不動産研究 60-3

第60巻第3号(平成30年7月) 特集:地方創生に資する不動産証券化とファンディング

一覧へ戻る

第60巻第3号

特集:地方創生に資する不動産証券化とファンディング

地方創生と不動産流動化・証券化
-地域に眠る不動産を「稼げる不動産」、「地域価値を高める不動産」へ-

内閣府 地方創生推進事務局 参事官 松家 新治

 地方都市において、空き店舗や古民家等の遊休不動産が増加する一方で、地域資源を活用し、新たなしごとの創出、観光振興や健康長寿など、地方で拡大が見込まれるニーズに応じた地方創生の取組が進められているところであり、これらを結びつけ、「不動産の所有と利用・運営の分離」を図るなど、地域に眠る不動産を「稼げる不動産」、「地域価値を高める不動産」に転換していくことが求められます。

【キーワード】地方創生、稼げるまちづくり、不動産流動化・証券化

不動産特定共同事業法の改正の概要
-不動産特定共同事業とクラウドファンディングを活用した地方創生の推進-

国土交通省 土地・建設産業局 不動産市場整備課

 空き家・空き店舗等が全国で増加する一方で、クラウドファンディング等志ある資金を活用して不動産ストックを再生し、地方創生につなげる取組が拡大している。このような取組において不動産特定共同事業の仕組みが活用できるよう、昨年6月に成立した不動産特定共同事業法の一部を改正する法律(平成29年法律第46号。以下「改正法」という。)において「小規模不動産特定共同事業」の創設、クラウドファンディングに対応するための環境整備を行った。さらに、観光等の成長分野における良質な不動産ストックの形成に関する取組を促進することを目的として新たな事業類型を導入するとともに、既存の不動産特定共同事業に関する規制についても見直しを行った。本稿では、改正法の概要についての解説を行う。

【キーワード】不動産特定共同事業、投資、クラウドファンディング、地方創生

地方創生に資する不動産事業ファンディング
-先進事例の概要と考察-

株式会社青山財産ネットワークス 不動産事業本部 アドバンテージ・AM企画事業部 部長 東川 亨
 株式会社青山財産ネットワークス 経営管理本部 法務部 副部長 中内 啓貴
 アルファコート株式会社 専務取締役 樋口 千恵
 フィンテック グローバル株式会社 投資銀行事業部 宮田 康博
 一般財団法人日本不動産研究所 研究部 次長 兼 特定調査室 室長 佐野 洋輔

 地方都市では、まちなかの低未利用不動産の再生等による中心市街地の活性化、空き店舗・古民家等を利活用した地域ビジネス創出、地域資源を活かした観光振興や増加する高齢者等に対する医療・介護・健康分野における取り組みなど、地域の不動産ストックを有効活用した地方創生の取り組みが進められている。本稿では地方創生に資する不動産事業ファンディングの先進事例の概要と課題等を実際にアレンジメントされた民間事業者の方に紹介していただいたうえで、「地方創生に資する不動産流動化・証券化事例集」の概要やその進展の背景などを解説する。

【キーワード】地方創生、ファンディング、不動産証券化、不動産再生・開発、官民連携

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2018年3月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は2018年3月末現在の「市街地価格指数」を5月22日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2017年9月末比、以下同じ)0.2%となり、バブル崩壊後、長期にわたり下落してきたが、26年ぶりに上昇に転じた(前回0.0%)。
  • 地方別の地価動向は、「東北地方」や「関東地方」等、地価が上昇傾向にある地方では上昇が続く一方、「北陸地方」や「四国地方」では、下落傾向が続いているが下落率は縮小している。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均で見ると、「東京圏」は前期比0.7%上昇(前回0.6%)、「大阪圏」は同0.6%上昇(前回0.5%)、「名古屋圏」は同0.5%上昇(前回0.4%)となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比2.0%上昇(前回1.6%)、住宅地が同0.8%上昇(前回0.7%)、工業地が同1.4%上昇(前回2.6%)、全用途平均で同1.4%上昇(前回1.4%)、最高価格地が平均で前期比3.4%上昇(前回3.2%)となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区、池袋駅東口交差点周辺地区、上野広小路交差点周辺地区)の地価動向は、好調なオフィスの賃貸需要や新たな商業施設の開業等による繁華性の高まりをうけ、上昇傾向が続いている。
  • 今後については、「全国」では概ね今回と同程度の地価動向が継続する見通しである。三大都市圏の最高価格地では、地価は上昇傾向が継続するが、上昇幅は縮小していく見通しである。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
 最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測 (2018~2020年、2025年)・2018春について

金 東煥・手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2018~2020年、2025年)・2018春」を4月26日に公表した。まず成約事例を多数収集し、共益費込み賃料のヘドニック分析を行い、その結果を利用してヘドニック型の賃料指数を作成する。次に実質GDP、法人企業の売上高等を使ってオフィス床の需要量及び供給量、賃料指数を求める式を推定し、オフィス賃料変動モデルを構築する。上記モデルで、日本経済研究センターのマクロ経済の予測結果、新規供給量の予測結果等を前提に、2018~2020年及び2025年の賃料及び空室率の動向を予測する。予測結果は、①東京のオフィス市場の主な動向は、マクロ経済の好調により2018~2020年の大量供給の影響が縮小して、空室率の上昇幅、賃料下落幅はそれほど大きくない。2025年まで空室率は微減、賃料は緩やかに上昇する。②大阪のオフィス市場の主な動向は、新規供給が少ない状況が続く、空室率低下と賃料上昇が続く。2025年は空室率と賃料は微増する。③名古屋のオフィス市場の主な動向も、新規供給が少ない状況が続くため、空室率低下と賃料上昇が続く。2025年空室率は上昇、賃料は横ばいで推移する。

【キーワード】賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

最近の不動産投資市場の動向
-第38回不動産投資家調査結果(2018年4月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

当研究所は、「第38回不動産投資家調査」の結果を2018年5月22日に発表した。
 調査結果(2018年4月)の概要は以下のとおりである。

  1. 不動産投資家の期待利回りは、一部の調査対象地区で前回比「横ばい」となったが、緩和的な金融環境の下、全体としては0.1~0.3ポイント程度の「低下」が続く結果となった。東京のオフィスは、本調査の代表的な調査地区である「丸の内、大手町地区」が横ばいとなったが、その他の地区では「横ばい」と「低下」とが混在する結果となった。他のアセットも全体としては「低下」傾向であるが、今回調査では「商業店舗(都心型高級専門店)」の低下が際立った。訪日外国人の増加などのインバウンド関連等で各地の都心商業地の地価が上昇しているが、東京「銀座」は本調査開始以来で最も低い水準となった。
  2. 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」の回答が90%で前回比1ポイント上昇し、「当面、新規投資を控える」の回答が8%で前回と同じであった。不動産投資市場においては、米国の金利動向や日銀の金融政策などに注目が集まり、一部に踊り場懸念の指摘もあるが、全体としては、投資家の投資意欲は積極的な姿勢が維持された。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

論考

韓国の鑑定評価先進化3法と韓国鑑定院の役割
-鑑定評価に対する信頼回復と公正性向上のために-

李 珣豪

 鑑定評価先進化3法は鑑定評価の客観性及び公正性の強化、公示価格の適正性及び効率性の改善、韓国鑑定院の公的機能強化のために新たに法改正等された。鑑定評価の信頼回復と公正性の向上のために韓国鑑定院は鑑定評価業務から離れ、不動産価格公示、調査・統計、適正性管理等の新たな公的役割を付与された。本稿では、それに伴う韓国鑑定院の新たな役割について論ずる。

【キーワード】韓国鑑定院、鑑定評価先進化、価格公示、類似価格圏、妥当性調査

The Appraisal Journal Winter 2017

外国鑑定理論実務研究会

レポート/刊行物一覧へ戻る