産投資家の現状認識にも温度差が現れ始め、不動産投資市場は踊り場を迎えつつある。

キーワード:不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

 

The Appraisal Journal Summer 2016

外国鑑定理論実務研究会

資料

・2016(平成28年)[第58巻第1号~第58巻4号]目次一覧

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