不動産研究 59-2

第59巻第2号(平成29年4月)
特集:循環型都市への再生を目指す新たな取組み-都市木造・木質化・都市再生-

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特集:循環型都市への再生を目指す新たな取組み-都市木造・木質化・都市再生-

循環型資源としての都市木造の普及促進に向けた課題   
 -森と都市の共生を実現するCLTの可能性-

東京大学 生産技術研究所 教授 腰原 幹雄

 都市木造の役割は、森林から間接的にさまざまな恩恵を受けている都市で森林について考えるきっかけとなることである。近年、注目されているCLTの価値は、森林資源の活用としては小曲がり材のB材丸太や低ヤング係数材を活用することであり、建築としては厚板の面材という日本の長い木造建築の歴史の中でも手に入れることのできなかった材を用いた木造建築を実現できるようにしたことである。森と都市の共生、森林資源の有効活用と新しい木造建築という視点にたつとCLTだけでなく、森にあるすべての資源を都市木造に生かしていくことを考えてみることが重要である。

【キーワード】製材、再構成材、防耐火、部材の標準化 

 

都市の木質化プロジェクト
 -森林と都市の持続的調和をめざして-

名古屋大学 大学院 生命農学研究科 教授 佐々木 康寿
名古屋大学 大学院 生命農学研究科 准教授 山崎 真理子

Japan has been estimated to possess sufficient forest resources to eliminate the dependence on imported timber, which provides 70% of the current domestic demand. However, an ever larger number of forest areas are left to deteriorate, causing serious damage to their ecosystems. Unlike the conventional approach of human communities, economic activities in future communities will have to adapt to the environmental rhythm of resources. In this regard, large-scale inputs of forest resources (timber) into urban areas will need to be taken into consideration for the foreseeable future. Urban areas that enjoy the multiple services provided by forests have an obligation to actively promote wood utilization in their design.

【キーワード】森林資源,木材利用,都市部,住民協働,学際的研究
【Key Word】Forest resource, Wood utilization, Urban area, Public collaboration, Interdisciplinary research

 

世界から注目を集める米国ポートランド市の都市再生
 -先進的環境都市の事例から-

ポートランド市 開発局 国際事業開発オフィサー 山崎 満広

 米国オレゴン州ポートランド市は、先進的な都市開発により、若年人口の流入と経済成長を実現している。本稿は、先進的な街づくりに支えられた創造的でサステイナブルなコンパクトシティの世界的モデルとなっている同市の都市計画の変遷と、ダウンタウン荒廃地区の再開発について分析し、さらにポートランド市開発局(PDC)の都市再生による経済開発とその資金調達、市民との合意形成についてまとめたものである。また、海外への街づくりモデル輸出事例として、千葉県柏の葉スマートシティにおいて実行された、ポートランド流都市再生の事例についても紹介する。

【キーワード】街づくり、都市開発、サステイナビリティ、環境都市、地域活性化

 

調査

田畑価格及び賃借料の動向
 -平成28年調査結果をふまえて- 

松岡 利哉

 平成28年10月31日に「田畑価格及び賃借料調(平成28年3月末現在)」を公表した。本稿では、公表した調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

キーワード:田畑価格、賃借料

 

近年の既存マンション市場の動向と今後の展望
 -「不動研住宅価格指数」の調査結果(平成28年12月時点)をふまえて-

曹 雲珍

 「不動研住宅価格指数」は、当初、2011年4月26日より株式会社東京証券取引所から「東証住宅価格指数」の名称で公表されたものであった。同指数は、2014年12月30日の公表をもって株式会社東京証券取引所が更新を終了することになり、その後日本不動産研究所が引き継いで、2015年1月27日から現在の名称で公表している。
 2017年2月28日に公表した昨年12月時点の「不動研住宅価格指数」によると、首都圏は87.52ポイントで4ヶ月連続下落。地域別では、東京都は95.29ポイント(前年同期比0.79%低下)で、2015年12月からミニバブル期の最高値である2007年10月の94.90ポイントを上回り、2016年8月(97.39ポイント)に調査開始以来最高水準に達したものの、その後4ヶ月連続下落した。神奈川県は83.64ポイント(同1.81%上昇)、千葉県は68.98ポイント(同0.46%上昇)、埼玉県では71.87ポイント(同1.09%上昇)となった。

キーワード:住宅価格指数、リピート・セールス法、既存マンション、市場動向

 

論考

バブル期の地価高騰及び下落過程についての考察
 -壮大な日本の土地バブルを商業地最高価格地からみて-

中島 正人

 日本の土地バブルの地価高騰と下落の経過について、「市街地価格指数」商業地最高価格地データを用い、全国の地域を俯瞰して論じた。1987年頃までのバブル初期は、交通基盤等が整備された東京及びその周辺、名古屋、大阪、地方中枢都市で地価上昇が顕著であり、その後、近畿の周辺、地方都市へ地価高騰が波及した。その後、近畿は短いピークの後、首都圏は高原状態の後、地価が下落した。地方都市の地価下落では、タイムラグが生じた。バブル期のピーク倍率は、7倍以上の都市もあり、商業地最高価格地は地域の平均よりも高い倍率を示した。また、バブル期に地価上昇がほとんどみられなかった都市についても、その後、地価が下落していることを明らかにし、バブル崩壊のみならず、地価と地域の構造変化により、長期にわたる地価の下落が続いたことを示した。

キーワード:バブル、地価高騰、地価下落、市街地価格指数、商業地
Key Word:Japan’s Bubble,Steep Rise and Decline in Land Prices, 1980-1990, Urban Land Price Index, Commercial Areas

 

インターネット検索量データと経済指標との関係分析:不動産関連指標を中心に

金 東煥

 本稿では、不動産市況や景気動向に関するインターネットの検索量データと実際の不動産指標とマクロ経済指標を統計的手法(相関係数、グレンジャー因果性検定、相互相関関数)を用いて比較分析した。インターネットでの検索語「日経平均」と「物価」は、景気動向を表す検索量デ-タとして、日経平均株価と物価指数との比較を行った。特に「マンション価格」のインターネット検索量データは、住宅価格指数と比べて約5~11 ヶ月先行すると分析された。これは、インターネット検索量データが多くのインターネット利用者の意思等の「心理的」要因を反映するとの仮定のもとで、マンション売買希望者が「マンション価格」を検索して不動産市況を把握した上で、一定期間後、実際のマンション価格へ影響を与える行動を行うことを表すと考えられる。つまり、当該検索量データは不動産市況把握において有効な先行参考指標として活用可能であろう。

キーワード:不動産テック、検索語、検索量データ、経済指標、不動産市況
Key Word:real estate technology, search word, search volume data, economic index, real estate market condition

 

判例研究(104)

公共施設の管理者の同意に関する考察
 -高松高判平成25年5月30日(判例地方自治384号64頁)を契機として-

関 葉子

The Appraisal Journal Fall 2016

外国鑑定理論実務研究会

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